デビアス(De Beers)が水面下でダイヤを割引販売ー ジュエリー業界に広がる“不透明さ”

De Beers

5月13日(現地時間)、ラグジュアリーダイヤモンドの世界的リーダーとして知られる「デビアス(De Beers)」が、限られた顧客に対して原石を非公開で10〜20%割引で販売していたことが、米ブルームバーグ(Bloomberg)の報道によって明らかになった。世界最大のダイヤモンド供給者である同社の異例の動きは、先週発表されたラボグロウンダイヤモンド(LGD)ブランド「ライトボックス(Lightbox)」事業の閉鎖とあわせて、ジュエリー業界全体に大きな波紋を広げている。

表には出ない“サイドディール”──緊急在庫圧縮の実態

デビアスは通常、ボツワナで年10回開催する「サイト(Sights)」にて、登録顧客約70社(サイトホルダー)に対し、価格非交渉・数量指定の形で販売を行っている。しかし近月、同社は一部の選ばれた顧客に対し、公式価格から10〜20%引きという特別価格での販売を水面下で実施。目的は明確で、急増する在庫の削減だった。

業界関係者の間では、「価格を公式に引き下げることなく実質的なディスカウント販売を進めている」との見方が広がっており、デビアスの選定基準に透明性がないことへの不満も噴出している。

「ラボグロウン・ダイヤモンド」ブランドの閉鎖──天然回帰のメッセージ

また、こうした在庫圧縮の一環として、デビアスが先週発表したのが、LGDジュエリーブランド「ライトボックス(Lightbox)」の閉鎖である。2018年に誕生した同ブランドは、「LGDは天然ダイヤモンドとは異なるカテゴリー」との立場をとり、1カラット800ドルの線形価格で市場に参入。だが、その後の数年でLGDの市場価格は急落し、卸売価格は90%近く下落。この価格破壊の波により、ライトボックスは競争優位性を失い、“天然 vs. 合成”の明確な分断を演出する形で、ブランドとしての幕を下ろすこととなった。

デビアスCEOのアル・クック(Al Cook)は、「ラボグロウンダイヤモンドの価格下落は、天然ダイヤモンドの希少性と価値を再確認する契機でした」と述べており、今後は天然ダイヤモンドのブランディングと需要喚起に注力する方針を明確にしている。

背景にある“売却圧力”とアングロの構造改革

なお、この一連の動きの背景には、親会社アングロ・アメリカン(Anglo American)による事業再建計画がある。アングロはすでにデビアスの売却を視野に入れており、「在庫をこれ以上増やさず、収益性を改善せよ」という厳しい指示がデビアス経営陣に出されているという。ライトボックス閉鎖もその一環であり、現在進行中の“秘密ディール”も在庫圧縮と売却準備の一環とみられている。

米国関税問題とジュエリー市場の行方

さらに、業界がもうひとつ直面しているのが、米国によるダイヤモンド輸入関税の強化だ。
現在、米国市場に入るすべてのダイヤモンドには10%の関税が課されており、90日間の猶予期間終了後には、さらなる追加関税のリスクもある。米国は世界最大のダイヤモンド消費市場でありながら、国内での採掘は行っておらず、加工の9割はインドに依存。業者は関税回避を目的に米国市場へ在庫を先行投入しているが、今後の価格高騰により消費者需要が冷え込む可能性も指摘されている。

“透明性”が問われるダイヤモンドビジネスの未来

デビアスによる今回の非公開割引販売は、これまで同社が保ってきた供給・価格支配構造の再考を迫るシグナルとも言える。ジュエリーブランドや小売業者にとっても、仕入れ価格の不均衡が販売戦略に直結するなか、「どの仕入先を選ぶべきか」「どのダイヤモンドに信頼を置くべきか」という問いがより一層重くなっていくだろう。

天然ダイヤモンドの価値を再定義するために動き始めたデビアス。だが、その過程で業界にもたらしている“不透明さ”の代償は、ブランドイメージや業界全体の信頼構築にとって、決して小さくはない。

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