4月2日(現地時間)、ファッション界で最も注目を集める若手支援プログラムの一つである「LVMHプライズ(LVMH Prize)」が、2025年度のファイナリスト8名を発表した。選出されたのは、今年3月にパリ ファッションウィーク期間中に実施されたセミファイナルで、20組の候補者によってプレゼンテーションされたコレクションの中から選ばれた実力派たちである。
今年のファイナリストには、クラフツマンシップと独自の物語性を軸に世界各地の多様な視点をもつデザイナーが並ぶ。その出身地はフランス、アメリカ、ノルウェー、イタリア、日本、イギリス、オランダと多岐にわたり、今後のグローバルファッションの動向を占うラインナップとなった。日本からは、「ソウシオツキ(SOSHIOTSUKI)」を手がける大月壮士がファイナリストに選出。一方で、同じくセミファイナリストに名を連ねていた「ピリングス(pillings)」の村上亮太は惜しくも最終選考には進めなかった。
2025年度LVMHプライズのファイナリスト8名については、以下の通り。
ファイナリスト一覧(アルファベット順)
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- アラン・ポール(Alain Paul)|ブランド名:Alainpaul|フランス
- ベンジャミン・バロン(Benjamin Barron)&ブロール・オーガスト・ヴェストボ(Bror August Vestbø)|ブランド名:All-In|アメリカ/ノルウェー
- フランチェスコ・ムラーノ(Francesco Murano)|ブランド名:Francesco Murano|イタリア
- ソウシ・オツキ(Soshi Otsuki)|ブランド名:Soshiotsuki|日本
- スティーブ・オー・スミス(Steve O Smith)|ブランド名:Steve O Smith|イギリス
- トル・コーカー(Tolu Coker)|ブランド名:Tolu Coker|イギリス
- トリシェジュ・ドゥミ(Torishéju Dumi)|ブランド名:Torishéju|イギリス
- ダニアル・アイトゥガノフ(Danial Aitouganov)|ブランド名:Zomer|オランダ
アラン・ポール(Alain Paul)
幼少期からバレエに打ち込んできたアラン・ポールは、その身体感覚と美意識をベースに、2023年に自身のブランド「アランポール(Alainpaul)」を立ち上げた。これまでにヴェトモンやルイ ヴィトンで経験を積み、ブランド設立に際しては夫であるルイス・フィリップとともに共同経営を行っている。バレエの動きや精神性にインスパイアされた「バレエコア」の美学を軸に展開されるアイテムは、すでに世界30の小売店で取り扱われており、繊細かつコンセプチュアルなデザインで注目を集めている。
ベンジャミン・バロン(Benjamin Barron)、ブロール・オーガスト・ヴェストボ(Bror August Vestbø)
アメリカ出身のベンジャミン・バロンが学生時代に創刊したファッション雑誌をきっかけに、ノルウェー出身のブロール・オーガスト・ヴェストボと出会い、両者のコラボレーションによってブランド「オールイン(All-In)」が誕生した。作品の主題には、元ミスコン女王やデビュタント、老いたポップスターといった多様なミューズが存在する。「人は1日のなかで何度も異なる顔をまとう」という視点から、変化と演出をテーマにデザインを展開。リアーナ、クロエ・セヴィニー、カイリー・ジェンナーといったセレブリティが彼らの靴を愛用するなど、すでにカルチャーとの親和性も高い。
フランチェスコ・ムラーノ(Francesco Murano)
イタリアの若手デザイナー、フランチェスコ・ムラーノは、卒業前にビヨンセから直接作品の依頼を受けたことで注目を集めた。さらにその後、カーディ・Bも彼の作品を着用し、デビュー直後から国際的な評価を獲得している。古代ギリシャの彫刻美に着想を得た、構築的でドラマティックなシルエットが特徴。2020年にはイタリア版「Who’s On Next」でウィメンズ部門のトップ賞を受賞し、2024年にはCamera Moda Fashion Trustの助成金も獲得。2025年2月にはミラノファッションウィークで初のランウェイショーを開催し、洗練された存在感を示した。
大月壮士(Soshi Otsuki)
日本人デザイナー大月壮士が手がける「ソウシオツキ(Soshiotsuki)」は、2015年のブランド設立以降、独自の視点で日本と西洋のスタイルを融合させてきた。2016年にもLVMHプライズのショートリストに選出されており、今回が2度目の快挙となる。80年代のジョルジオ・アルマーニを思わせるオーバーサイズのスーツや、着物の袖を想起させる裏地、空手着のようにラップされたジャケットなど、伝統と革新の共鳴が特徴だ。ASAPロッキーが雑誌のカバーで着用したことで一気に話題となり、国内外で注目度が高まっている。
スティーブ・オー・スミス(Steve O Smith)
ロンドンを拠点に活動するスティーブ・オー・スミスは、ドローイングを起点とした独自の服づくりで知られる。セントラル・セント・マーチンズを卒業後、彼は自らの手で描いたスケッチをそのまま3Dの衣服として構築する技術を確立。線画をそのまま布地に写し取ったような視覚的インパクトのある作品群は、パターンカッティングの精緻さと構造的美しさが共存する。エディ・レッドメインと妻のハンナ・バグショウがメットガラで着用したことで一躍話題となった。現在はオーダーメイド形式で顧客と直接やり取りを行い、1点ごとに思考と手間を込めて制作している。
トル・コーカー(Tolu Coker)
イギリス出身でナイジェリア系のルーツを持つトル・コーカーは、自身の多文化的アイデンティティを軸に、「記憶」「文化」「アイデンティティ」を纏う衣服としてデザインを位置づけている。セントラル・セント・マーチンズ出身でありながら、イラストレーション、ドキュメンタリー、ファッションフィルム制作など多分野での活動も行うマルチアーティストである。「服は単なる衣服ではなく、記憶のアーカイブであり、文化の担い手であり、アイデンティティの象徴でもある。着るという行為は、過去を敬い、現在を受け入れ、未来を形づくることだ」と彼女は語る。アディダス、ドクターマーチン、スウォッチなどのブランドとも協業を重ねており、社会的な課題を掘り下げる姿勢にも注目が集まっている。
トリシェジュ・ドゥミ(Torishéju Dumi)
英国・ナイジェリア・ブラジルの血を引くトリシェジュ・ドゥミは、複雑な文化背景と伝統をもとに、ファッションに新たなブラック・アートの表現を持ち込むデザイナーである。セントラル・セント・マーチンズのMAメンズウェア課程を修了し、アレキサンダー マックイーン財団の奨学金を得て、セリーヌ(フィービー・フィロ時代)やアン ドゥムルメステール、ジャイルズ ディーコンなどで研鑽を積んだ。2023年のパリでのコレクションでは、ナオミ・キャンベルの登場、ガブリエラ・カレファ=ジョンソンのスタイリング、シャーリー・ル・マンドゥによるヘア演出といった豪華布陣が話題となり、その後ゼンデイヤが映画『Dune: Part Two』のプロモーションで着用したことでも注目度が高まっている。
ダニアル・アイトゥガノフ(Danial Aitouganov)
オランダ出身のダニアル・アイトゥガノフは、ルイ・ヴィトンのメンズウェアチームでファレル・ウィリアムスのもとデザイナーを務めた後、2023年にスタイリストのイムル・アシャとともに自身のブランド「ゾマー(Zomer)」を設立。彼のデザインは、鮮やかな色彩とシュルレアリスティックな構造が特徴であり、ファッションにおける“逆転”の美学を探究している。2025年秋コレクションでは「オポジット・デー(Opposite Day)」というテーマを掲げ、ショーの構成を”フィナーレから始める”という斬新な試みに挑戦。構築的で前衛的でありながら、バイヤーからはボンバージャケットコートなど実用性の高いアイテムにも高評価が寄せられている。
「2025年度LVMHプライズ」ファイナリストの発表は9月3日に
今年の審査について、クリスチャン ディオールCEOのデルフィーヌ・アルノー(Delphine Arnault)は次のようにコメントしている。
「LVMHプライズ第12回を迎える今年、セミファイナリストたちのコレクションは、バックグラウンドや創造的ビジョンの豊かさを際立たせました。彼らは皆、仕立てやクラフツマンシップにおいて感動的な技術と洗練を見せてくれました。この場を借りて、心から祝意を表します。」
なお、最終審査は2025年9月3日、パリのフォンダシオン ルイ ヴィトンにて開催される。この場でグランプリ、カール・ラガーフェルド賞、サヴォアフェール賞の受賞者が発表され、受賞者には最大40万ユーロの賞金に加え、LVMHグループのチームによる1年間のメンタリングが提供される予定だ。
また、2025年の審査員には、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)をはじめ、キム・ジョーンズ(Kim Jones)、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)、ニゴー(NIGO)、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)、ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquière)、マーク・ジェイコブス(Mark Jacobs)、フィービー・フィロ(Phoebe Philo)らが名を連ねており、今年も錚々たる顔ぶれが揃う。
毎年開催されるこのLVMHプライズは、若手デザイナーが国際的な舞台へと羽ばたく登竜門の一つとして知られているが、今回ファイナリストとなった8名もまた、今後のファッションの未来を担う存在として世界から期待を寄せられている。
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