イタリア発のラグジュアリーブランド、ゼニア(Zegna)は、このほど、世界最大級の現代アートフェア「アート・バーゼル(Art Basel)」と複数年にわたるグローバルパートナーシップを締結したことを発表した。この提携は、アート、デザイン、そして責任ある企業精神の交差点に立つゼニアの価値観をより明確に打ち出す新たなステージとなる。
アートをブランド言語として捉える、ゼニアの哲学
ゼニアとアートの関係は今に始まったことではない。創業者エルメネジルド・ゼニア(Ermenegildo Zegna)は、1920年代にイタリア・アルプスの自然保護区「オアジ・ゼニア(Oasi Zegna)」を開発するにあたり、地元アーティストたちに公共芸術の制作を依頼した。エットーレ・ピストレット・オリヴィエロやオットー・マライーニらによるモニュメント的な階段、噴水、フリーズ、肖像画は、工場とその周辺の風景を“生きた美術館”へと変貌させた。
ゼニアにとって、工場は単なる生産の場ではなく、文化と美が共存する空間であるべきだという思想が根底にある。この価値観は今も受け継がれ、例えばミラノ本社にはミケランジェロ・ピストレット(Michelangelo Pistoletto)の「Woolen – The Reinstated Apple」が設置されているほか、世界各地のゼニアのストアではウィリアム・ケントリッジやエットーレ・スパレッティによるアートインスタレーションが展開されている。

ゼニアはこれまで、商業性よりも芸術理解の深さを重視してアーティストと関係を築いてきた。例えば、ダニエル・ビュレン(Daniel Buren)、ダン・グラハム(Dan Graham)、ローマン・シグネール(Roman Signer)といった国際的アーティストに対し、ゼニアの精神を体現するサイトスペシフィックな作品制作を依頼。また、ブランドのテキスタイルにおける革新の象徴として位置づけられる「ウールトロフィー・アワード」では、グラハム・サザーランド(Graham Sutherland)、ノット・ヴィタル(Not Vital)、キキ・スミス(Kiki Smith)らに特注のトロフィー制作を依頼している。
アート・バーゼル4都市のフェアに正式参加、VISIBLEプロジェクトと連携
今回のパートナーシップにより、ゼニアはバーゼル、マイアミ・ビーチ、パリ、香港の4都市で開催されるアート・バーゼルすべてにオフィシャルパートナーとして参加。会場では、アート、デザイン、責任ある起業家精神が交差するキュレーション体験を通じて、グローバルな文化的対話を創出していく。
その中核を担うのが、ゼニア財団とピストレット財団が立ち上げた「VISIBLE」プロジェクトだ。これは、社会と関わる芸術活動を支援するフェローシッププログラムであり、アート・バーゼルの展示ディレクターであるヴィンチェンツォ・デ・ベリス(Vincenzo de Bellis)も運営委員として参加することが発表されている。
VISIBLEは新設されたものではなく、ゼニアとピストレット家の100年にわたる関係に根ざしたプロジェクトである。創業期にエルメネジルド・ゼニアがエットーレ・ピストレット・オリヴィエロ(Ettore Pistoletto Olivero)にアート制作を依頼したという歴史が、現代における「アートは人々の生きる場に溶け込むべき存在である」という思想へとつながっている。
また、2025年6月のアート・バーゼル開催期間中には、VISIBLEフェローシップの最新受賞者が発表される予定だ。この受賞は、現代の環境問題や社会課題に取り組む世界各地のアーティストに光を当てるものであり、同時に、ノーベル平和賞候補にもなったミケランジェロ・ピストレットへのトリビュートとしての意味合いも持つ。
こうした今回の提携は、アート・バーゼルとゼニアが共有する「芸術を通じて社会と文化に持続的に貢献する」という価値観を体現するものである。数世代にわたり育まれてきたゼニアのビジョンは、アート・バーゼルとの協働を通じて、ラグジュアリーブランドの新たな役割を提示しながら、今まさに次なる文化的レガシーを築こうとしている。
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