バルマン(Balmain)、新クリエイティブディレクターにアントナン・トロンを任命

アントナン・トロン(Antonin Tron)

11月12日(現地時間)、フランスのラグジュアリーメゾン「バルマン(Balmain)」は、新たなクリエイティブディレクターとしてアントナン・トロン(Antonin Tron)を迎えたことを正式に発表した。今月付で就任したトロンは、2026-27年秋冬コレクションをもって来年3月にパリでデビューを飾る予定である。

ルスタンが築いた14年の時代に幕

今回の交代は、14年間にわたりブランドを率いてきたオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)の退任を受けたものだ。2011年、当時25歳という異例の若さでディレクターに就任したルスタンは、フランスのファッションメゾンで初の黒人ウィメンズデザイナーとして歴史を刻んだ。彼の在任中、バルマンは文化的影響力と商業的成功の両面で急成長し、売上はおよそ10倍に拡大。メゾンの存在感を世界的に押し上げた。

アトライン(Atlein)創業者としての評価

アントワープ王立芸術アカデミー出身のアントナン・トロン(Antonin Tron)は、卒業後にルイ ヴィトン(Louis Vuitton)、ジバンシィ(Givenchy)、バレンシアガ(Balenciaga)、サンローラン(Saint Laurent)といった名門メゾンで経験を積んだ。ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquière)、アレキサンダー・ワン(Alexander Wang)、デムナ(Demna)といった歴代ディレクターのもとで研鑽を重ね、構築的なシルエットと素材の動きを読む感性を磨いた。

2016年、トロンは自身のブランド「アトライン(Atlein)」を立ち上げる。ブランド名は、サーフィンを愛する彼にとって象徴的な“海の波のライン(at line)”に由来し、“身体と自然の調和”という理念を掲げている。流れるようなドレーピングと彫刻的な構築美を融合させたコレクションは、すべてフランス国内で生産され、サステナブルなものづくりを徹底する姿勢でも注目を集めた。

トロンは、素材の動きと身体との対話を追求し、ジャージー素材を中心に布の柔軟性とエネルギーを最大限に引き出すデザインを展開。女性の身体を美しく包み込みながらも、知的で抑制の効いたセクシュアリティを表現するスタイルを確立した。

また、フェミニズムやジェンダー、環境問題など、現代社会が抱えるテーマを創作の源とし、“倫理性と美学の両立”をデザイン哲学の根幹に据える。アトラインの服は、ミニマリズムの中に情感を宿し、強さと繊細さを併せ持つ現代女性像を体現している。

今回の就任に際し、トロンは次のように声明を発表している。

「このたびバルマンという素晴らしいメゾンに加わることができ、大変光栄に思います。そして、この特別なブランドを託してくださったラシッド氏とマッテオに深く感謝しています。今日のようなグローバルブランドへとバルマンを築き上げたオリヴィエ・ルスタンにも、心からの敬意と感謝を表します。

バルマンには、実にインスピレーションに満ちた歴史があります。その核心には、サヴォアフェール(職人技)、文化、官能性、そしてエレガンスが息づいており、それは輝き、精密さ、大胆さを併せ持つファッションです。こうした精神は私自身の感性と深く共鳴しており、この素晴らしい遺産の上に新たな章を築く機会を得たことを光栄に思います。」

バルマンが迎える新時代

バルマンの親会社メイフーラ(Mayhoola)会長ラシッド・モハメド・ラシッド(Rachid Mohamed Rachid)は、「クラフトマンシップと芸術的感受性に根差した彼の思慮深いデザインは、ハウスに新しい刺激をもたらす」と述べている。

また、CEOのマッテオ・スカルボッサ(Matteo Sgarbossa)は、「トロンのドレーピングの技法はピエール・バルマンが掲げた“ドレスメイキングとは動きの建築である”という理念の継承である」とコメント。

2026年3月にパリで披露される、トロンのデビューコレクション「バルマン 2026-27年秋冬」に、今から大きな期待が寄せられている。

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