サンローラン(Saint Laurent)2026年春夏コレクション:夜のパリに響く女性像の変奏

Saint Laurent
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9月29日夜、サンローラン(Saint Laurent)はパリ・トロカデロ庭園で2026年春夏コレクションを披露した。舞台には白いアジサイでかたどられた巨大な「YSL」ロゴが広がり、きらめくエッフェル塔を背景に圧倒的なスケール感を演出。

1961年にカッサンドル(Cassandre)がデザインしたYSLモノグラムは、ファッション史を代表するロゴのひとつ。エディ・スリマン(Hedi Slimane)時代に一時姿を消したが、現クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)が再び前面に押し出し、時代を超えたシンボルとして蘇らせている。また今回の演出は、1999年春夏オートクチュールでレティシア・カスタ(Laetitia Casta)が生花のビキニを纏った伝説的な瞬間を想起させるものでもあった。

会場にはマドンナ(Madonna)と娘ローデス・レオン(Lourdes Leon)、ヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber)、ゾーイ・クラヴィッツ(Zoë Kravitz)、ケイト・モス(Kate Moss)、シャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)といった世界的セレブが集まり、群衆に囲まれながらサンローランの新たな幕開けを見届けた。

コレクションの三つの章

「対話が失われつつある時代において、スタイルは一種の言語となる――それは押し付けるものではなく、繋がりを生み、ニュアンスを加えるものだ。言葉が分断を生むとき、サンローランの美学は呼吸の余地を生み出し、新たな比喩を創造する。」

ヴァカレロはショーノートにはこのように記した。これはつまり、言葉が分断を生む時代において、スタイルこそが新たな言語として機能するのだという宣言である。

コレクションは、「レザー」「ナイロン」「ボリュームドレス」の三章構成で展開され、限られたシルエットに絞りながらも、単調さに陥ることなく、緊張感と奥行きを持つ世界観を作り上げていた。

レザーとパワーショルダー

ショーの冒頭を飾ったのは、ヴァカレロが得意とするパワーショルダーとレザーに、誇張されたホワイトリボンを組み合わせたルックである。レザージャケットやタイトなペンシルスカートという端正なシルエットの上に、リボンは大胆に結ばれ、従来のフェミニンな可愛らしさを裏切るかのように“硬質な官能”を漂わせていた。

ショルダー部分のボリュームは、1980年代のサンローランを想起させながら、現代的なモード感へとアップデート。巨大なイヤリングやアビエーター型サングラスとの合わせは、華美さと力強さを同時に引き出し、女性像を「従順」から「支配する存在」へと反転させるアクセントのように機能していた。

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ナイロンのトレンチとドレス

続く章では、光沢を帯びたナイロン素材のトレンチコートとドレスがランウェイを彩った。オリーブグリーン、ブロンズ、マスタードイエロー、ディープバーガンディ、さらにはメタリックなチャコールやブルーといった、深みのあるナチュラルカラーが次々に登場し、夜空とエッフェル塔の光を反射しながら存在感を放つ。

軽やかなのに張りのあるナイロンは、身体に沿ってしなやかに動き、時に光を透かしながら内側を暗示。ベルトでウエストを絞ったシルエットはクラシカルなトレンチを思わせつつ、素材の艶感と透け感が「覆い隠す」と「晒す」の境界を曖昧にしている。これは、社会が女性に課してきた規範や抑圧への問いかけであり、1966年にイヴ・サンローランが掲げた「リヴ・ゴーシュ」の自由精神を現代に呼び戻す試みでもあった。

肩のラインを強調した構築的なフォルムや、大ぶりのイヤリングと組み合わされたスタイリングは、華やかさと反骨精神を同時に体現。ナイロンという日常的かつ実用的な素材を、夜の庭園で官能的かつ大胆に見せたこの章は、サンローランらしい挑発と自由の象徴であった。

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クライマックスを飾った優美なラッフルドレス

ショーの最終章を彩ったのは、鮮やかなオレンジやブロンズ、深みのあるボルドーで構成された圧倒的なボリュームドレスだった。軽やかなナイロンを幾重にも重ねたラッフルは風を受けて大きく波打ち、夜の庭園を揺らすように広がり、幻想的な光景を生み出した。

これらのドレスは、マリー・アントワネットを思わせる宮廷的な華美さと、ナイロンというモダンな素材がもたらす軽快さを併せ持つ。クラシカルな輪郭を保ちながらも、素材の選択によって現代的な呼吸を吹き込み、伝統と革新をひとつに結びつけていた。

さらに、巨大なストーンをあしらったネックレスやイヤリングが、ドレスの存在感をいっそう際立たせる。重厚さと遊び心が同居するその装いは、ただの舞台衣装ではなく、観る者に忘れがたい余韻を残す“力強いエレガンス”そのものであった。

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歴史的コードを再解釈しながら、現代社会の緊張感に呼応する舞台となったサンローランの2026年春夏ショー。エッフェル塔を背景に咲いたアジサイの「YSL」ロゴ、硬質なレザー、透けるナイロン、劇場的なドレス――それらが描き出したのは、単一の像に収まらず、揺らぎと多面性を宿した女性の姿である。その物語の余韻は、夜のパリの空気とともに観客の記憶にしっかりと刻まれた。

サンローラン 2026年春夏コレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。

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