リトコフスカヤ(LITKOVSKA)2026年秋冬:停電の街から生まれた光、パリへ

LITKOVSKA FW26 COLLECTION
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3月10日(現地時間)、リトコフスカヤ(LITKOVSKA)は、パリ ファッションウィークにて、2026年秋冬コレクションを発表した。

ウクライナ発のこのブランドにとって、パリ ファッションウィーク公式ランウェイスケジュールへの初参加という、まさに歴史的な節目となるショーだ。コレクションのタイトルは「(蛍)FIREFLY」。停電が日常となったキーウの冬の夜、頭にライトを付けて街を歩く人々の姿——その光景がコレクション全体の魂となっている。

停電という現実から生まれたビジョン

デザイナーのリリア・リトコフスカ(Liliia Litkovska)は、このコレクションの背景についてこう語っている。

「キーウには、電気も、暖房も、水もない夜があります。人々は小さな光を頭につけて街を歩きます。遠くから見ると、通りはまるで地上に落ちた空のように、動く小さな星たち——蛍のように散らばっています。このイメージがコレクションの魂となりました。それはマイナス30度の極限の冬に生まれました。時に電力のないアトリエで、息が白く見える部屋の中で。それでも内側には、温もりがありました。FIREFLYは、圧力のもとでも消えずに燃え続け、不確かな時代の中で人々をつなぐ内なる光というテーマを探求しています。」

そのメッセージはショーの演出にも忠実に反映された。モデルたちは全員、額にヘッドライトを装着してランウェイを闊歩する。ショー会場の薄暗い空間の中、各モデルの額から放たれる白い光の点が次々と現れるその光景は、まさにコレクション名が示す蛍の群れ、あるいはキーウの夜の街そのものであった。

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建築的デコンストラクションと「未完性」の美学

コレクションを貫くデザイン言語は、リトコフスカヤのシグネチャーである建築的テーラリングとデコンストラクションだ。アシンメトリーなシルエット、複数のレイヤーが折り重なった構造、意図的に「未完」のように見える裾の処理——これらすべてが、安定がしばしば幻想のように感じられる現代の脆さと緊張を、衣服として体現している。

シルエットの参照点として、ウクライナ・バロックの表現言語が随所に見て取れる。キーウの彫刻的な建築物を想起させる劇的なプロポーション、流れるような輪郭と移ろうボリューム。過去と現在を対話させるかのように構築された各ルックは、ただの衣服ではなく、ひとつの建築物として成立している。

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ルックに宿る光と闇のドラマ

カラーパレットはブラック、チャコール、ネイビーといったダークトーンが主軸。その中に、鮮やかなレッドのオーバーサイズコートやロイヤルブルーのウールジャケットが挿入され、暗闇の中の光そのものを体現するかのようなコントラストを生み出す。

素材もまたバリエーション豊かで、レザー、ウール、テーラリング生地、ラミネート素材、スウェードなど、異素材の組み合わせが各ルックに複雑な表情を与えていた。

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なかでも印象的だったのが、黒×アンバーイエローの流動的なプリントドレスだ。全面に広がる有機的な曲線は蛍の発光パターンを想起させ、コレクションのテーマを最もダイレクトに体現したピースといえる。

対して、黒のレザードレスにベージュのドレープシャツを大胆にレイヤードしたルックは、素材と形の対比におけるブランドの卓越したバランス感覚を静かに示していた。

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ボリュームの扱いもまた秀逸だ。オーバーサイズのコートやジャケットがボディを大きく包み込む一方、アシンメトリースカートやドレープパンツが歩くたびに揺れ、重さと軽さ、静と動の対比が鮮烈な視覚的インパクトを残した。

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新作バッグ「ベサジー バッグ(BESAGY BAG)」の登場

今シーズンもう一つ注目すべきが、新作バッグ「ベサジー バッグ(BESAGY BAG)」の初披露だ。ウクライナの伝統的な両面バッグ「ベサヒ(Besahy)」に着想を得たこのバッグは、肩から担いで長旅や市場に出かけるために用いられてきた民具を、現代のノマドのために再解釈したもの。

ランウェイでは、ブラックレザーのドロープデザインが複数のルックにスタイリングされ、その存在感を示した。先行きの見えない時代を歩む現代人が携えるべき「必需品」として、祖先の記憶と実用性を兼ね備えたこのバッグは、コレクションのメッセージを身近な形で体現するアイテムとなっている。

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ファッションが語れること

2009年にリリア・リトコフスカによってキーウで設立されたリトコフスカヤは現在、ドーバー・ストリート・マーケット(Dover Street Market)のロンドン、ニューヨーク、銀座店を含む、20カ国60以上のリテーラーで展開されている。ブランドのモットーは「間違った面などない(There is no wrong side)」——衣服を裏返しにしても、解体しても、形を変えて着ても良い、という変容する服づくりの哲学だ。

今回のコレクションは、その哲学をより深いレベルで体現している。不完全さを肯定し、変化を前提とし、それでも光を手放さない——「FIREFLY」は、戦時下のキーウという具体的な現実から生まれながら、時代や場所を超えた普遍的なメッセージを持つコレクションだ。

ランウェイを歩くモデルたちの額に灯るヘッドライトは、暗闇の中を歩き続けるための、人が人に向けた、切実な光のバトンである。

リトコフスカヤ 2026年秋冬コレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。

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