7月9日(現地時間)、デムナ(Demna)がバレンシアガ(Balenciaga)のクリエイティブディレクターとして最後となるショーを発表した。舞台となったのは、パリのアヴニュー・ジョルジュ・サンクにあるバレンシアガの本社クチュールアトリエ。長年在籍したこの場所で、彼は自らのレガシーと新たな門出の両方を詩的に描いた。
ショーでは、メゾンの歴史的なコードとオールド・ハリウッドのグラマラスな美学を重ね合わせた、デムナらしい実験性と情緒が交差するコレクションが披露された。キム・カーダシアン(Kim Kardashian)が着用したアイボリースリップドレスと白いフェザーファーのコート、そして故エリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor)が所有していたロレイン・シュワルツ(Lorraine Schwartz)のダイヤモンドジュエリーは、まさにその象徴だ。

さらに、ショーには、ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)、ケイティ・ペリー(Katy Perry)、サルマ・ハエック(Salma Hayek)、カーディ・B(Cardi B)らが来場し、華やかな顔ぶれが観客席を彩った。
一方で、ランウェイにはエリザ・ダグラス(Eliza Douglas)やミントゥ・ヴェサラ(Minttu Vesala)といった、デムナが長年信頼を寄せてきたモデルたちが登場し、彼女たちの存在が、クラシックと実験の狭間を歩んだバレンシアガの10年を象徴した。また、ショーの間には音楽の代わりに、アトリエで共に創作を支えてきたスタッフ一人ひとりのファーストネームが順に読み上げられ、クリエイションの裏側にいる名もなき職人たちへの、デムナなりの感謝と敬意が表された。
コレクションの軸となったのは、ラ・ブルジョワジー(la bourgeoisie)のドレスコードの再解釈である。そこでは、従来のクチュールに不可欠とされてきたコルセットの骨組みはあえて取り除かれ、その代わりに、伸縮性のあるベースに何層もの布地を手作業で重ねるという高度なテクニックが用いられた。その結果、ドレスは身体に密着するのではなく、まるで身体から浮かび上がるかのような構築的なフォルムへと昇華。服の構造と身体との関係性を問い直す試みであり、クラシックなシルエットに現代的な息吹を吹き込む、デムナらしい再定義である。



また、メンズラインでは、ナポリの家族経営のテーラー4社と協業した非構築的なシャツジャケットが登場した。ナポリ仕立てに特有の、丸みを帯びた柔らかなショルダーラインや、身体の動きに寄り添う軽やかな構造は、バレンシアガにおける「着心地」の概念における新たな視点だ。
デムナは、この制作にあたり、ボディビルダーの友人を現地に4度送り、その逞しい体格に合わせて特注スーツを制作したという。その型紙をもとに、異なる素材で9種のスーツを仕立て、さまざまな体型の男性モデルに着用させたことで、「服が身体を形づくるのではなく、身体が服の構造を決定する」という彼の一貫した思想が視覚化された。


ショーの後半には、ファーで覆い尽くされたオフホワイトの大胆なガウンや、黒のスパンコールで彩られたゴージャスなディーヴァドレスが現れ、デムナが抱くハリウッド黄金時代への憧憬が色濃く反映された。さらに、世界最軽量のテクニカルオーガンザで仕立てられたピンクのデビュタントドレスや、ミニマルながらも洗練されたブルーやイエローのドレスでは、素材とフォルムの美しさが際立っていた。





最後に、デムナのこれまでの輝かしい集大成として披露されたのは、ギュピールレースによるハイネックの円錐型ドレスだった。ミリネリー技術を用いて縫い目なく仕立てられたこのルックは、パリとデムナの関係を象徴するクチュールの花嫁として、フィナーレの祝福にふさわしい存在感を放つものだった。

こうして、デムナ時代のバレンシアガは、壮大かつ私的な祝祭のうちに終幕を迎えた。また、同日には、パリのケリング本社で開催されていた展覧会『バレンシアガ・バイ・デムナ』もクロージングを迎えた。同展は、2015年から2025年までの10年間にわたる彼の創作を回顧し、バレンシアガにおける主要なコンセプトとテーマを多角的に探る内容であった。
次なるデムナの舞台は、グッチ(Gucci)だ。近年、売上の伸び悩みが指摘されているグッチで、その再建を託されたデムナが、バレンシアガで築いた独自の美学と哲学で果たしてどのような世界観を描き出すのだろうか。
バレンシアガ 2025年秋冬オートクチュールコレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。
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