11月12日(現地時間)、イタリアのトリノを拠点とする「ベーシックネット(BasicNet)」は、アメリカの老舗アウトドアブランド「ウールリッチ(Woolrich)」の欧州事業を買収する契約を締結した。売り手は、リヒテンシュタイン公室と国際的投資家によって設立されたルクセンブルクの投資ファンド「L-Gam」。取引総額は9,000万ユーロに上る。
欧州市場でのブランド再構築を狙う
1994年にマルコ・ボリオーネ(Marco Boglione)によって設立されたベーシックネットは、ケーウェイ(K-Way)、スペルガ(Superga)、カッパ(Kappa)、ローブ ディ カッパ(Robe di Kappa)、セバゴ(Sebago)、ブリコ(Briko)などを擁する上場企業である。現在は、自社での製造は行わず、ブランド開発・マーケティング・ライセンス管理を統合する「Web統合型ビジネスモデル」を採用している。
今回の買収により、ベーシックネットはウールリッチの欧州地域におけるブランド権と、流通・小売事業を担う「ウールリッチ・ヨーロッパ(Woolrich Europe S.p.A.)」の全株式(100%)を取得する。ウールリッチ・ヨーロッパの2025年度売上見込みは9,000万ユーロとされており、企業価値とほぼ同水準だ。
支払いのうち1,200万ユーロは、ベーシックネット株式120万株(1株10ユーロ相当)の譲渡で行われる予定で、株式は24か月間のロックアップが設定される。また、2026年から2028年の3年間の業績に応じて追加報酬を支払う仕組みも設けられた。
資金調達は、イタリアのユニクレジット銀行(UniCredit S.p.A.)が単独貸し手となり、最大9,000万ユーロの中長期クレジットラインおよびリボルビングファシリティを活用。取引完了は2025年12月に予定されている。
アメリカ最古のアウトドアブランド、ウールリッチ
1830年、ペンシルベニア州でジョン・リッチ(John Rich)とダニエル・マコーミック(Daniel McCormick)が創業したウールリッチは、狩人や伐採労働者のための防寒衣料から始まった。1850年には赤と黒の「バッファローチェック」を発表し、1972年にはアラスカ・パイプライン建設に従事する労働者のために「アークティック・パーカ(Arctic Parka)」を開発。アウトドアとクラフトマンシップを象徴するアメリカ最古のブランドの一つとして、長い歴史を刻んできた。
こうした伝統を踏まえ、ベーシックネットの共同CEO、ロレンツォ・ボリオーネ(Lorenzo Boglione)とアレッサンドロ・ボリオーネ(Alessandro Boglione)は声明で次のように述べている。
「ウールリッチは、国際的なアウターウェア市場において他に類を見ない歴史とアイデンティティを持つ特別なブランドです。我々が守り、発展させ、再び輝かせたい“文化的で真正な遺産”をまさに体現しています。」
「この買収は、当社が掲げる“ダイナミックかつ責任あるブランド経営”という長期ビジョンと完全に一致するものです。経済環境が複雑化する中にあっても、我々のビジネスモデルの強さとチームの経験によって、ウールリッチを再び成長軌道に乗せることができると確信しています。」
L-Gamと中国バオシーニアオとの連携構造
ウールリッチは、2016年にイタリアのアパレル会社「WPラヴォリ イン コルソ(WP Lavori in Corso、以下WP)」がアメリカ本社ウールリッチの80%株式を取得し、共同出資会社「ウールリッチ・インターナショナル(Woolrich International)」を設立した。WPが筆頭株主としてブランド運営を主導したのち、2018年にその持株をルクセンブルクの投資ファンド「L-Gam」が買収した。
さらに2024年には、中国のアパレルグループ「バオシーニアオ・ホールディング(Baoxiniao Holding Co., Ltd.)」が、欧州以外すべての地域におけるウールリッチの知的財産権を取得。この結果、欧州市場をベーシックネットが、アジア・北米市場をバオシーニアオがそれぞれ統括する二極体制が確立され、ブランドのグローバル再構築が進められている。
L-Gamアドバイザーズの創業者兼パートナーであるフェリペ・メリー・デル・ヴァル(Felipe Merry del Val)は「ベーシックネットの支援のもと、ウールリッチは今後も国際的な成長を続け、アウトドアライフスタイル分野におけるリーダーシップをさらに強化していくでしょう」とコメント。
また、ウールリッチCEOのロレンツォ・フラミーニ(Lorenzo Flamini)は、ブランドの未来について次のように語る。
「この取引は、ウールリッチの新たな歴史の始まりを示すものであり、ブランドのアイデンティティを強化し、約200年にわたる伝統を現代的な視点で再解釈しながら、国際的な存在感を拡大することを目的としています。」
なお、ベーシックネットの2024年度の連結売上高は4億920万ユーロ(前年比3.1%増)、EBITDAは6,110万ユーロ(同5.1%増)と堅調に推移。安定した財務基盤を背景に、今回の買収によってプレミアム・アウトドア市場での存在感をさらに強化する構えだ。
取引発表当日、同社の株価は0.3%高の7.33ユーロで取引を終え、市場からもその戦略を好意的に受け止める動きが見られた。
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