LVMH、マーク ジェイコブスを約10億ドルで売却検討か

Marc Jacobs

ラグジュアリー業界最大手のLVMH モエ ヘネシー ルイ ヴィトン(LVMH Moët Hennessy Louis Vuitton)が、傘下のファッションブランド「マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)」の売却を検討している。売却額は約10億ドル(約1,500億円)と見込まれ、すでに複数の買収候補との交渉が進んでいるという。

この噂は昨年4月にも報道されたが、LVMHは当時、売却の可能性について強く否定。だが関係筋によれば、現在LVMHはJPモルガンを財務アドバイザーに起用し、買収の意向を示す企業と水面下で協議を重ねているようだ。交渉相手には、リーボックの親会社であるオーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group)、WHPグローバル(WHP Global)、ブルースター・アライアンス(Bluestar Alliance)の3社が含まれており、いずれもライセンシングを強みとする米企業である。

7月24日に行われた決算発表の席上、LVMHの最高財務責任者であるセシル・カバニス(Cécile Cabanis)は、「当社にとって良い補完にならない、あるいは適切な運営者でないと判断したブランドは保有し続けない」と語っており、この発言は、マーク ジェイコブスの売却を示唆するものとして注目された。

LVMHはこれまでにも、2016年に、「ダナ キャラン(Donna Karan)」と「ダナ キャラン ニューヨーク(DKNY)」を企業価値6億5,000万ドルで売却。近年では「オフ-ホワイト(Off-White)」や「ステラ マッカートニー(Stella McCartney)」への出資を手放すなど、ブランドの取捨選択を積極的に行ってきた。

一方、買収候補とされるオーセンティック・ブランズ・グループは、米百貨店サックス(Saks)との合弁会社を通じて高級ブランドの展開を進めており、WHPグローバルは今年「ヴェラ ウォン(Vera Wang)」を買収、ブルースター・アライアンスは昨年「オフ-ホワイト」の権利をLVMHから取得している。

マーク ジェイコブスは、1997年にルイ ヴィトン(Louis Vuitton)のクリエイティブディレクターに就任したことで一躍注目を集め、その後自身のブランドもLVMHの支援を受けながら急成長を遂げた。特に「マーク バイ マーク ジェイコブス(Marc by Marc Jacobs)」ラインは、若年層を中心に人気を博し、アクセサリー市場でも存在感を放った。

しかし共同創業者ロバート・ダフィー(Robert Duffy)の離脱以降、ブランドはたびたび戦略を見直してきた。現在はCEOエリック・マレシャル(Eric Marechalle)のもと、マーク・ジェイコブス本人が手がけるクリエイティブなランウェイコレクションと、それにインスパイアされた別チームによる商業ラインを二本柱とする体制を築いている。香水などのビューティー分野も依然として堅調で、ブランド全体の業績は安定しているとされる。

一方で、LVMHは2025年上半期の純利益が前年同期比で22%減となる57億ユーロに落ち込むなど、グループ全体として減収減益を記録した。為替の変動、観光客の減少、前年の高い比較水準などが影響したとされ、グループはブランドポートフォリオの最適化を加速している。

マーク ジェイコブスの売却が実現すれば、LVMHの戦略的転換と、アメリカのライセンシング企業によるラグジュアリーブランド買収の流れを象徴する大きな節目となるだろう。またそこでは、買い手がブランドのイメージとクリエイティブ性をどこまで維持できるか、その手腕が問われることになる。

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