10月7日(現地時間)、パリ ファッションウィーク2026年春夏最終日、シーエフシーエル(CFCL)はパリ3区の文化施設、ラ・ゲテ・リリック(La Gaîté Lyrique)にて、最新コレクション「VOL.11 Knit-ware: Concreteness」を発表した。
“生活に寄り添う創造”を理念に掲げ、「現代生活のための衣服」を追求してきたシーエフシーエル。今季のテーマは、具体性と詩情を併せ持つニットウェア──日常の中に静かに息づく美をかたちにすることだった。
クリエイティブディレクターの高橋悠介は、1944年に芸術家ジャン・アルプが提唱した「具体芸術」の思想から着想を得ている。再現でも代理でもなく、“直接的に創造する”という理念のもと、透明感や丸み、柔らかさといった感覚をニットという構造体に落とし込んだ。それは、繊細な季節の変化や他者への思いやりを映し出す、まさに“日常に寄り添う詩のような衣服”である。
構築と流動、そして光のレイヤー
ショーは、ミニマルな音楽を奏でるTLF Trioの室内楽で幕を開けた。コンサートのリハーサルを思わせる親密な空間に、音が弾むように響き渡ると、観客はその揺らぎの中で、透明と温もりが交錯する新しい“現代生活の衣服”を体感していった。
最初に視線を奪ったのは、ブランドを象徴する「POTTERY」シリーズの新たな進化である。
アーティスト森万里子のアクリル彫刻や、ガラス作家エミール・ガレの作品を思わせる有機的な透明感。その佇まいは、まるで光そのものを編み上げたかのように繊細で、静かな強さを宿していた。
ミントグリーンの糸を透明のレイヤーで包み込んだ一着は、歩を進めるたびに内側から淡い輝きを放ち、空気の振動をまとって揺らめく。見る角度によって表情を変え、ひとすじの光が布の間を滑る――その瞬間ごとに、まるで異なる“時間の色”が浮かび上がっていた。


続くルックは、春の光をそのまま纏ったような柔らかさ。これらのアイテムは、インド中央部・マディヤ・プラデーシュ州パンデュルマ地域で育てられた有機栽培綿を編み立て、愛知県有松の染色工場で、春の陽光を思わせる淡いピンクとグレーの“むら染め”を施したものだ。
グラデーションは、朝の光が空気に溶けていくように穏やかで、ひとつとして同じ模様が存在しない。職人が一着ずつ染め上げることで、“染める行為そのもの”が模様となり、布の中に偶然の美を宿していた。


さらに、建築のような構成美と、春の光を孕んだ軽やかさが共存するドレスも登場した。今季唯一のグラフィックモチーフ「TERRACED DRESS」は、芸術家ソフィー・トイバー=アルプのテキスタイルから着想を得たもの。
太さの異なるストライプが幾層にも重なり、まるで段丘のように立体的なリズムを描く。ネオンイエローを差し込んだルックは、静寂の中に希望の光を差し込むように明るく、一方、ネイビーとブラックの組み合わせは、光と影のあわいを讃えていた。


ショーのフィナーレを飾ったのは、「FLUFFY」と名付けられた煌びやかなイブニングウェアの数々だった。そのデザインプロセスは、全体に小さな穴を開けたトワルのニットドレスに、まるで粘土で彫刻を作るような直感的な手つきでタッセルを通すところから始まったという。一つひとつ丁寧に編み上げられたタッセル状のパーツを、プログラムによって配置された微細な孔に通し、立体的な模様を構築していく。
幾度にも及ぶフィッティングを重ねて完成したこれらのルックは、デジタル技術と手仕事のあいだを軽やかに往来しながら、シーエフシーエルの美学を最も純粋な形で体現していた。メタリックフィルム糸が光を受けて揺らめくたび、柔らかなニットは彫刻のような陰影を纏い、動きの中に静けさを感じさせる――まさに“未来のクラフト”の象徴である。



また今季、B Corp認証を持つサステナブルスニーカーブランド「ヴェジャ(VEJA)」との初コラボレーションも発表された。両者は、共通する透明性と倫理性の理念をもとに、ニットウェア同様「機能と品格の共存」を体現するスニーカーを展開。“現代生活のための衣服”という哲学を足元にまで広げた同作は、2026年初春に発売が予定されている。

現代生活に息づく“詩的構築”
シーエフシーエルが見つめるのは、華やかな非日常ではなく、日々の暮らしの中にある美の輪郭だ。ニットという日常素材に光と構築を宿し、“詩的構築”という言葉のとおり、現実に根ざしながらも詩のように静かに心を動かす服。それは、時代の変化をしなやかに受け止め、現代を生きる人々の“生活そのもの”を美しく整えるための服なのだ。
シーエフシーエル 2026年春夏コレクションの全てのルックは以下のギャラリーから。
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