3月16日(現地時間)、カカン(KAKAN)は楽天ファッションウィーク東京にて、2026年秋冬コレクションを発表した。
ブランドにとって初のショーとなった今回のコレクション。テーマは「WILD, NOT PURE」。純粋さだけではなく、野生や揺らぎをも含む美しさを追求する姿勢を、ランウェイという場で体現した。
HANDSPANシリーズが語るもの
カカンの核となるのは、デザイナーの工藤花観(Kakan Kudo)が手がける手編みニットウェアのシリーズ「HANDSPAN」だ。テキスタイルデザインを起点に構築されるこのシリーズでは、羊毛を手で「紡ぐ」工程から制作が始まるという。羊毛の種類、色の組み合わせ、密度の調整まで、すべてが手の感覚によって決定される。工藤にとって羊毛は「絵具のパレットや色鉛筆のようなもの」であり、デザイン画を描くのにも水彩絵具や色鉛筆を使うそうだ。
編む工程においても従来の手法とは一線を画す。編み上げる形を先に決めず、素材自体の特性を探りながら形を追っていく。強く撚られて縮れた糸は、着用したときの力のかかり方や重みで不均一に伸び、予期しない動きや表情を見せる。つまり、「不完全さを取り除くのではなく、それを構造として提示する」という姿勢こそが、このシリーズの本質となっている。
ファーストルックとして登場したクリーム色のオープンワーク・ニットドレスや、フィナーレを飾った巨大なボリュームを持つベージュのショール状ニットはその典型で、手の痕跡が残された表面は、工業的に作られたものにはない野生的な美を放っていた。


ワイルドネスの美学
今季のコレクションの思想的な背景には、クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss)の「野生の思考」がある。「野生の思考とは、世界を支配するための知性ではなく、世界と共存するための知性」——レヴィ=ストロースのその言葉は、工藤自身の制作哲学と深く響き合う。効率や正解、エビデンスを優先する現代の思考様式に対して、感覚的な知性の価値を問い直す姿勢が、コレクション全体に流れていた。
テーマ「WILD, NOT PURE」について、はこう語っている。
「美しさは純粋さだけではなく、野生や揺らぎを含むもの。整えられた理性の一方で、人は現実で衝動的な存在でもある。揺らぎながらも前向きに生きる者たちへ、その矛盾を否定するのではなく、包みしめるように。ニットという柔らかく可変的な素材を通して、その姿を表現します。」
コレクション全体を通じてテーラードとテキスタイルアートが共存していたのも、その言葉通りだ。グレーのダブルブレストスーツに黒いオープンワークのロングコートを重ねたスタイリングや、黒のテーラードジャケットにロープ状のファーディテールを施したスーツスタイルなど、構築的な服に野性的な素材感が侵食していく様は、「矛盾を包む」というコンセプトの視覚的な表現だ。


素材の多様性とテクスチャーの競演
フェルト、ファー、フェザー、レース、シルクサテン、ウール、レザー。カカンは、異なる肌触りと重力を持つ素材たちを一つのコレクションの中に解き放った。
茶褐色のフェルトで仕立てたタンクドレスと、波打つ鍔広帽。その佇まいは、土の中から生まれ出たかのように有機的だ。黒のフェザードレスの首元に巻かれた、草原の情景を描いた巨大なスカーフは、自然の風景そのものを纏うような感覚を呼び起こす。
一方、シルバーのレースとシフォンを幾重にも重ねたドレープトップスとレースパンツでは、幽玄で透明感のある美が際立っていた。さらに、全身をオレンジで統一し、滑らかなサテンのスリップドレスの上に荒々しいテクスチャーのニットコートを重ねたスタイリングは、素材そのものが持つ表情の豊かさを存分に見せつけた。




日常性と装いの境界
コレクションにはファインな仕上がりの衣服と並び、親しみやすい日常着的なアイテムも見られた。手にミモザの花を入れたクロッシェバッグを持ち、白いシルクシャツワンピース姿で歩く姿や、ローズブラウンのニットツーピース、グレーのリブニットセットアップは、ランウェイと生活の境界を意図的に曖昧にするかのよう。モデルたちが花束を手に持つ演出も、舞台と日常の地続き感を強調していた。
工藤自身、昨年の夏の終わりに妊娠が分かったという。「妊娠とは、頭で考えるよりも先に身体が『そうなってしまう』ことの原体験」と語るその言葉は、制御できないものを肯定するという、今季のテーマと静かに響き合う。


工藤は、ブランドとしての信念をこのように記している。
「衣服は直接着る人の素肌や肌感に触れ、作り手の思いや哲学を届けることができると思っています。わたしは人々に『ダイレクトにメッセージを伝える』というファッションデザインが持つ素敵な個性を、コミュニケーションとして取り組みたいと思っています。」
彼女がコンテンポラリーアートよりもファッションというフォーマットを選ぶのは、美術館の壁の向こうではなく、人の肌の上にこそ思想を宿らせたいからなのだろう。そしてその想いは、間違いなくこのランウェイの中に息づいていた。
カカン 2026年秋冬コレクションの全てのルックは以下のギャラリーから。
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