10月22日(現地時間)、アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)の元CEOであるマイク・ジェフリーズ(Mike Jeffries)が、性的人身売買の疑いで逮捕された。
また、ジェフリーズのパートナーであるマシュー・スミス(Matthew Smith)と、そして中間役とされるジェームズ・ジェイコブソン(James Jacobson)の二人も、連邦捜査局(FBI)およびブルックリンの連邦検察官による捜査の一環として、起訴された。起訴状には、彼らが若い男性をリクルートし、アメリカ国内および海外で行われたパーティーに参加させ、性行為に従事させたとされている。
捜査当局によると、この性的人身売買と売春ビジネスは2008年から少なくとも7年間にわたり秘密裏に運営されていた。ジェフリーズとスミスは、彼らの財力やジェフリーズのアバクロンビー&フィッチのCEOとしての権力を駆使して、リクルーターやスタッフ、セキュリティを動員し、彼らの性的欲望を満たすための組織を築いていたという。事件に関与したとされる被害者は15人に上り、さらなる被害者がいるとみられている。
またジェイコブソンは、米国内外で若い男性をリクルートし、性行為に従事させるための「試験」を行ったとされている。多くの男性は、これらのパーティーに参加することでモデルの仕事が得られると信じ込まされ、逆に要求を拒むとキャリアに悪影響があると脅されていたと主張している。さらに、ジェフリーズはこれらの「性イベント」を自ら監督し、スタッフを通じて運営していたとされている。
また、起訴状によると、ジェフリーズとスミスは、被害者にアルコールや薬物を強要し、一部の男性には勃起促進剤を注射させたとされている。このビジネスは、国際的な旅行やホテルの手配、セキュリティの確保など、広範なリソースを使って運営されており、事件の規模は大きい。
BBCは昨年、ジェフリーズとスミスが、ハンプトンズやロンドン、ベニスなどで開かれたイベントで男性を性的に搾取していたと報道。FBIは、BBCの同報道をきっかけに捜査を開始した。これにより、ニューヨークでの民事訴訟も提起され、ジェフリーズとスミス、そしてアバクロンビー&フィッチは性的人身売買や強姦の罪で告発されたのだ。
この訴訟の中で、元リアリティ番組「Below Deck」の出演者であるデビッド・ブラッドベリー(David Bradberry)は、ジェフリーズがブランドを「若い男性の過剰な性的表現」を使って成功させたと証言。また、彼はジェイコブソンによってリクルートされ、ジェフリーズとスミスのパーティーに参加するために性行為を強制されたと主張している。
今回の逮捕は、長年続いてきた権力者たちの不正行為に対して司法が追及を始めた重要な一歩として考えられている。米国検事のブレオン・ピース(Breon Peace)は「権力者が、ファッションやエンターテインメント業界で成功することを夢見る若者たちを搾取してきた」と述べ、この問題に終止符を打つ姿勢を示した。
現時点でジェフリーズとスミスの弁護士は、起訴状の公開後に法廷で詳細な反論を行う意向を示しているが、さらなるコメントは控えている。またアバクロンビー&フィッチは、ジェフリーズの逮捕に関して声明を出しておらず、今後の法的な動きが注目されている。
アバクロンビー&フィッチ(A&F)はかつて、セクシーで洗練されたイメージを若者に強烈に印象付け、一世を風靡。しかし、近年では「時代遅れ」や「差別的」といった否定的な評価に直面し、長らく売り上げが低迷していた。そんな中、ブランド戦略を中価格帯にシフトしたことで業績が復活。2024年第2四半期には売上が21%増加し、前年の16%成長を上回った。だが、今回の元CEOマイク・ジェフリーズの逮捕によって、ブランドには大きな打撃が及ぼされるだろう。