リック・オウエンス(Rick Owens)がパリで初の大規模回顧展『Rick Owens, Temple of Love』を開催

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アヴァンギャルドな美学で世界を魅了してきたリック・オウエンス(Rick Owens)の大規模回顧展『Rick Owens, Temple of Love』が、2025年6月28日よりパリのパレ・ガリエラ(Palais Galliera)で開幕する。展示は美術館の内部だけでなく、ファサードや庭園にまで及び、オウエンスの世界観が空間全体に息づく、まさに創造の神殿とも呼ぶべきスケールで展開される。

1961年、カリフォルニアに生まれたリック・オウエンスは、ロサンゼルスでパターンカッターとしてキャリアを開始し、1992年に自身のブランドを立ち上げた。それ以来、アンダーグラウンド・カルチャーと1930年代のグラマラスなムードに影響を受けながら、構築的かつ洗練されたフォルムを生み出し続けてきた。

初期は限られた資源の中で制作を行い、軍用ブランケットやレザー、払い下げのバッグといったリサイクル素材を再構築。これらをジャケットやドレスに昇華させる独自の手法は、機能と美を融合させたオウエンスの美学を象徴するものとなった。また、黒やグレーなどの沈静色を好み、とりわけ「ダスト(dust)」と名付けた独自のグレーは、彼の代表的なシグネチャーカラーとして定着している。

2003年、活動拠点をパリに移して以降、彼の表現はさらに政治的・社会的な深みを増す。差別や男性中心社会に対する抗議の意志をショーで明確に打ち出し、全員黒人女性によるステップダンスチームを起用したショーや、男性モデルの性器を露出させたランウェイなど、既存の価値観を問い直す試みに挑戦し続けてきた。彫刻的なフォルムや鮮やかな色彩を取り入れた近年の作品は、現代社会への応答としてのメッセージを孕んでいる。

同展では、100体以上に及ぶルックのほか、オウエンス自身の個人的資料や映像、未公開のインスタレーションも公開される。ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau)、ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys)、スティーブン・パリーノ(Steven Parrino)といった芸術家たちの作品も展示され、オウエンスの創作にインスピレーションを与えた文化的背景が浮かび上がる構成となっている。

展示のアーティスティック・ディレクションはリック・オウエンス本人が手がけ、長年のパートナーであるミシェル・ラミー(Michèle Lamy)の存在も展示全体を通して色濃く感じられる。カリフォルニア時代の2人の寝室を再現した空間も設置され、彼女との創造的な関係性に触れることができる点も見どころのひとつだ。

さらに、屋外展示も同展のハイライトだ。ファサードに立つ彫像はスパンコール刺繍の布で覆われ、庭園には家具シリーズを彷彿とさせるブルータリズム建築風のセメント彫刻が30体配置される。また、カリフォルニアの植物やツタを植栽したガーデンは、自然への愛と静けさをも展示空間に呼び込む。

『Rick Owens, Temple of Love』は、単なるファッション回顧展にとどまらず、「愛、美、そして多様性」に対するオウエンスの哲学を空間全体で体感できる体験型のインスタレーションだと言える。圧倒的なスケールと緻密な構成で、来場者に強烈な余韻を残してくれるだろう。

【展覧会情報】

『Rick Owens, Temple of Love』

  • 会場: パレ・ガリエラ(Palais Galliera)
  • 会期: 2025年6月28日〜2026年1月4日 午前10時〜午後6時(金曜は午後9時まで)

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