10月3日(現地時間)、ジバンシィ(Givenchy)は、パリ ファッションウィークで2026年春夏コレクションを発表した。サラ・バートン(Sarah Burton)がアーティスティック・ディレクターに就任してから2シーズン目となる今季のテーマは、「Powerful Femininity(パワフルなフェミニニティ)」。
「私は、フェミニンなアーキタイプを通して、女性の強さを探求したいと考えました。その出発点は、テーラリングの構造を解きほぐし、肌をのぞかせることで生まれる軽やかさと解放感を引き出すこと」と語るバートン。彼女は、“着ること”と“脱ぐこと”という女性ならではの語彙を辿りながら、現代のフェミニティを再構築する試みを続けている。
前シーズンでは、ユベール・ド・ジバンシィ(Hubert de Givenchy)の1952年のデビューコレクションにオマージュを捧げ、構築的なテーラリングとクラフトマンシップの精度を通して、メゾンの原点を呼び起こした。今季はそこからさらに一歩踏み込み、“服という鎧”を解きほぐすことで、女性の内面と身体の自由をそっと解放するようなコレクションへと変容を遂げている。
構築から解体へ──フェミニニティの再定義
ショーの幕開けを飾ったのは、無駄を一切削ぎ落としたサテンのリトルブラックドレスと、ビスコースニットのコクーンボディスーツ。足元にはバレエシューズを合わせ、大人の女性の中に潜む少女の無垢さをそっと呼び覚ます。続くウールのスライスド・テーラードドレスは、バートンが得意とする構築的なアプローチに柔らかさを加えたもの。後ろからブラトップが見えるスタイリングや、切り込みやねじれのディテールが、“女性らしさ”という概念を一度ほどき、新たな形として結び直すための意志を感じさせていた。



また今季のコレクションでは、フェザー、メタル、チュール、メッシュといった異素材が呼応し合い、フェミニニティの新たな輪郭を描き出した。例えば、黄金色のフェザーがあしらわれたトップスとドレープスカートは、ひまわりを思わせるような温かみを帯び、光を受けて揺らめくその質感が生命の息吹を感じさせる。一方、シルバーのスクエアモチーフを全身に纏ったルックは、鎧のような構築性をもちながらも、露出によって“解放”を表現する二面性を宿す。
可憐なヌードピンクや鮮烈なレッドを纏ったバルーンシルエットのチュールドレスは、優雅さと情熱、静けさと躍動といった感情の揺らぎを、詩的なまでに繊細に表現していた。




象徴的なレザールックには、バターイエローのラップドレス、ブラックレザーのカットアウェイブラ&ラップスカート、そしてボウビスチェドレスが登場した。いずれも肌と一体化するような官能性を放ちながら、同時に女性の強さと自立を象徴する“自らを包み込む”力を宿している。
さらに、レッドとベージュで展開されたトレンチコートは、伝統的なメンズウェアの構造を踏襲しながらも、シルエットには女性のしなやかな動きを意識。コットンギャバジンのベージュは、落ち感のある肩とボリュームラペルによって力強さと余裕のあるエレガンスを体現し、光沢のあるサテンのレッドは、構築的なフォルムの中に感情の熱を宿し、理性と情熱という二極の美を映し出した。





幻想と造形美──ディテールに宿る強さ
ショーが後半になるにつれ、コレクションはより幻想的な空気を帯びていく。ホワイトのリヨンレースのケープバックドレスや、パリネットのエンパイアドレスは、柔らかくも芯のある女神的な要素を体現し、装飾を削ぎ落とした清らかな構築美が、逆説的に強さと神秘性を際立たせた。


さらに全体のルックを引き立てたのは、ジュエリーとシューズの存在感だ。大ぶりのスクエアモチーフが連なるメタルのイヤリングとネックレスは、セットで登場し、それぞれのルックにシンプルな洗練さだけでは終わらない、成熟したクールさを添える。
一方シューズには、何層にも重ねることでボリュームを生み出したフラワーペタルやパールのフリンジヒール、そして日本の下駄の鼻緒を思わせるようなストラップ構造のヒールが登場。伝統的な意匠をモダンに再解釈し、バートンらしい精密さと遊び心の融合を象徴していた。



フィナーレを飾ったのは、アバランチローズ刺繍を施したベッドシーツドレスと、ミントカラーのダッチェスサテンのスライスドコート。寝具という最も親密な素材をクチュールの精度で仕立て上げることで、“装い”という行為を超えた祈りのような瞬間を創り出した。


サラ・バートンによる2026年春夏のジバンシィは、社会の中で自らの道を切り拓いてきた女性たちが、かつて自分を守るために纏っていた“鎧”としての服をそっと脱ぎ、より軽やかに、自分らしく生きるための衣へと昇華させたコレクションである。バートンは、言葉ではなく服そのものを通して、フェミニニティとは守るためのものではなく、自由を纏い、自らを解き放つための美しさであることを静かに語りかけた。
ジバンシィ 2026年春夏コレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。
Copyright © 2025 Oui Speak Fashion. All rights reserved.
Related