7月3日(現地時間)、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)率いるJWアンダーソン(JW Anderson)が、ブランド創設以来最大規模の構造改革に着手したことが米WWDの報道により明らかとなった。今後、JWアンダーソンは、クラフトと生活美学を核としたライフスタイルブランドへと刷新され、従来のシーズン制ランウェイショーは無期限で休止される。
このリブランディングは、アンダーソンが2025年6月、ディオール(Dior)のメンズ・ウィメンズ・オートクチュール全ラインを統括する初のデザイナーとして就任した直後から本格的に始動した。歴史的な重責を担いながら、同時並行で自身の名を冠するブランドの構造改革にも着手するという多忙を極める日々の中での決断である。
再始動にあたり、2025年7月7日にはパリ・オートクチュール・ウィーク期間中にマレ地区のギャラリー・ジョセフで、新たなコンセプトを発表するプレゼンテーションが予定されている。以降、ロンドンとミラノの既存店舗は8月に一時閉店し、9月には“キャビネット・オブ・キュリオシティーズ(好奇心のキャビネット)”という新コンセプトのもとで再オープン。さらにロンドン・ベルグラヴィアのピムリコ・ロードを皮切りに、ニューヨークやパリへの新店舗展開も視野に入れているという。公式サイトも全面刷新され、よりシンプルで直感的な構成へと進化する。
刷新後のJWアンダーソンでは、シーズンレスかつタイムレスなプロダクトが中核を成す。カシミアニット、ジュエリー、サングラス、家具、アート、クラフト、ホームアクセサリーなど、生活に根ざしながらも美意識を満たす逸品を軸にラインナップが構成される。いずれの製品も、アンダーソンが長年信頼を寄せる英国および欧州の職人・メーカーとの協業によって生まれたものである。
具体的には、イースト・サセックスのホープ スプリングス(Hope Springs)によるウィンザーチェア、スコットランド製のマッキントッシュスツールのレプリカ、フランスの銅製ジョウロやアンティーク園芸道具、18世紀の織物技術で包まれた蜂蜜の瓶など、機能性と美意識を兼ね備えたプロダクトが揃う。さらに、ルーシー・グレッドヒル(Lucie Gledhill)による手作業のゴールドチェーン、ロンドンのポストカード・ティーズ(Postcard Teas)による焙煎茶、ファーガソンズ・アイリッシュ・リネン(Ferguson’s Irish Linen)製のティータオルなど、日常を豊かにするアイテムが各店舗を彩る予定だ。
一方で、ファッション分野においてもブランドの軸は継続されるが、かつてのような高速サイクルへの回帰は意図していないとのこと。ローファーバッグ、タキシードスーツ、日本製デニム、ロキャロン・オブ・スコットランド(Lochcarron of Scotland)のタータンなど、象徴的なアイテムは引き続き展開され、新色やバリエーションの投入は「必要に応じてのみ」行われる。
「セーターをつくった場合でも、新しいカラーは必要とされるタイミングでのみ追加します。すぐに結果を求める必要はありません。大切なのは、デザインそのものを楽しみ、それを長く愛し続けることです。それは、私自身の住まいや世界の捉え方とも重なる価値観なのです」と、アンダーソンはWWDに語っている。
また、英国の老舗ウェッジウッド(Wedgwood)との協業により、故ルーシー・リー(Lucie Rie)が生前にデザインしながらも未商品化だったティーカップとソーサーの復刻も実現。売上の一部は、ルーシー・リーとハンス・コパー財団、および陶芸を中心とした若手アーティスト支援の基金として活用される予定である。
多忙を極めるジョナサン・アンダーソンの現在地と呼応するように、JWアンダーソンは今、速さよりも深さを、流行よりも継続性を見据えた、ものづくりの思想を宿すブランドへと進化しようとしている。
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