マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)、ディオールを退任─ 約9年の任期に幕

Maria Grazia Chiuri

5月29日(現地時間)、フランスのラグジュアリーメゾン、ディオール(Dior)がマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)の退任を正式に発表した。2016年より同ブランドのウィメンズ部門アーティスティックディレクターを務めてきたキウリは、ディオール史上初の女性クリエイティブディレクターとして知られ、その在任中にブランドは著しい成長を遂げた。

イタリア出身のキウリは、キャリア初期にフェンディ(Fendi)でハンドバッグデザイナーとして経験を積んだのち、ヴァレンティノ(Valentino)に移籍。2008年からはピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)とともに共同クリエイティブディレクターとしてブランドを率いた。ディオールには2016年に就任し、プレタポルテからオートクチュール、アクセサリーに至るまでウィメンズコレクション全体を統括してきた。

キウリが手がけた最初のコレクションで掲げたのは、「モダンフェミニズム」と「フェミニニティ」というテーマ。この理念は彼女のディオールにおけるすべてのクリエイションを通底する軸であり、その象徴的な存在となったのが、「We Should All Be Feminists」とプリントされたTシャツだった。

退任にあたり、キウリは「この並外れた機会をいただけたことを光栄に思います。信頼を寄せてくれたアルノー氏、そして支えてくれたデルフィーヌに感謝します」とコメント。

また、ブランドを率いた9年間の総括として次のように語っている。

「特に、私のチームとアトリエの皆が成し遂げた仕事に深く感謝しています。彼らの才能と専門性があったからこそ、私は“コミットメントある女性のためのファッション”というビジョンを実現することができ、多世代にわたる女性アーティストたちとの密接な対話を重ねることができました。私たちが共に築いたこの特別で影響力ある章を、私は心から誇りに思います。」

実際、キウリは在任中にミカリーン・トーマス(Mickalene Thomas)、ジュディ・シカゴ(Judy Chicago)、ジョアナ・ヴァスコンセロス(Joana Vasconcelos)といった女性アーティストとのコラボレーションを次々と実現。また、世界各地で開催されたショーでは、ローカルアーティストや職人の技術を前面に押し出す演出で国際的な注目を集めた。

彼女が手掛けた最後のショーとなったのは、2日前に開催された2026年クルーズコレクションだ。開催地に選ばれたのは自身の故郷ローマ。ローマでのショー開催は彼女のディオール在任中で初となり、その地でキャリアの節目を締めくくったことは象徴的であった。

なお、彼女の後任は現時点で発表されていないが、2024年4月にロエベを率いていたジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)がディオールのメンズ部門を担当することが明らかになっており、ウィメンズも兼任するのではないかという憶測が業界内で広がっている。

キウリのディオールでの9年間は、フェミニズムを前面に押し出すメッセージ性と、ブランドアイコンの再解釈を通じて、女性たちの声と姿をファッションに刻んだ時代であった。その功績と影響力は、今後のメゾンの歩みにも深く根付いていくだろう。

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