トム ブラウン(Thom Browne)2026年春夏コレクション──宇宙から届いたモードの宣言

Thom Browne
View Gallery 55 Photos

10月6日(現地時間)、パリ左岸7区の歴史的邸宅「オテル・ド・メゾン(Hôtel de Maisons)」で、トム ブラウン(Thom Browne)は2026年春夏コレクションを発表した。

会場はかつてカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が暮らした壮麗な空間。天井にきらめくシャンデリアの下、整然と歩みを進めるモデルたちの間に突如、緑に輝く“異星人”が出現する。まるでファッションウィークの只中に、ひとつの宇宙が降り立ったかのような光景が広がった。

“We come in peace.”

今季のテーマは、「日常と未知の間の境界を探求する」。トム ブラウンは、現実と幻想、そして人間と異星人の共存を描きながら、モードの言語を新たに再構築した。

ランウェイに現れたのは、緑のクリスタルで覆われた球体ヘルメットをかぶる“宇宙人”たち。ブランドを象徴するグレーフランネルのテーラードスーツに身を包みながらも、袖や脚の数は常識を超えて多い。構築的でありながら生物的でもあるそのフォルムは、まるで異なる重力下で進化した身体構造のようだ。彼らはLOOK番号が表示された未来的なデジタルパドルを手にし、観客たちは、まるで近未来のショールームを覗き込むような眼差しでその光景を見つめていた。

Thom Browne SS26 1055

現実を解体し、再構築するクラフツマンシップ

コレクション全体は、クラシックなテーラリングとアヴァンギャルドな変容の共存によって構成されている。ラグランのようにねじれたショルダーライン、ウエストに向かって滑らかに湾曲し、裾で再び広がるスポーツコート。グレーフランネルのスーツには6本の袖と6本の脚。構築と解体が絶妙なバランスで交錯し、ブラウンの“構造の美学”が極限まで推し進められている。

Thom Browne SS26 0193

プリーツスカートはドロップウエストにベルトを添え、クラシックなクリケットセーターはシュリンク加工によってクロップド丈へと変貌。

ショーノートには「人間にも、異星人にも、すべての存在のためのユニフォーム」と記され、ブラウンが長年追求してきた“ユニフォーム”という概念が、ついに地球を超えた領域に到達したことを物語っている。

Thom Browne SS26 0268

Thom Browne SS26 1501

ディテールの宇宙──クラシックと異界の交差点

ツイード、フランネル、シアサッカーといった伝統的素材には、スターリングシルバーのリングやグロメットが組み合わされ、スパンコールやパッチワークが光の信号のように瞬いていた。だまし絵的モチーフも随所に登場し、クラシックなコードと視覚的錯覚が溶け合う。さらに、パステルブルーの襟やライムグリーンのベルト、そしてドッグバッグをあしらったプレッピードレスは、まるで布そのものが語り出すようであった。

アクセサリーコレクションにも刷新が加えられている。新作のテヴィオット(Teviot)バッグはピンク、イエロー、グリーン、ブラックアリゲーターといった新色で登場。ブランドを象徴するヘクター(Hector)バッグもレッド、ホワイト、グレー、そしてミニサイズのピンクに進化。さらに、エスプレッソカラーのミスター・ボルトン(Mr. Bolton)が静かな重厚感を放った。

Thom Browne SS26 0407

Thom Browne SS26 0510

Thom Browne SS26 1090

Thom Browne SS26 1934

Thom Browne SS26 1577

この異世界的な空間を一層ミステリアスに彩ったのは、ベン・ブルンネマー(Ben Brunnemer)によるサウンドトラック、カーペンターズの「Calling Occupants of Interplanetary Craft(惑星間通信の日の讃歌)」や、『未知との遭遇』(1977)の旋律、そしてミニオンの鳴き声が織り交ぜたBGMだ。クラシックとユーモア、そしてシネマティックな緊張感が共鳴し、サウンド・映像・衣服が溶け合う瞬間、観客は思わず“ファッションショー”という現実を忘れ、未知の宇宙へと誘われた。

異星の祭典、そして静かな余韻

ショー終盤、会場に流れたのはテレビシリーズ『ドクター・フー(Doctor Who)』のテーマ。エイリアンたちが観客に感謝を告げ、やがてトム・ブラウン本人がステージに登場すると、会場は総立ちの拍手に包まれた。

Thom Browne SS26 2334

Thom Browne SS26 2437

奇抜さと緻密さ、詩情と構築。そのすべてが拮抗しながらも完璧な調和を奏でるトム ブランンの2026年春夏コレクション。エレガンスとは、重力に縛られない精神そのものだということをブラウンが再び証明した夜となった。

トム ブラウン 2026年春夏コレクションの全てのルックは以下のギャラリーから。

Copyright © 2025 Oui Speak Fashion. All rights reserved.