多くのブランドがWeb 3.0へ積極的な参入
9月9日〜14日に開催されたニューヨークファッションウィークでは110以上のブランドが2023年春夏コレクションを発表。
約3年振りに「Back to Normal」と言われた今季は、ファッションショーだけではなく、ブランドが開催するNYFWイベントやアフターパーティーなどが連日至る所で行われ、コロナ禍以前と変わらないこれまでのファッションウィークの活気を完全に取り戻したシーズンとなった。
そんなフィジカルのファッションショーが復活したニューヨークコレクションだったが、同時にWeb 3.0へ積極的に参入し、デジタル上でもコレクションを発表したり、メタバース上でショーのストリーミングを行うブランドが数多く見られたのも特徴的であった。
その中でも一番大きな印象と話題性を残したのが、アメリカを代表するファッションブランドの一つであるトミー・ヒルフィガー (Tommy Hilfiger) だろう。
トミー・ヒルフィガーはニューヨークファッションウィークへ3年ぶりに復帰を果たし、Tommy Factory Fall’22と題したリアルなショーと同時進行で、ロブロックス ( Roblox) 上でもショーをライブストリーミングを行った。また、ショーのゲストは無料の NFT を受け取ることが出来たり、実際のショーを見ながら同時にロブロックスのリミックスされたニューヨークのショーをリアルタイムで配信するスクリーンを見ることも出来た。
一方メタバース・キャットウォークには、デジタルのスタータレントアバターである、ジャンキー、グギモン、デイジーが登場したり、中国のデジタルヒューマンであるノアも特別出演。ポップカルチャーと創造的表現を称えたウォーホルの遺産にインスピレーションを受けたこの大掛かりなトミー・ヒルフィガーのフィジタルイベントは、全ての消費者のタッチポイントに触れ、真のフィジタル体験を作り出した。
また早期段階からNFTや Web 3.0への参入を行なっているレベッカミンコフは、没入型 CGI とプロジェクションマッピング体験を融合させた空間でのプレゼンテーションにて最新コレクションを発表した。
プレゼンテーションにはNFTマーケットプレイスMavionで販売されているレベッカミンコフのNFT所有者も招待され、デザイナーのレベッカ・ミンコフ氏が直接来場者へ一人一人へ挨拶をして周る場面も。ミンコフ氏は、「顧客がこれらの新しいテクノロジーに参加するのを支援するために取り組んできました。」と述べ、「以前のNFTコレクションのドロップから、顧客には好奇心だけでなく知識のギャップがあることもわかりました。」と続けた。
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ニューヨークファッションウィーク最終日にショーを行なったヴィヴィアン タム(VIVIENNE TAM)は、ファッションを通じて暗号資産の認知度を高める為、ジェミニ (Gemini)が所有するNFTマーケットプレイスのニフティゲートウェイ (Nifty Gateway) とパートナーシップを組み、最新コレクションピースのNFTを発表した。
また、人気スポーツブランドのプーマ (PUMA)は、物理的なショーと同期する専用ポータルBlack Stationを立ち上げ、フィジカルなショー「フトログレード (FUTROGRADE)」の仮想体験をオンラインコミュニティへ提供。NFTプーマスニーカーの新たな限定バージョンが、フトログレードショーのフィナーレに発表された。
NFT保有者をニューヨークファッションウィークへ招待
このように各ブランドがフィジカルとデジタルを融合されたフィジタルなコレクションを発表する中、ニューヨークファッションウィークの公式パートナーであるアフターペイ(After Pay) が主導するプロジェクト「キーズ トゥー ニューヨークファッションウィーク (Keys to NYFW)」にも注目が集まった。
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このプロジェクトでは、「ザ • ブロンズ (The Blonds)」 や「キム・シュイ (Kim Shui)」 など5つのブランドが参加し、100ドルで発売された各ブランドのNFT を購入すると、保有者への特典としてデザイナーのフィジカルなショーへ招待されるというもの。
これまでファッションウィークというと、ファッション業界関係者かファッションインフルエンサーに招待が限定され、一般アクセスはほぼ不可能であった。しかし、このキーズ トゥーニューヨークファッションウィークの試みで、新たにNFT保有者がショーのゲストの一員として加えられた、ということになったのだ。
NFT購入者がショーへ入れないトラブルも
そんな話題性のあるNFTコレクションだったが、実際にNFTを購入し、ショーの会場へ向かった保有者からは不満の声も聞こえてきた。
キム・シュイのNFTを購入したある参加者は、ショーへの招待状に「出席する」と回答したにも関わらず、当日会場の前で長時間並び待たされた挙句、実際のショーへの入場を拒否されたそうだ。また、ザ • ブロンズが開催したアフターパーティーでも同様の事態が起きていたとのこと。
結局彼らは運営局に苦情を入れ、最終的には返金対応をしてもらったようだ。しかし、「実際のファッションショーに参加する」ということにはとても大きな意味があり、それを心待ちにしてNFTを購入した参加者にとって、この対応はあまりにも悲しいものだろう。
ファッションウィークでは、しばしばスタンディングのチケットを受け取っている来場者を一番最後に会場に入れる。その為、ショーの開始時間が迫っている場合には、スタンディングシートの来場者を会場に入れるのが間に合わずに、ショーが始まってしまうことがある。今回のNFT保有者に配られたチケットも、スタンディングのチケットだったとのこと。
それ故にチェックインの受付係はNFT保有者の来場を後回しにしたのだろうと考えられる。
何にせよ、Web3.0と融合したフィジタルなファッションショーは未だ初期段階にあり、こうした新しい課題が存在することも事実だ。だが、今後シーズンを重ねるごとにブランド側も運営側も勝手が分かるようになり、ニューヨークファッションウィークがNFT保有者やWeb3.0業界をより巻き込んだものになっていくに違いない。