2月15日(現地時間)、サンディ リアン(Sandy Liang)は、ニューヨーク ファッションウィークにて、2026年秋冬コレクションを発表した。
会場に足を踏み入れた瞬間、ゲストたちはマリー・アントワネットの秘密の部屋へと招き入れられた。豪華絢爛なヴェルサイユの謁見室ではない。プチ・トリアノンの寝室——農場や鳩小屋を窓から眺めながら、王妃が素顔の自分に戻る、あの親密な空間だ。今季リアンが描いたのは、幻想と現実、装飾と実用、可憐さと力強さが交錯する、極めてパーソナルな物語である。
朝、ベッドの縁に腰掛けて
最初のルックが現れた瞬間から、会場には静かな息を呑む音が広がった。ベルベットのベッドスプレッドを纏ったようなキルティング。シュミーズから透けるシアーな素材のレイヤー。これは完璧に着飾った姿ではない。「今、まさに支度をしているところ」——その途中の、誰にも見せたことのない瞬間を、そのまま服にしたのだ。
グレーのレギンスの上に、ランジェリー風のドレスが無造作に重ねられている。ロングジョンを履いたまま、プリンセスラインのドレスを羽織る。普通なら隠すはずの下着の層が、ここでは堂々と表に出てくる。リアンが「immediacy(即時性)」と呼んだもの——それは、朝のベッドルームから世界へ飛び出す、あの躊躇と高揚が混ざり合った感覚だ。
ミントグリーンのサテンナイトドレスが、レースとリボンを揺らしながらランウェイを進む。寝室を出るべきか、まだベッドに戻るべきか——その境界線上にいる少女の、危うくも美しい無防備さ。一方で、グレーのスウェットにピンクのフリルドレスを重ねたルックは、私たちに問いかける。「夢を見ることと、現実を生きることは、本当に別々のものなのか?」と。




可憐さの向こう側へ
サンディ リアンの「ガーリー」は、もう甘いだけの言葉ではない。ここには新しい強さがある。
オフショルダーのピンクのセットアップ。柔らかなジャージー素材は肌に優しく寄り添うが、ウエストのリボンディテールは、そこに確かに存在する身体を主張する。繊細であることと、現実的であること。この二つは矛盾しない——リアンはそう宣言しているかのようだ。
ネイビーのニットカーディガンから、無数のサテンリボンが滝のように垂れ下がる。可憐さを、ここまで過剰に、執拗に積み重ねると、それはもはや脆さではなく、強さに転化する。ツイード風のホワイトセットアップに揺れる淡いブルーのリボン、ピンクのビーズ刺繍ドレスが放つガラス細工のような煌めき——それらは幻想の衣装でありながら、どこか冷静な眼差しで現代を見つめていた。



母のエプロン、祖母のスリッパ
ここで、コレクションノートに記されていた一節が、ふと脳裏をよぎる。母や祖母のエプロンについての記述だ。
ネイビーのシャツドレス。フローラル柄のロングダウンコート。これらは紛れもなく、日常のワードローブに属するアイテムだ。でも、足元を見てほしい。バニー・スリッパ風のシューズ。リボン付きのフラット。ふわりとしたファートリムのシューズ。彼女たちの足は、現実の硬いアスファルトと、夢の中の柔らかな絨毯を、同時に踏みしめている。
さらに、コレクション全体を通して感じられたのは、「持ち物」へのオマージュである。何度も手に取るお気に入りのカードホルダー、履き慣れたスリッパ、部屋着としてのパジャマ。それらに触れるたびに、ある瞬間、ある感情が蘇る。



新しい成熟の形
サンディ リアン 2026年秋冬コレクションは、派手なコンセプトを掲げるのではなく、自らのDNAを静かに、しかし確信を持って掘り下げた。ガーリーであること。夢を見ること。そしてそれを、朝起きてから夜眠るまでの日常の中で実践すること。
幻想と現実の間で揺れる、その緊張感。支度の途中で立ち止まる、あの一瞬の躊躇。ベッドスプレッドを纏ってキルティングジャケットを作り、シュミーズからドレスを生み出し、バニースリッパでランウェイを歩く。この大胆さは、ブランドの成熟なくしては実現しなかっただろう。
ニューヨークというファッションの中心地で、サンディ リアンは誰よりも個人的で、誰よりも普遍的な物語を紡いだ。それは、プチ・トリアノンの寝室で王妃が見た夢と、今朝私たちがベッドの縁で感じた躊躇が、同じ糸で繋がっているということ。その糸を手繰り寄せ、服という形にすること——それこそが、今のニューヨークにおけるサンディ リアンの、誰にも代えがたい存在理由なのだ。
サンディ リアン 2026年秋冬コレクションの全てのルックは以下のギャラリーから。
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