アンドリュー クォン(Andrew Kwon)2026年春夏オートクチュール「Celestial」— 幻想が導く未来への旅

Andrew Kwon

9月16日(現地時間)、ニューヨークを拠点とする「アンドリュー クォン(Andrew Kwon)」が発表した2026年春夏オートクチュールコレクション「Celestial」は、まさに“幻想の世界”を体現するものだった。舞台となったのは、今年7月に8年ぶりに改装を終えてリニューアルオープンしたばかりのウォルドルフ・アストリア・ニューヨーク。そのクラシカルかつ新生の空間を包み込むように、16体のガウンが夜明けの光とともに現れ、観客を神話的な旅へと誘った。

『暁の女神アウロラ』から得た着想

同コレクションの出発点は19世紀フランスの画家ピエール=ナルシス・ゲランの絵画《Aurora and Cephalus》。デザイナーのアンドリュー・クォン(Andrew Kwon)は、夜明けを司る女神アウロラが空を駆ける姿に魅せられたとショー後のインタビューでOSFに語った。

「天空に浮かぶ神秘的な人物像には特別なものを感じましたし、私は昔から創造神話が好きなんです。その絵の中で描かれる空の色や、闇を突き破っていく様子に惹かれ、非常に魔法のように感じられました。」

こうした着想と共に、クォンは神話のモチーフを現代の表現へと置き換え、ドレスの造形へと昇華させた。ショーノートには「幻想とは単なる逃避ではなく、未来を夢見ることだ」と記されており、古代神話を現代に翻訳しながら、クォン自身のアイデンティティを重ね合わせた物語として展開された。

クラフツマンシップと芸術性の融合

ショーは、ピエール=ナルシス・ゲランの絵画《Aurora and Cephalus》をビーズ刺繍で精緻に再現したコルセットトップを組み込んだガウンから幕を開けた。無数のビーズが光を受けて瞬くその姿は、まるでキャンバスに描かれた女神アウロラが夜空を切り裂き、新しい光を呼び込む瞬間をそのまま布の上に宿したかのよう。

シルエットはシンプルながら、トップに施された絵画的な装飾が圧倒的な存在感を放ち、観客の視線を釘付けにした。クラフツマンシップと芸術性が融合したこのガウンは、コレクション全体の方向性を示す「宣言」のような役割を果たしていた。

Look 11 1

Look 12 1

続くルックでは、鏡面のように光を反射するシルバーやブラックのドレスが登場し、液体が流れ落ちる瞬間を閉じ込めたかのような質感を描き出した。そこから移行するように、柔らかなペールトーンのシフォンがランウェイを漂い、夜明けの空気を纏うかのごとく軽やかさを表現する。

Look 21 1

Look 52

Look 6 1

Look 8 1

さらに、花々の雫が滴るように繊細な装飾が施されたイブニングドレスが加わり、自然の移ろいを物語る多層的な世界観が構築された。

例えば、シアーなチュールと艶やかなサテンをベースに、立体的な花のモチーフを胸元とヒップラインに配置したコルセットドレスは、ボディラインを強調するシルエットでありながら、透明感のある装飾が柔らかさを添え、コントラストを生み出していた。骨格を思わせるコルセットの直線性と、天空に浮かぶ雲のように膨らむディテールの曲線が交差することで、クチュールらしい緊張感を持ち合わせる。

Look 10 1

また、淡いブルーグレーのプリーツドレスは、より構築的でありながらも柔らかさを失わない。プリーツ素材が身体に沿って交差する様は、まるで雲の切れ間から差し込む光を視覚化したかのようだ。胸元には繊細なパールビーズがあしらわれ、煌めきと共に朝露の儚さを宿していた。

Look 14 1

Look 142

そして、最後にショーを締めくくった漆黒のガウンは、まさに“幻想の極致”と呼ぶにふさわしい一着であった。流れるようなプリーツ加工を施したブラックのロングスカートに、宙を漂う花びらのようなオーガンザの立体的なトップス。さらに同素材で仕立てられたスカルプチュラルなヘッドピースが造形美を際立たせる。

女神が天空から舞い降りる瞬間を具現化したかのようなこのルックは、幻想というテーマを凝縮し、観客を静寂と陶酔へと誘うフィナーレを演出した。

Look 16 1

Look 161

「このコレクションが特別なのは、私自身とチームが注いだ膨大な努力にあります」とクウォンは語る。長い夜をかけ、新しい技法を取り入れながら挑戦を重ねた成果は、各ドレスに込められた緻密なディテールに表れていた。特に液体のように流れるプリーツ加工を施したオーガンザのガウンは、制作に2週間以上を要したという。

また、素材選びにもクォンらしいこだわりが随所に見られる。

「私は常に、これまでに見たことのないものを探し求めています。織物工場と協力して新しい色や絹織物を開発したり、自分たち独自のプリーツや生地を生み出すことにも取り組んでいます。」

Look 4 1

Final
Andrew Kwon

韓国系アメリカ人デザイナーであるアンドリュー・クォンは、コロラド州で育ち、パーソンズ美術大学(Parsons The New School for Design)で学んだ後、2020年に自身の名を冠したブランド「アンドリュー クォン(Andrew Kwon)」を立ち上げた。建築やインテリアデザインのバックグラウンドを持つ彼は、その構築的な視点をイブニングウェアとブライダルウェアに融合させ、瞬く間に注目を集めた。

ブランド創設からわずか数年で、ニューヨーク・ファッションウィークのオフィシャルスケジュールに登場。さらに、レッドカーペットや数々のセレブリティに着用されることで、若手クチュリエとして確固たる地位を築きつつある。2024年には、フォーブスの「30 Under 30」北米版初回クラス(2025年)にも選出されている。

そんな気鋭のクチュリエであるクォンが提案するのは、逃避ではなく「夢見ることを通じた前進」だ。同コレクションは、幻想を糧に次なる時代への歩みを優雅に、そして力強く示した。

アンドリュー クォン 2026年春夏オートクチュールの全てのルックは、以下のギャラリーから。

Copyright © 2025 Oui Speak Fashion. All rights reserved.