3月19日(現地時間)、ヴィヴィアーノ(VIVIANO)は、楽天ファッションウィーク東京にて、2026年秋冬コレクションを発表した。
「Portrait of Her, Unnamed(名前を持たない肖像)」と題された今季、デザイナーのヴィヴィアーノ・スー(Viviano Sue)が向き合ったのは、自己とアイデンティティをめぐる根源的な問いである。
ショーノートの中でスーは、次のように記している。
「私たちは、あらゆるものに名前を与え、分類し、理解しようとする。けれど名前は、ときに輪郭を早く定めすぎてしまう」
自己とは何か。アイデンティティはいかにして形づくられるのか。名づけることで理解しようとする人間の本能と、その行為が孕む限界。その狭間に立ちながら、本コレクションは“名づけられない存在”の輪郭を静かに浮かび上がらせる。
対立する静けさと衝動
幕開けは、白のクリスプなシャツと黒のキュロットによるモノクロームのルック。そこに添えられたピンクのドーム型ハットが、緊張感の中に最初の揺らぎをもたらす。続く、鮮やかなピンクのサテンにボウタイをあしらったブラウスと黒のワイドパンツは、甘さと構築性が拮抗する一着である。
チャコールグレーのウールスーツには、ジャケットとスカートの両面に精緻な刺繍が施される。花を想起させる有機的なモチーフは、明確な定義を与えられることなく、テーラリングの秩序に静かな揺らぎを差し込む。このシリーズが示したのは、ブランドの核にある「Chaos in shimmer through the veil of order(秩序の花々の間からほのかにゆらめくカオス)」の、今季的解釈である。



素材の相克
ショーが進むにつれ、素材の対比はより鮮明になる。オーバーサイズのシャギーファーコートの内側で揺れるグレーのシフォンドレス。ブラックのナイロンブルゾンに重ねられたピンクのチュールスカート。バーガンディのラテックス調素材によるボンバージャケットとバギーパンツは、光を受けるたびに強い存在感を放つ。
一方で、ブラウンのニットトップとチョコレートブラウンのミディスカートによるアースカラーのルックや、クリームホワイトのボリュームあるシルクシャツに同色のフリルを重ねたスタイルは、柔らかな内省を帯びる。硬質と柔軟、重量と軽やかさが、一つのルックの中で呼応する構造である。
それは単なる素材の対比ではない。形を与えようとする力と、形を拒む流動性。その緊張関係そのものが、同コレクションの構造を成している。






輪郭の不確かさ
シルエットに一貫しているのは、身体の輪郭を明確に定義しないという姿勢だった。オーバーサイズのスリーブは肩のラインを曖昧にし、オーガンザやチュールの多層構造がウエストの境界をぼかす。
白のレースを重ねたフロアレングスのドレスは、ブライダルの記憶をにじませながらも、身体の存在を霧の中へと溶かしていく。ベルベットのコートドレスや黒のジャカードによる縦長のシルエットもまた、終点を定めない。服と身体の境界が曖昧になることで、「未だ形になっていない状態」が視覚化されている。
誇張されたボリュームヘアもまた、身体の輪郭を崩し、個の定義を揺るがす要素として機能していた。




カラーパレットは黒、オフホワイト、チャコールグレーを基調に、ピンク、バーガンディ、スモーキーブルー、ゴールドが断続的に差し込まれる。無彩色の連続の中に現れる色彩は、未だ名づけられていない個の気配として立ち上がる。
終盤を飾った2つのルックは、コレクションの感情的な頂点であった。スモーキーブルーのチュールをドレープさせた繊細なマーメイドドレスと、鮮烈なホットピンクのサテンによるトレーンを引くガウン。抑制と解放という対極が、鮮やかに対置される。


ヴィヴィアーノの2026年秋冬コレクションは、服を「誰かになるための手段」ではなく、「定義されないままで在り続けるための手段」として捉え直す試みであった。それは、不確かさを排除するのではなく、その揺らぎの中に留まり続けるという選択だろう。
可能性を閉じることなく在り続けるということ。
その問いを衣服として提示し続けることが、このブランドの本質である。
ヴィヴィアーノ(VIVIANO)2026年秋冬コレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。
Copyright © 2026 Oui Speak Fashion. All rights reserved.
Related