マックイーン(McQueen)2026年春夏コレクション──ショーン・マクギアーが描く“本能と秩序の再定義”

McQueen
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10月5日(現地時間)、マックイーン(McQueen)はパリ ファッションウィークで2026年春夏コレクションで発表した。

会場となったのは、パリの名門テニスクラブ「テニス・クラブ・ド・パリ(Tennis Club de Paris)」。観客の頭上には、8,000メートルものジュートリボンと天然素材で構成された巨大なメイポール型インスタレーションがそびえ立つ。アイルランドのフォークグループ アーマー・ライマーズ(The Armagh Rhymers)によって手がけられたこの舞台は、自然と文化の境界を曖昧にし、再生を祝う異教的な儀式の場を想起させた。

今季、クリエイティブディレクターのショーン・マクギアー(Seán McGirr) が提示したのは、“本能と理性”の間にある人間の複雑な層をあぶり出す実験的な対話であった。

コレクションノートの冒頭でマクギアーはこう問いかけている。

「私たちは自然に抗い、本能を抑え、秩序の名のもとに生きている。では、もしそれを手放し、心の奥にある欲望や衝動に従ったら、いったい何が起こるのだろう?」

この哲学的な問いのインスピレーション源となったのは、ロビン・ハーディ監督の1973年のカルト映画『ウィッカーマン(The Wicker Man)』。人間が本能に従い、自然へと帰還していくその物語を、マクギアーは現代のファッションを通して再構築したのだった。

欲望と規律のせめぎ合い

ショーの冒頭を飾ったのは、濃紺とスカイブルーを基調としたルックの数々。ネイビーのコルセットトップとアシンメトリーなスカートの組み合わせは、肌を大胆にのぞかせながらも精密なカッティングで構築され、肉体そのものを彫刻のように際立たせる。ミリタリージャケットは短く断ち切られ、胸元を解放することで権威の象徴から誘惑のツールへと変化。制服的なフォルムに宿る“服従”の記号は、マクギアーの手によって“支配からの解放”へと転化されていた。

またコルセットも、“拘束”の象徴から“解放”のシンボルへと昇華された。ホワイトレザーやジャカードで立体的に仕立てられたそれは、身体を縛るのではなく、力強く主張するためのアーマーのよう。フロントのレースアップやアシンメトリーなカットが描き出したのは、緊張と官能の狭間にある“欲望の秩序”そのものだ。

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マクギアーの美学は、素材選びにも明確に表れていた。軽やかさとテクスチャーが交差する中で、シャープにカットされたウールモヘアホップサックやスライス加工を施したプリントレザー、メタルチェーンメイル、そして金糸刺繍が登場。

それらが、ウォッシュ加工のコットンツイルや繊細に描かれたフローラルジャカード、透けるようなサンバーストシルクハボタイと対比をなすことで、構築と柔軟、緊張と詩情が共存する独自の質感を生み出した。

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そんな熱烈なルックが続く中、異彩を放ったのは、フロアレングスの淡いドレス。ウォーターブラシで描いたように花々が滲み、軽やかなシルクが空気を含んで揺らめく。光の角度によって繊細な色彩が移ろい、構築的な緊張感の中に、生命の儚さと再生を思わせる詩情が息づいていた。

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今季のアクセサリーでは、アーカイブの名作「デ・マンタ(De Manta)」バッグが、新たに「マンタ(Manta)」として再生を遂げている。コルセットレースやフリンジ、手彫りのタリスマンチャームが施され、装飾のひとつひとつに“護り”と“官能”の物語が宿る。

また、2003年春夏のアイコニックなホーンヒール(Horn Heel)が、レザーやスエードで再構築され、ミュール、ブーツ、サンダルとして登場。過去の象徴が新しいエネルギーを纏うことで、再び新たな命を吹き込まれた。

炎、自然、そして儀式

フィナーレでは、まるで生きた炎のようなドレスがランウェイを包み込んだ。光を受けて揺らめく糸が空気を震わせ、火の粉が軌跡を描くように艶やかに光る。続くルックでは、陽光をそのまま纏ったかのようなボリュームドレスや黄金の羽やフリンジが舞い、やがて純白のドレスが静かに姿を現す。清らかな白が空間全体を浄化し、炎の記憶を静かに包み込んでいった。

音楽は A.G.クック(A.G. Cook) によるもの。水・大地・火といった自然の音にテクノビートを重ねたサウンドが、ショーの緊張感を頂点へと導いた。

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本能と知性の融合としてのマックイーン

ショーン・マクギアーが描くマックイーンは、かつての挑発的なスピリットを受け継ぎながらも、より深い思索と成熟を感じさせる。彼が提示するのは、野性と理性の狭間で揺れる“原始的なエレガンス”。欲望と秩序という相反するエネルギーを真正面から衝突させながらも、「人間が自然に抗わず、内なる衝動に従うとき、真の自由が芽生える」というメッセージだ。それは、破壊ではなく再生──静かな狂気を孕みながらも、創造の炎を絶やさぬ美の探求そのものである。

マックイーン 2026年春夏コレクションの全てのルックは以下のギャラリーから。

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