7月14日(現地時間)、高級カシミアブランドとして知られるロロ ピアーナ(Loro Piana)が、サプライチェーンにおける労働搾取の疑いにより、イタリア・ミラノの裁判所から1年間の司法管理下に置かれることが明らかになった。
ロロ ピアーナは、LVMHグループが2013年に株式の80%を取得し、残り20%は創業家が保有し続けている歴史あるブランドである。近年は自然環境の保全や持続可能性への積極的な取り組みが評価されてきたが、今回の裁定は、イタリアのファッション業界に深く根ざすサプライチェーン構造の脆弱性に対し、当局が警鐘を鳴らし続けていることを如実に示している。
裁判所によると、ロロ ピアーナは製造工程の一部を、生産能力を有さないフロント企業2社を経由して、中国系経営者が運営するイタリア国内の工房に再委託していたという。これらの工房では、労働者の権利が著しく侵害され、劣悪な労働環境が常態化していたとされる。
判決文では、「ロロ ピアーナは、より高い利益を追求するあまり、サプライヤーの監督を適切に行わなかった」とし、「過失的に失敗した」と厳しく断じられている。
これを受け、裁判所は同社に外部管理者の任命を命じ、今後最大1年間、コンプライアンス体制の構築と法的要件の履行状況を監督するとしている。是正措置の内容次第では、管理期間が短縮される可能性も示されている。
しかし、こうした構造的問題は、ロロ ピアーナに限ったことではない。今年に入ってから、ヴァレンティノ(Valentino SpA)向けにバッグやアクセサリーを製造していた「ヴァレンティノ バッグス ラボ(Valentino Bags Lab Srl)」も、労働法違反の疑いで同じくミラノ裁判所から司法管理下に置かれている。
同工場は、表向きにはヴァレンティノの正規サプライヤーとされていたが、実態は劣悪な環境下での再委託による製造が横行していた。調査では、未登録あるいは不法滞在の労働者が多数確認され、祝日も含めた24時間体制での就労を強いられていたことが判明している。
さらに2023年以降、ミラノの裁判所によって同様の措置を受けたファッションブランドには、クリスチャン ディオール(Christian Dior)、ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)、アルヴィエロ マルティーニ(Alviero Martini)など、名だたるブランドが名を連ねている。
検察当局は、こうした背景にある構造を「イタリアのファッション業界に広く浸透した、一般的かつ定着した製造手法」と説明。製造業者の多くが小規模かつ非公開の工房で構成されており、サプライチェーンの末端まで法的監督が及ばない現状を問題視している。
実際、ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)の推計によれば、イタリアのこうした小規模メーカー群が、世界のラグジュアリー製品の50〜55%を生産しているという。
裁判所は、2025年5月にファッション企業と当局が締結した「労働搾取撲滅に向けた協定」の存在にも言及し、「この生産体制は、これまでの違反報道や協定の後も継続していた」と厳しく指摘している。
一方、今回の件で刑事捜査の対象となっているのは、契約企業および下請け企業の経営者たちであり、ロロ ピアーナ本体は現時点で刑事告発の対象には含まれていない。だが、親会社であるLVMH全体のESG(環境・社会・ガバナンス)対応への姿勢にも、業界内外からの厳しい目が向けられている。
現在、ロロ ピアーナは同件についてのコメントを控えており、親会社であるLVMHも公式声明を出していない。
今後の焦点は、裁判所が任命した外部管理者による監査の結果と、同社がどれだけ早く、実効性のある是正措置を講じられるかだ。対応が迅速かつ適切であれば、かつてのディオールやアルマーニのように、監視が早期に解除される可能性もある。一方で、他のLVMH傘下ブランドからも同様の問題が表面化すれば、グループ全体の信頼性や投資家からの評価に深刻な影響を及ぼすおそれがある。
ラグジュアリーブランドに求められているのは、もはや美辞麗句に彩られたCSR報告書ではなく、サプライチェーンの末端にまで目を向け、真に“価値あるものづくり”を体現できるかという覚悟だろう。
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