3月6日(現地時間)、ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)は、パリ ファッションウィークにて、2026年秋冬コレクションを発表した。
会場は前回と同様、パリ市庁舎オテル・ド・ヴィル(Hôtel de Ville)。歴史ある石造りの建物を舞台に選んだこと自体、すでにデザイナー山本耀司(Yohji Yamamoto)の意図を物語っている。ショーが始まる前、ゲストの席には一枚のカードが静かに置かれていた。スマートフォンを手放し、目の前に広がるものをそのまま受け取ってほしいというデザイナーからの、言葉少なな要請だ。
着物という原点へ
今シーズンのコレクションは、日本の着物を出発点に構築されている。ただし、それは再現や引用ではない。着物の構造(巻く、重ねる、結ぶという身体との関係性)をヨウジヤマモト独自の造形言語に置き換えた、いわば彼自身による翻訳作業だ。
布は身体のわきに集められ、独自の結び方によって形をつくる。幾重にも重なる衿元やコートの重なり合いから、異素材のテキスタイルが現れる。インディゴのコットンからベルベット、ジャカードまで、素材の格や出自に序列をつけない姿勢もまた、このハウスの一貫した主張だ。全ルックを貫くブラックのパレットは1980年代からの揺るぎない美的基盤であり、そこへ色彩が差し込まれるとき、その効果はより鮮明に際立つ。


北斎、そして色彩の源泉
色彩の源泉は葛飾北斎(Katsushika Hokusai)だ。江戸時代後期の浮世絵師である北斎は、晩年まで制作意欲の衰えを知らず、その版画はゴッホやモネをはじめとするヨーロッパの画家たちに多大な影響を与えた。ジャポニスムの広がりにおいても、極めて重要な存在として知られている。
その北斎のモチーフが、ヨウジヤマモトのブラックの衣に宿る。鶴を描いた大胆なイラスト、うねるように流れる縞模様、そして精緻に織り上げられたジャカード。これらの要素は衣服の構造と一体となり、シルエットそのものを形づくる要素となる。
鮮烈なグラフィックと静謐な緊張感の中で、北斎の世界観は新たなかたちをまとい、現代のランウェイに静かに立ち現れていた。





フィナーレ、伝統の重力
ショーの締めくくりとして登場した5人のモデルが纏っていたのは、厳格なシルエットのニットウェアと木製の下駄だった。
かつて日常に息づいていた下駄の音は、今やほとんど聞こえない。その忘れかけていた感触をランウェイへ呼び戻すヤマモトの眼差しには、失われゆくものへの静かな執着が滲む。


高く結われた髪と、幾層にも重なる布の質量が、ショーの余韻をゆっくりと引き延ばした。ヤマモトがランウェイに姿を現すと、会場は総立ちの拍手に包まれた。
喝采を受けながら礼をするその姿に、観客もまた自然と頭を垂れた。巨匠への敬意が、言葉なく会場全体に伝わった瞬間だった。
ヨウジヤマモト 2026年秋冬コレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。
Copyright © 2026 Oui Speak Fashion. All rights reserved.
Related