ジャックムス(Jacquemus)2026年春夏コレクションで描く、現代の田園物語

ジャックムス(Jacquemus)2025年秋冬コレクション
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6月29日(現地時間)、ヴェルサイユ宮殿のオランジュリーのその荘厳なアーチの下で、サイモン・ポート・ジャックムス(Simon Porte Jacquemus)率いるジャックムス(Jacquemus)は、2026年春夏コレクションをパリ・メンズ・ファッションウィークの締めくくりとして発表した。

「Le Paysan(農夫)」と題された今季のコレクションは、南仏の陽光に包まれて育まれた彼自身の原風景を、クチュール的視点で丁寧にすくい上げ、現代的な造形へと再構築したものである。

それは決して単なる懐古ではない。記憶という名の糸を手繰りながら、服という言語で紡ぎ出された感情の詩編(レクイエム)である。祖父母が土とともに育てた色とりどりの野菜、日曜の午後にふわりと漂うアイロンがけされたリネンのぬくもり、そして祖母が纏っていた静謐な気品。そんな断片的な記憶のひとつひとつが、ノスタルジーと革新の交差点で静かに呼吸し始める。

静けさから始まり、色彩へと開花するストーリー

ショーの冒頭、会場を一人の白い服の裸足の少年が走り抜け、ショーのドアを開いた。その無垢な姿は、まさに少年時代のジャックムス本人を象徴しているかのようだった。

序盤に登場したのは、プレーンなリネン、ミルクホワイトのポプリン、内部に構造を秘めたボリュームスカート、そして素肌を撫でるような薄絹のドレス。装飾を極限までそぎ落としたこれらのルックは、素材とフォルムの静けさだけで世界観を描き出していた。

やがて、パステルのストライプ、レモンイエローの軽やかなルック、繊細な刺繍やドットのモチーフが加わり、コレクションは視覚的な春を迎える。それはまさにジャックムスがインスタグラムで語った、「リネンから始まり、ボンボンのような色彩とプリントが花開いていく旅」であり、最終的にクチュールの頂きへと辿り着く、一つの詩的な進化のプロセスだ。

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職人技が支える、静かなるラグジュアリー

今季のジャックムスが体現するラグジュアリーは、決して声高に主張するものではない。それは、静けさの中に宿る確かな技と、丁寧に積み重ねられた時間が生み出す美の結晶である。

なかでも目を引いたのは、700メートルのコードを用いて仕立てられたチュールのドレス。繊細なクロシェ編みのホワイトドレス、そして手作業で縫い込まれたボビンレースのタッセル装飾といった数々のディテールは、一見ミニマルなルックの奥に、圧倒的な技巧が息づいていることを物語っていた。

その仕立ては、非現実的な舞台衣装のような誇張とは無縁でありながら、現代のワードローブとしての機能性と夢想的な詩情を兼ね備えている。たとえば、白のシャツドレスに重ねられたボリュームスカートは、まるで洗練された田園詩を纏うかのように美しく、穏やかに心を打つ存在感を放っていた。

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アクセサリーとメンズが語る“農のファンタジー”

また、コレクションの詩的な世界観をより豊かに彩るのは、遊び心あふれるアクセサリーたちの存在だ。ストローやローズマリーの風合いを模したバッグ、レザーで象られたネギやガーリックのガーランド、そしてストライプ柄のキャンディバッグ──どれもが、南仏の朝市からそのまま運ばれてきたような素朴さとユーモアを携えている。

中でも、白いピンストライプのセットアップに収穫用のレザー製のネギを抱える男性モデルの姿は、まるで都市と自然の間を行き来する現代の農夫を思わせた。

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さらにメンズルックでは、構築的でありながらも肌との親密な距離感を感じさせるスタイリングが際立っていた。たとえば、繊細な透け感をまとったレモンイエローのトップスや、柔らかなニット素材のラップジャケット。そこには、直線的な構造と感覚的なやわらかさが共存していた。

リラックス感のあるショートパンツスーツ、ウエストに絞りを効かせたブラックのテーラードセットアップ、そしてグレーのウールスーツにフラットキャップを合わせたルックなど、多彩な装いが揃う中で、一貫して漂っていたのは“労働する手”のリアリティと、“愛する眼差し”の優しさ。実用性と詩情が幾層にも折り重なったそのスタイリングには、どこか懐かしく、そして希望に満ちた人間らしさが滲んでいた。

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これまでジャックムスの中で語られてきた南仏のロマンスが、個人の記憶と現代的洗練をもって新たに昇華された今季。それは、ビジネスとしての成長を遂げたジャックムス自身の、それでも原点を見失わない強さと、故郷への深い愛を感じさせるものだった。

ジャックムス 2026年春夏コレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。

 

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