パリのマレ地区に位置するフランスの老舗百貨店「BHVマレ(BHV Marais)」は、11月5日(現地時間)、中国発のウルトラ・ファストファッションブランド「シーイン(Shein)」の常設店舗を6階にオープンした。BHV側はこの出店を「新たな顧客層を迎え入れる挑戦」と位置づけ、店舗面積は約1,200平方メートルに及ぶ。店内には整然と陳列された衣類や、上品にディスプレイされたテーブルが並び、従来のシーインのイメージを覆すような洗練された空間が広がっている。
しかし、この決定はフランス国内で大きな波紋を呼んだ。フランスを代表する百貨店「ギャラリー・ラファイエット(Galeries Lafayette)」は、「当社の価値観に反する」との声明を発表し、シーインとの提携は「ソシエテ・デ・グラン・マガザン(Société des Grands Magasins)との契約義務にも抵触する」と強く異議を唱えた。
また、BHVに長年出店してきた複数のブランドも、シーインの出店方針に抗議し撤退を決定した。なかでも大きな注目を集めたのが、フランスを象徴するファッションブランド「アニエス ベー(Agnès b.)」の決断である。創業者でありデザイナーのアニエス・トルブレ(Agnès Troublé)は、今回の出店に対して強く反発し、自身のブランド売り場を閉鎖する意向を明らかにした。
「シーインは最悪のファストファッション」──強い抗議の声
トルブレは、ウルトラ・ファストファッションがもたらす社会的・環境的影響について強い懸念を示す。彼女は、短期間での大量生産と消費を繰り返すこのビジネスモデルが、雇用や倫理だけでなく、地球環境にも深刻な負担を与えていると指摘。特にSNSによるトレンドの加速が、若い世代の過剰消費を助長している点を問題視しており、「流行のために必要以上の服を買い続けること」そのものがファッションの本質を見失わせていると警鐘を鳴らす。
実際、チリのアタカマ砂漠ではウルトラ・ファストファッションによる大量の衣類廃棄物が放置され、慈善団体ですら引き取りを拒む事態が発生しており、こうした現実は“安さの代償”を如実に物語っている。
児童ポルノ的人形の販売騒動
さらに、シーインは今月3日(現地時間)、「子どもに似た外見」を持つセックスドールを販売していたとして国際的な批判を浴びた。フランスの消費者監視機関は「児童ポルノ的性質を持つ内容であることに疑いの余地はほとんどない」と強く非難し、問題は瞬く間に拡大した。これを受け、同社はグローバルプラットフォーム上でセックスドールの販売を全面的に禁止。すべての関連販売者アカウントを永久凍結し、成人向け商品のカテゴリーを一時的に削除したほか、関連する画像や掲載情報も全て削除したと発表した。さらに、今後は「違法または規定に違反する販売行為に対して、世界規模での監視体制を強化する」との声明を出している。
倫理的な問題に敏感なトルブレは、この件にも強い嫌悪感を示した。「吐き気を催すほど悲惨な話」として、ブランドとして関与を断固として拒否する姿勢を明確にしている。彼女が掲げる「少なく買って、より良いものを選ぶ」という理念は、流行消費の渦に抗うメッセージでもある。30年以上前の服を今も着続けるという彼女にとって、今回のBHV撤退は信念の延長線上にある行動だ。
「契約は1月末まで残っていますが、数週間後には完全に閉店します。この決断は取り返しのつかないものです」と語る言葉には、デザイナーとしての倫理観と静かな決意がにじむ。
なお、シーインは今回のパリ・BHVマレ内の新店舗を自社のフランス第一号店と位置づけており、今後はディジョン、ランス、グルノーブル、アンジェ、リモージュの5都市に順次展開する計画を明らかにしている。オンラインを主軸として急成長した同社は、リアル店舗の拡大によってブランドの実体感を強化し、フランス国内における存在感を高める狙いだ。
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