4月2日(現地時間)、ドナルド・トランプ(Donald J. Trump)米大統領は、すべての輸入品に対して一律10%の基本関税を導入するとともに、中国、ベトナム、日本、韓国など主要貿易相手国を対象に、「相互関税(Reciprocal Tariff)」と呼ばれる高率の追加関税を課す方針を発表した。この発表を受け、アジア地域を中心とするファッション業界のグローバルサプライチェーンは、前例のない混乱と再編を迫られている。
ベトナムだけでなく中国・日本も標的に—主要生産拠点への高関税
トランプ政権が発表した関税率は以下の通りである:
- 中国:34%
- ベトナム:46%
- 日本:24%
- 台湾:32%
- 韓国:25%
いずれもファッション・アパレルの生産地として重要な国々であり、特に中国・ベトナム・日本の三国は、アメリカにおける衣料品・シューズ・アクセサリーの輸入量において上位を占めている。このうち、日本製のバッグ・シューズ・高級アパレルは、ラグジュアリー市場やバイヤーをターゲットとした小規模ブランドにとって重要な輸入商品である。
アジア全体が高関税対象となったことで、「脱・中国依存」や「中国+1戦略」の選択肢として注目されていたベトナム・インドネシア・カンボジアも、もはや安全圏ではない。香港のMGFソーシングCEO、マイケル・イー(Michael Yi)は「ベトナムやカンボジアでもすでに価格上昇が始まっており、サプライチェーン全体が圧迫されている」と語っている。
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スポーツブランド、ラグジュアリーブランドへの影響
今回の関税強化で最も打撃を受けるカテゴリーのひとつが、アジアに生産拠点を持つスポーツ・アクティブブランドである。例えば、ナイキ(Nike, Inc.)では、靴の50%、衣料品の28%をベトナムで生産し、アディダス(Adidas AG)は靴の39%、衣料品の18%をベトナムから調達している。
投資評価機関モーニングスターのアナリスト、デビッド・シュワルツ(David Swartz)は「もし関税が拡大されれば、ナイキは問題を抱えることになる」と述べている。加えて、ナイキは中国でも複数のサプライヤーを抱えており、関税34%という異例の水準が、価格設定に重くのしかかる。
また、ラグジュアリーブランドでも日本やイタリア製の高品質素材や付属品の輸入コストが上昇し、商品の価格改定や原価率の見直しを迫られる可能性が高い。
“価格転嫁”の限界とサステナビリティの後退
2019年以降、米国ではすでにスニーカーの平均価格が25%上昇している。米国市場調査会社サーカナ(Circana, Inc.)によると、2021年以降、ランニングシューズ市場は16%成長し、74億ドル規模となっている一方で、消費者信頼感はコロナ禍以来の低水準まで落ち込んでおり、これ以上の価格上昇は需要を冷やす懸念がある。
一方で、関税によるコスト上昇が、環境配慮型素材の導入や、エシカルな生産体制への投資を圧迫するとの指摘もある。業界関係者からは「持続可能性への取り組みが後回しにされる可能性がある」との声も上がっている。
日本ブランドにも及ぶ影響は?
なお、日本からの輸出品には24%の追加関税が適用されることから、アメリカ市場に展開している日本のデザイナーズブランドや革製品メーカーは、価格競争力を失う可能性が懸念される。特に、日本製品の特長である「高品質・低数量」のビジネスモデルは、大量生産・低コスト競争には向かず、バイヤーが仕入れを躊躇する状況が出てくることも想定される。
ファッション業界にとって、今回の関税措置はコスト増だけでなく、構造的な再編を求められるトリガーとなる。こうしたトランプ関税の決定を受けて、ブランド各社は、生産拠点の多極化、価格戦略の再設計、持続可能性とのバランスを再定義する必要に迫られるだろう。
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