台北ファッションウィーク2026年春夏:注目の台湾ブランドが描く「Beyond Style」

Taipei Fashion Week

台北ファッションウィークは、10月16日(現地時間)のオープニングショーを皮切りに、17日から19日にかけて全11ブランドによる単独ショーを開催した。

今季は台湾を代表するデザイナーたちが、それぞれの哲学を軸に、時代の感性と伝統の継承を織り交ぜた多様なコレクションを披露。本記事では、その中からOSFが特に注目した6ブランドの最新コレクションを紹介する。

【01 ウーミン(01 WOOMIN)】

リュウ・スー・フワ(Hsu Hua Liu)率いる「01 ウーミン(01 WOOMIN)」は、今季「Cocoon(繭)」というテーマのもと、内省と再生を象徴するコレクションを披露した。

柔らかく流れるドレープと、意図的にずらされたラインが生む立体感。その造形の中には、規律と自由、抑制と解放という相反する感情の緊張が漂っていた。

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スー・フワは、ニューヨークのパーソンズ美術大学(Parsons School of Design)で学んだ後、台湾に帰国し、自身のブランド「01 WOOMIN」を立ち上げた。建築的な構築美と詩的な感性を融合させ、“静けさの中の強さ”という一貫したフィロソフィーのもとで創作を続けている。

今季のコレクションでは、繊細な透け感をもつオーガンザ、日本産の天然繊維、イタリアンウールなど、異なる質感を重ね合わせた多彩な素材を採用。ホワイトとブラックを基調としたミニマルなパレットで、女性のフォルムを包み込みながらも、内に秘めた力強さを静かに引き出した。

一見シンプルでありながら、細部には構築的な意志と繊細な遊びが宿る。ウーミンは流行にとらわれることなく、「時間を超えて生きる服」を追求している。

シーズンを超えて心に残るその佇まいは、スローファッションの理念を体現し、静かな情熱とともに現代の女性像を再定義していた。

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【ダニエル ウォン(Daniel Wong )】

“d.w work”と題された「ダニエル ウォン(Daniel Wong)」の最新コレクションは、機能性と感性の境界を溶かすようなデザインの探求だった。

カナダ生まれのウォンは、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins)で学んだのち、アレキサンダー マックイーン(Alexander McQueen)やヴェルサーチェ(Versace)でプリントデザインを手掛けた経歴を持つ。2014年に自身の名を冠したブランド「ダニエル ウォン」を設立し、探検をコンセプトに、文化や自然、テクノロジーの要素を融合させたコレクションを発表し続けている。

今季のランウェイでは、eVent® PTFE防水メンブレンを採用したテクニカルファブリックや、ミリタリーテイストを思わせるポケットディテール、ドローコード、ジップラインが見せる精密な構築美が際立った。その一方で、流れるような曲線と鮮やかな色使いが、どこか人間味を感じさせる。

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さらに、光沢を帯びたナイロン素材のブルゾンに、幾何学的なプリントやマーブルパターンを重ねたルックが次々と登場。マスタードイエロー、インディゴブルー、アーストーンが織りなすカラーパレットは、都市と自然、機械と人間の共生を象徴しているかのようだ。

また、性別の枠を超えたミックススタイルが多く見られ、シャープなテーラリングにストリートのエネルギーが共鳴。ボリューム感のあるパンツ、ストライプニットやテクニカルシャツ、フレアスカートなどが軽快に交差し、動きの中で衣服が“機能する美”を語りかけた。

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【ハンセン アトリエ(Hansen Atelier)】

台湾人デザイナー、ハンセン・クオ(Hansen Kuo)率いる「ハンセン アトリエ(Hansen Atelier)」は、台湾の伝統衣装やアンティークの着物を素材として用い、チャイナドレスの曲線美と西洋テーラリングの構築性を融合したコレクションを発表。まるで“記憶そのものを纏う”かのような佇まいを見せた。

2021年に設立されたハンセン アトリエは、台湾の伝統服飾文化を現代的な文脈に再解釈し、“新東方美学(New Oriental Aesthetic)”をテーマに掲げている。クオは建築的なパターン構成と繊細なクラフトワークを融合させ、失われゆく文化の断片を丁寧に織り直すように創作を続けている。彼にとって服づくりは、過去と未来、東洋と西洋の記憶をつなぎ合わせる行為なのだ。

ランウェイでは、30年前の黒留袖を再構築したチャイナドレスが観客の視線を奪った。漆黒のシルクに金糸の花模様が浮かび上がり、東洋の静けさと西洋の力強さが響き合う。

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また、淡いピンクのミニドレスには、伝統的なチャイナボタンのディテールが施され、クラシカルでありながらもモダンな女性像を提示。ライトブルーのロングドレスには、繊細な刺繍を施したシアー素材のケープを重ね、古代の王妃が現代に蘇ったかのような幻想的な存在感を放った。

ハンセン アトリエの服づくりは、文化を未来へ継承するための再解釈であり、時代を超えて繋がる感情の記録である。東洋と西洋、過去と現在。その境界を行き来するように生まれる造形美は、台湾ファッションが持つ知性と情熱を鮮やかに映し出した。

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【ストーリー ウェア(Story Wear)】

台湾を代表するサステナブルブランド「ストーリー ウェア(Story Wear)」が今季掲げたテーマは、「台湾の日常を味わう(The Taste of Taiwanese Life)」。それは、ファッションを通じて社会に残る記憶や人々の思いを表現し、日常の中にある「愛」や「つながり」を描き出す試みだ。

ブランドを率いるクアン・チェン(Kuan Chen)は、ロンドンでファッションマネジメントを学んだのち、2018年に台湾でブランドを設立。「服にも責任と物語がある」という信念のもと、廃棄デニムやデッドストック生地を100%アップサイクルし、さらに障害を持つ子どもの母親など、社会的に不利な立場にある女性たちに雇用機会を提供するなど、サステナビリティと社会的包摂を両立させている。

今季のコレクションは、カフェや書店、マーケットといった身近な空間を舞台に展開。再生デニムや廃棄生地を丁寧にパッチワークしたジャケット、シャツ、ワイドパンツが軽やかに揺れ、日常の延長線上にあるリアルな美しさを描き出した。

藍染のような深いブルーに、生成りやオフホワイトが重なり合うカラーパレットは、都市と自然の共生を象徴。中でも、ロングガウンの裾を流れるハンドステッチや、古布を再構成したトートバッグは、時間の蓄積そのものを語っていた。

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ブランドのシグネチャーである“アップサイクル×クラフト”の融合も健在だ。リメイクデニムを解体して生まれたワークジャケットや、異素材を組み合わせたマキシドレスなど、クラシックな要素を現代の感性で再編集。屋外ランウェイと屋内のブックストアという対照的な舞台設定が、衣服と暮らしの境界をあいまいにし、まるで観客が“物語の登場人物”になるかのような没入感を生み出した。

中央に掲げれらたのは、ストーリー ウェアが長年貫いてきた信念「Love is the Answer(愛は答えである)」というメッセージ。衣服を通じて社会問題に光を当て、人と人、土地と文化を再び結び直すという強い想いが、コレクション全体を包み込んでいた。

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【インモリーズ(Inmories)】

ベーシックウェアを再構成することを理念としている「インモリーズ(Inmories)」の最新コレクションは、光、速度、そして構造の融合によって生まれる“動くエレガンス”の探求であった。テーマ「構造の狭間(Structural Interstices)」のもと、ブランドは建築的な精密さとモータースポーツの疾走感を服というキャンバスに落とし込み、“静と動”の美学を体現。

ランウェイでは、レーシングトラックを思わせる映像が流れ、モデルたちはまるで加速する風のように登場した。シルバー、ブラック、ホワイトを基調としたカラーパレットは、速度を視覚化するかのように輝き、メタリックな素材が光を反射しながら未来的なフォルムを描く。

タイトなトップスやクロップドジャケットには立体的な切り替えやシームラインが施され、ボディの動きを建築的に強調。一方で、ワイドパンツやフレアスカートは滑らかな流動性を帯び、硬質な構造の中にしなやかなリズムをもたらしていた。

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メンズでは、レザーライクな素材で構築されたセットアップや、ドライバーズスーツを思わせるジャンプスーツが目を引いた。フロントに大きくプリントされた「INM」のロゴがスピードの象徴となり、アスレチックとアヴァンギャルドが交差する独自のスタイルを確立している。ウィメンズでは、メタリックなフリンジスカートや反射素材のテーラードスーツが、光の動きを纏うかのような存在感を見せた。

インモリーズが描くのは、常に動き続ける未来の肖像。構造の隙間から覗く“感情の光”こそが、このコレクションを貫く真のエレガンスである。

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【ウェイ ツィ ユェン(Wei Tzu-yuan)】

デザイナーのウェイ・ツィ・ユェン(Wei Tzu-yuan)による「ウェイ ツィ ユェン(Wei Tzu-yuan)」は、自然そのものをひとつの言語として読み解いたコレクションを披露した。稲妻を思わせる電光色のイエロー、夕暮れの空を染める炎のようなオレンジ、そして嵐のあとの静寂を感じさせるシルバーやホワイト。自然現象を象徴するそれぞれの色彩が、流動的なフォルムと素材のコントラストの中で呼吸する。

ツィ・ユェンは、2018年に自身の名を冠したブランド「ウェイ ツィ ユェン」を立ち上げた。建築的なパターン構成と人間の感情をつなぐ柔らかな造形を融合させるスタイルが特徴で、彼の創作には常に“人間と自然の共生”という哲学が流れている。

ショーの序盤を飾ったのは、光を吸い込むようなブラックドレス。重厚な質感のベルベットと、細やかに煌めくビーズ刺繍が織りなす陰影は、まるで夜の稲妻の断片を閉じ込めたかのようだ。その後に続いたのは、ライムイエローのセットアップや、メタリックな輝きを放つシルバージャケット。性別という枠を超えた、しなやかで力強い“動的な中性”を表現していた。

中盤ではトーンが一転し、風や水の流れを思わせるブルーやアクアのグラデーションがランウェイを包み込む。透け感のあるシフォンやオーガンジーが用いられ、身体の動きとともに揺れるその軽やかさは、自然と人間の境界線を曖昧にしていた。

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終盤には、オレンジからホワイトへと移り変わるグラデーションルックが登場し、夕焼けから夜明けへと移ろう“時間”の美が映し出された。フィナーレを飾った純白のドレスは、繊細なレースと立体的なラッフルが交錯し、雪解けの大地に芽吹く生命の詩のような静謐な輝きを見せた。

ウェイ ツィ ユェンのコレクションは、単に自然を模倣するのではなく、「自然を生きる人間の感情」そのものだ。混沌と秩序、破壊と再生、静寂と躍動。そのすべてを服で語り、自然と人間が再び対話を取り戻す、その瞬間をランウェイで見事に体現した。

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“Beyond Style” 感性でつながる未来へ

台北ファッションウィーク2026年春夏が提示したのは、装飾のためのファッションではなく、“語るためのファッション”だった。それは文化と環境、そして人間性が交わる場所であり、台湾が世界に向けて放った明確なメッセージでもある。

デザイナーたちが見せたのは、テクニックでもトレンドでもない「感情をデザインする力」。その感性こそ、いま世界が台湾に注目すべき最大の理由と言えるだろう。

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