9月11日(現地時間)、シンガポール出身でニューヨークを拠点に活動するデザイナー、グレース・リン(Grace Ling)が、ニューヨーク・ファッションウィークで2026年春夏コレクション「フューチャー・レリックス(Future Relics)」を発表した。未来に残される「遺物」としてのファッション──そんな挑戦的なテーマに挑んだランウェイショーである。
有機的フォルムと鋭利な造形美
今季のコレクションの中心に据えられたのは、櫛や鍵、南京錠、ナイフといった「発見物」から着想を得た、バイオモーフィックなクロームのチャームだった。これらは単なる装飾ではなく、服そのものを構築する要素として機能する。たとえば、ブレザーのクロージャーにはナイフの鞘が組み込まれ、バッグのハンドルは鋭利な刃のように成形されていた。さらにピンやロゴタグに至るまで、細部には属的な意匠が施されていた。こうしたメタルパーツはリンが得意とする3Dプリントを駆使して制作されており、精緻な計算と高度な技術の結晶である。
とりわけ圧巻だったのは、ショーの冒頭とフィナーレを飾った「ビッグ・クチュールピース」と呼ばれる造形的なボディスだ。まるで彫刻作品のように身体に沿って鋭利に湾曲し、光を反射するクロームは、未来的でありながらもどこか神話的な存在感を放つ。ブランドが掲げる「未来の遺物」というテーマを視覚的に体現したその姿は、一瞬で観客の視線を釘付けにしていた。
一方これらのボディスには、メタルの硬質さと対照をなすように、流れるようなドレープのスカートが合わせられ、硬質と軟質、冷たさと柔らかさの間に張り詰めた緊張感を生み出した。モデルの歩みに合わせて揺れる布地と、静謐なまでに固定された金属とのコントラストは、リングが追求する「破壊と洗練」「野蛮と優美」という二項対立を鮮明に浮かび上がらせる。


壊され、そして蘇るファブリック
さらに今回のコレクションでは、生地にも大胆な実験が施された。不透明からシアーへと移ろうテキスタイルは、ひび割れや焦げ、裂け目を思わせる加工が加えられ、身体を隠しながらも露わにする二面性を宿す。破壊されたかのようなディテールと、端正に仕立てられたテーラリングが拮抗する様は、荒廃と洗練のあいだを揺れ動く美学である。
また、シアーで軽やかなドレスや透けるようなコルセットボーンのレイヤードは幻想性を演出する一方、レザージャケットやロングチュニックはシャープさとソフトさの中庸を担い、強弱のあるリズムをランウェイに刻んでいた。



モデルには、アルトン・メイソン(Alton Mason)、アシュリー・グラハム(Ashley Graham)、クァナ・チェイシングホース(Quannah Chasinghorse)、プレシャス・リー(Precious Lee)といった実力派の顔ぶれが登場。中でも、メイソンが纏った胸元の大きく開いた白のトップスは、非対称に寄せられたドレープと相まって、風に吹かれたような儚さを漂わせていた。



単なるコレクションを超え、未来に残される文化的アーティファクトとして、ファッションの可能性を提示したグレース リン。彼女の名は、この先も確実にモードの未来を形づくっていくだろう。
グレース リン 2026年春夏コレクションのすべてのルックは以下のギャラリーから。
Copyright © 2025 Oui Speak Fashion. All rights reserved.
Related