12月11日(現地時間)、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)は自身のインスタグラムで、10年間に渡り務めたメゾン マルジェラ(Maison Margiela)のアーティスティックディレクターを退任することを発表した。このニュースは瞬く間にファッション業界を駆け巡り、衝撃と期待の入り混じった波紋を広げている。
最後の作品となったアルティザナルコレクション
今年1月に、ジョン・ガリアーノが発表したメゾン マルジェラの「アルティザナルコレクション」は、ファッション界に忘れ得ぬ感動をもたらした。繊細なレース装飾の革新、感情を纏わせた「エモーショナルカッティング」、そして素材の可能性を最大限に引き出したデザイン――技術と感性が一体となったそのショーは、見る者の心を掴み、業界全体に新たな基準を示したのである。
だが、この壮大なクリエイションは、彼にとってメゾン マルジェラでの最後の作品となったのだ。ガリアーノの退任は、クリスマスパーティを目前に控えた同ブランドの従業員たちにとって、歓喜と寂しさが入り混じる時間をもたらしていることだろう。
ジョン・ガリアーノ: 再生と挑戦の10年間
ガリアーノは、2014年にメゾン マルジェラのアーティスティックディレクターに就任した。当時、ディオール(Dior)からのスキャンダルを経てファッション界から離れていた彼にとって、この役職は再起の場であり、自らのクリエイティブな声を取り戻す貴重な機会であった。ガリアーノが就任して以降のメゾン マルジェラは、その前衛的なデザインで新たな高みへと到達し、ブランド全体の収益も大幅に向上した。
メゾン マルジェラの親会社であるOTBグループの発表によると、2023年のメゾン マルジェラの売上高は前年比23%増を記録。ガリアーノが就任した2014年当時の年間売上高約1億ユーロから、現在では約5億ドルに迫る勢いで成長しているという。特にアジア市場での直営店の拡大が顕著で、過去4年間で43店舗が日本、中国、韓国を中心にオープンした。さらに、「タビブーツ」やジェントルモンスターとのコラボレーションが、若い世代を中心に話題を呼び、ブランドの知名度を飛躍的に高めた。
また、ガリアーノは、単なるファッションデザインにとどまらず、社会的なメッセージや倫理観をも取り入れることで、メゾン マルジェラを「最も切り開かれたクチュールメゾン」に昇華させた。ジェンダーレスなコレクションの展開、トランスジェンダーやLGBTQ+の権利、メンタルヘルスの重要性を訴えた映画「Mutiny」など、ファッションと文化の融合を常に追求してきた。彼は「クリエイティビティは破壊的な力ではなく、共感とデザインに支えられるものである」と語り、その言葉通りの軌跡を残してきたのだ。
OTBグループの創業者、レンツォ・ロッソ(Renzo Rosso)は、「ジョンと一緒に仕事をしたことは、私の人生で最も意義深く、影響力のある経験の一つでした」と声明で述べ、「彼は私を指導し、ビジョンを見せてくれました。文化的に私を豊かにし、そのビジョンと文化の一部をグループ全体に伝えることを可能にしてくれたのです」と、その功績を称え、感謝を伝えている。
また、ジョン・ガリアーノも自身の退任について、「私はこの安全な空間に感謝し、勇気と尊厳で支えてくれる新しい家族を築けたことを誇りに思っています」とコメント。ガリアーノの次のステップについてはまだ明らかにされていないが、「時が来ればすべてが明らかになるでしょう」と続けた。この別れは「極めて友好的」であり、ロッソも「またジョンと共にプロジェクトを手掛ける日が来ると信じている」と語っている。
一方、メゾン マルジェラの後任については公式発表がないものの、ディーゼル(Diesel)のクリエイティブディレクター、グレン・マーテンス(Glenn Martens)の名前が噂されている。ロッソはマーテンスを「クチュリエのようなデザイナー」と評価し、彼の革新性に大きな期待を寄せているようだ。
ジョン・ガリアーノがメゾン マルジェラで築いた10年は、創造性、回復力、そしてセカンドチャンスの力を証明する深いレガシーを残してくれた。ブランドがその未来を見据える中、ファッション界全体がその次なる章を心待ちにしている。