12月4日(現地時間)、パントン・カラー・インスティテュート(Pantone Color Institute)は2026年の「カラー・オブ・ザ・イヤー」を発表し、『PANTONE 11-4201 クラウド ダンサー(Cloud Dancer)』を選出した。クラウドダンサーは、白の中でもひときわ控えめで、柔らかく、空気をふくむような軽やかさを感じさせる色味が特徴だ。
混乱の時代に求められる“静かな明晰さ”
パントン・カラー・インスティテュートのエグゼクティブディレクター、リーアトリス・アイスマン(Leatrice Eiseman)は『クラウド ダンサー』を次のように説明する。
「変革の只中にあり、私たちが未来や世界の中での自分たちの在り方を再構築しようとしている今、『PANTONE 11-4201 クラウド ダンサー』は“明晰さ”を約束する控えめな白です。」
「私たちを取り巻く騒音はあまりに大きく、自分の内なる声が聞こえにくくなっています。クラウド ダンサーは“意識的なシンプルさ”を示す色であり、集中力を高め、外的な干渉から私たちを解放してくれます。」
選考背景にあるのは、世界的な「疲労感」と価値観の転換
パンデミック以降、世界は急速なデジタル化、テレワーク、そして絶えない情報負荷に直面してきた。生活スタイルや人の価値基準にも大きな問いが浮かび上がっている。
パントン・カラー・インスティテュート副社長 ローリー・プレスマン(Laurie Pressman)は、こうした状況を踏まえて選考背景を語る。
「私たちは休息を求め、癒しを求め、感情的な距離を求め、そして視覚的な過剰刺激から解放されたいと感じています。だからただ、一歩引きたいのです。」
“色の人類学者”とも呼ばれるパントンの国際チームは、2026年を「回復と再構築の間にある過渡期」ととらえており、その文脈のなかで、『クラウドダンサー』のような控えめな白が選ばれたのだ。
インテリアでは“緊張をほどく空間”をつくる色
また、アイスマンは、インテリア領域における『クラウド ダンサー』を、”機能と感情が溶け合い、静けさと広がりのある空間を生み出す色”だと語る。
丸みを帯びた家具、柔らかいテキスタイル、スパを思わせるバスルーム、光が通るベッドルーム。こうした要素と『クラウドダンサー』を組み合わせることで、“ミニマルなのに冷たくない”空間が生まれる。医療的な無機質さを感じさせないのも特徴で、人が安心して呼吸できる“余白”を与える色である。
ファッションでは軽やかさと温かさを両立
ファッション領域でも、『クラウド ダンサー』の柔軟性は、より広い表現を生む。
アイスマンは以下のようなスタイルとの調和を提示している。
- 身体を包み込みながらも軽やかに見えるパフシルエット
- 動きのあるオーガンザやシフォン
- 世界的定番となった白スニーカー
- 急がず、飾り立てず、控えめで、主張しすぎない──“コンフォータブル・エレガンス”
『クラウド ダンサー』は、素材の透明感、軽さ、空気を含むような動きと相性がよく、ミニマルでありながら心地よい“静的ラグジュアリー”を構築する色なのだ。
アートやプロダクト領域でも広がるコラボレーション
今年の選出を記念し、パントンはアーティストとの新たな協働プロジェクトも開始する。その第一弾として、イラストレーター・ビジュアルアーティストの エミリアーノ・ポンジ(Emiliano Ponzi) が、『クラウド ダンサー』をテーマにした限定トートバッグを制作することが発表された。バッグは Pantone.comで販売される予定である。
また、2026年のカラー・オブ・ザ・イヤーは、今年も多彩なコラボレーションとプロダクト展開を伴って登場している。たとえば、クラウドダンサーの色を採用した Motorola Edge 70、Play-Doh による触覚的な色表現、洗練された Post-it とのコラボレーションなど、日常のプロダクトに新たな視覚体験をもたらす企画が次々と発表されている。
さらに、ホームデザイン領域では「ジョイバード(Joybird)」との協業により、“Silk Eyelash”、“Karina(シェニール糸のテクスチャー)”、“Soul(温かみのあるヴィンテージ調テクスチャー)”といった、静けさと内省を誘う新たなファブリックが登場した。300種類以上のカスタマイズ可能なジョイバードの家具でクラウドダンサーを選べることから、この色は空間づくりにおいても幅広いインスピレーションを提供する。
ファッション、ビューティ、ホームデコール、マルチメディアデザインなど多岐にわたる領域で、『クラウドダンサー』の応用例がすでに示されており、今後その展開はさらに広がる見込みだ。

クラウド ダンサーが示す2026年の価値観
なお、2025年の「カラー・オブ・ザ・イヤー」には「モカムース(Mocha Mousse)」、2024年には「ピーチファズ(Peach Fuzz)」、2023年には「ビバマゼンタ(Viva Magenta)」が選ばれている。こうした色の系譜をたどると、パンデミック以降の世界が求める情緒や価値観の変化がより鮮明に浮かび上がる。
『クラウド ダンサー』が象徴するのは、大きな変化の渦中にある世界に対して「一度立ち止まり、自分の内側の声に耳を傾ける」という行為の重要性である。混乱と加速が続く時代において、この色は、不要なものをそぎ落とし、未来を見渡すための“静かな余白”を提示する存在でもある。
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選考背景にあるのは、世界的な「疲労感」と価値観の転換
