パリ ファッションウィーク2026年春夏の最終日前夜。シャネル(Chanel)は、マチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)によるデビューコレクションを、グラン・パレ(Grand Palais)で発表した。会場には巨大な惑星が浮かび、床には星空のような光沢を放つ装飾が置かれ、まるで銀河の中心に迷い込んだかのような空間が広がった。
ボッテガ ヴェネタ(Bottega Veneta)での功績によって、すでにモード界で確固たる評価を得ていたブレイジー。彼は、素材の本質を見極めながら職人技と革新性を融合させ、レザーを布のように軽やかに見せる技法で知られている。その「素材を再定義する眼差し」は、シャネルのコードにも新たな生命を吹き込み、時代を超えるモダニティを生み出していた。
“コードの再構築”としてのデビュー
今回のコレクションでは、誰もが知るシャネルの象徴であるツイードやカメリア、パール、ダブルCのロゴ、そしてブラック&ホワイトのモノトーンが登場したが、それらはすべてブレイジーらしい“再構築”を経て生まれ変わった。
例えばツイードは、ビスコースを混ぜ、軽やかで流れるような質感に。伝統的なツイードジャケットは、ボクシーなフォルムとショート丈でモダンに進化していた。パンツはローウエストで仕立てられ、クラシックでありながら若々しい軽さを感じさせた。
また、ブラウスやシャツには、彼が得意とするメンズウェア的構築美が宿っている。シャツメーカー「シャルべ(Charvet)」と共同制作されたボクシーシャツには、シャネルのジャケットにも使われるメタルチェーンが裾に縫い込まれ、動くたびに美しい落ち感を描いた。






アクセサリーも刷新され、フェイクファーを用いたストライプのジャンボフラップバッグや、カメリアをビーズやラフィアで表現したドレス、そして2トーンのレザーヒールなどが登場。伝統の上に“軽やかな遊び心”が重ねられる。
特に、メゾンの定番であるバレエシューズには大胆な変化があった。トゥボックスを長く伸ばし、従来の丸みを抑えたデザインへと変化。さらに、チョコレートブラウンのアリゲーターレザーに白のストライプをあしらったパンプスなど、色と素材のコントラストが新鮮に映った。
バッグにも実験精神が宿る。フラップ部分にワイヤーを仕込み、持ち主が自由に形を変えられる2.55バッグは、「“古い”のではなく、“愛されてきた”ように見せたかった」というブレイジーの想いが込められていた。



今回のコレクションの軸となった“宇宙”。これは、天文学に魅せられたココ・シャネル(Coco Chanel)の情熱と、彼女の恋人ボーイ・カペル(Boy Capel)との星にまつわるロマンスに由来しているという。
星のモチーフは、惑星プリントのドレスやミノディエール(小型クラッチ)、多色ビーズのアクセサリー、そして羽のように揺れる帽子などに落とし込まれ、宇宙的な幻想を漂わせた。
ショーの最後を飾ったのは、アワー・オディアン(Awar Odhiang)が纏った、シルクのTシャツとマルチカラーのフェザー・ボールスカート。感極まった彼女はブレイジーに駆け寄り、抱きしめ合う姿を見せた。その光景は、観客に涙を誘い、会場全体が拍手に包まれた。

“星に導かれた”新章のはじまり
ブレイジーのデビューは、シャネルにとって確かな“新章の幕開け”となった。アーカイブへの敬意と革新性、実用性と夢想性の絶妙なバランスをもって、彼はメゾンのDNAを再生させたのだ。このコレクションには、世代を超えて共鳴するモダンな感性と、日常をエレガンスへと昇華させる知性が共存している。それはまるで、“星に書かれた運命”のような新たなシャネルの始まりだ。
シャネル 2026年春夏コレクションの全てのルックは以下のギャラリーから。
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