LVMH モエ ヘネシー ルイ ヴィトン グループの投資部門であるLVMH ラグジュアリー ベンチャーズ(LVMH Luxury Ventures)が、スウェーデン発のメンズウェアブランド「アワーレガシー(Our Legacy)」の少数株を取得した。この動きは、LVMHが次世代のラグジュアリーブランドを育成するという戦略の一環であり、成長が期待されるメンズウェア市場に向けた積極的な一歩でもある。なお、取引の詳細な条件については明らかにされていない。
LVMH ラグジュアリー ベンチャーズは2017年に設立され、成長性の高いラグジュアリーブランドへの少数株投資を目的として活動している。同部門の投資は、LVMHグループによる完全買収を前提としていないのも特徴だ。2019年にはウルグアイ出身のファッションデザイナーが手がける「ガブリエラ ハースト(Gabriela Hearst)」へ、2022年には、ニューヨーク発のストリートウェアブランドである「エメ レオン ドレ(Aimé Leon Dore)」などへ投資を行ってきた。
アワー レガシーのブランド戦略と価値観
2005年にストックホルムで設立されたアワー レガシーは、創業者ジョクム・ハリン(Jockum Hallin)、クリストファー・ナイング(Christopher Nying)、リチャードス・クラーレン(Richardos Klarén)によって立ち上げられた。
約20年の歴史を持つ同ブランドは、ミニマルでありながらもディテールにこだわるデザインがシグネチャーだ。特に近年では、「静かなクール(Quiet Cool)」と称され、ラグジュアリーとサブカルチャーの絶妙なバランスで世界のファッション愛好家から支持を集めている。
これまでにアワー レガシーは、ステューシー(Stüssy)やエンポリオ アルマーニ(Emporio Armani)とのコラボレーションを通じて、エッジの効いた製品展開とブランド認知の向上を図ってきた。また、スラムジャム(Slam Jam)とのポップアップでは、顧客との繋がりを重視したイベントを行うなど、伝統的なファッションショーのみに頼らず、コミュニティベースのアプローチを大切にしている。こうした取り組みは、世間のトレンドのサイクルからの独立を実現し、一過性の流行に依存しないファンベースの拡大に繋がっている。
LVMHラグジュアリーベンチャーズのアドバイザーズCEOであるジュリー・ベルコビー(Julie Bercovy)は、「アワーレガシーは、現代的なミニマリズムと創造的なサブバージョンの融合を体現しており、新しい市場での展開においてその可能性を高く評価しています」と述べる。
また、アワー レガシーのCEOのクラーレンは、「LVMHラグジュアリーベンチャーズは知識や経験を提供してくれるだけでなく、私たちが真にグローバルなデザイナーブランドになるための道のりを理解し、支えてくれます」と語った。
現在、同ブランドは、ストックホルム、ベルリン、ロンドン、韓国など、世界の主要都市7ヶ所に直営店舗を構え、200以上のセレクトショップで展開されている。今回の投資を受けて、2025年末にはパリに初の旗艦店をオープンし、それを皮切りに東京、上海、香港といった主要都市でも新たな拠点を構える予定だ。
メンズウェア市場における流行の変化
近年メンズウェア市場は、急速に次なる変化への高まりを見せている。
今年9月に LVMHが、売り上げが低迷していたラグジュアリーストリートウェアブランドのオフホワイト(Off-White)を、ニューヨークのブランドマネジメント会社であるブルースター・アライアンス社(Bluestar Alliance, LLC)に売却したことは記憶に新しいだろう。これまでストリートウェアは、ラグジュアリーとカジュアルの境界を曖昧にし、「誰もが手に取れるラグジュアリー」を打ち出す新たな価値観を提案してきた。
しかし、若者を中心に爆発的な人気を誇ったストリートウェアブームは落ち着きを見せ始め、より成熟したスタイルへと市場がシフト。その変化の兆しとして、シンプルさと上質さを重視した「コンテンポラリーファッション」への移行が顕著になってきた。トレンドに左右されない、タイムレスで長く愛用できるアイテムを求める消費者が増加し、デザインと品質にこだわったアイテムが求められている。こうしたニーズに応える形で、アワーレガシーのようなブランドが、洗練されたシルエットと繊細なディテールを重視したファッションを提案し、まさにこの新たな潮流を牽引していると言える。
報じられるところによると、同ブランドの2023年度の売上は3000万ユーロに達し、前年度比で80%もの成長を記録。この驚異的な成長は、ブランドが消費者のライフスタイルや価値観の変化を的確に捉えた結果であり、今回LVMHの投資が入ったことで、この成長がさらに加速されていくと予想されている。
中規模ブランドへの投資トレンド
また最近では、LVMH以外にも、成熟した中規模ブランドへの投資は増加傾向にある。先月は、シャネル(Chanel)のヴェルトハイマー家が投資会社 ムース パートナーズ(Mousse Partners)を通じて、ザ ロウ(The Row)の少数株を取得。さらに、ロレアル(L’Oréal)のベッテンコート・メイヤーズ家も投資会社 テティス インベスト(Tethys Invest)を通じてファッション市場への進出を図っている。こうした動きは、ラグジュアリーマーケットがトップブランドにとどまらず、新しい才能や多様な視点を持つ中規模ブランドにも注目していることを反映している。
今回のアワー レガシーとLVMHラグジュアリーベンチャーズの提携は、間違えなくメンズウェア市場における新たな可能性を開くものだ。高品質なプロダクトを提供しつつも、独自のアイデンティティを貫くアワー レガシーが、LVMHと共にどのような形で成長を遂げていくのか、その行方には業界の視線が集まる。
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