イタリアのラグジュアリーブランド「プラダ(Prada)」が、インドの伝統的なレザーサンダル「コルハプリ・チャパル(Kolhapuri Chappals)」に着想を得た限定コレクションを正式に始動させる。これは、マハラシュトラ州のLIDCOM(レザー産業振興公社)およびカルナータカ州のLIDKARという、インド政府系のレザー産業振興機関との協業によるものだ。
両者はムンバイの在インド・イタリア総領事館にて覚書(MoU)を締結。これにより、マハラシュトラ州およびカルナータカ州の熟練職人が、伝統技法を用いてサンダルを製造し、プラダのデザインと素材を融合させた限定コレクションが展開される。
このコレクションは「PRADA Made in India × Inspired by Kolhapuri Chappals」と題され、2026年2月に世界40のプラダ直営店および公式ECサイトでローンチ予定。初回生産数は2,000足で、1足あたりの価格は約800ユーロを想定している。
背景にあった文化的批判と、協業への転換
この動きの背景には、2025年6月に発表されたプラダの2026年春夏メンズコレクションがある。同ショーで披露されたトーリング付きレザーサンダルが、何世紀にもわたり受け継がれてきたコルハプリ・チャパルに酷似しているとして、ソーシャルメディアを中心に批判が広がったのだ。
コルハプリ・チャパルは、2019年に地理的表示(GI)タグを取得した、インドを代表する伝統工芸品であるため、職人団体やマハラシュトラ商工会議所が正当な帰属表示を求める声が上がり、ボリウッド俳優のカリーナ・カプール(Kareena Kapoor)ら著名人も公に懸念を表明した。
この反響を受け、プラダは公式声明を発表するとともに、技術チームをインド・コルハプリへ派遣。現地職人との対話を経て、今回の正式協業へと至った。
「Made In…」プロジェクトの新たな展開
このプロジェクトは、プラダが10年以上前に開始した「Made In…」プロジェクトの延長線上に位置づけられる。「Made In…」は、世界各地の卓越した職人技を尊重し、現代的なデザインと結びつけることを目的としてきた。
プラダのチーフ・マーケティング・オフィサー兼コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ責任者であるロレンツォ・ベルテッリ(Lorenzo Bertelli)は、次のようにコメントしている。
「LIDCOMおよびLIDKARとの協業は、単なる製品開発にとどまらない、意義ある文化交流から生まれたものです。すべての関係者の声を尊重しながら、より大きな取り組みとして形にしました。本コレクションの発表を誇りに思うと同時に、インドの職人たちを支援し、彼らの卓越したクラフツマンシップが進化する現代の産業において確かな位置を占め続けられるよう、トレーニングプログラムの開発にコミットしていきます。」
技術継承と経済的自立を支える3年間の育成計画
協業の柱となるのが、3年間にわたる職人育成プログラムである。プラダ グループは、インド国内およびイタリアのプラダ・アカデミー双方で研修機会を提供し、伝統技術の保存と現代的スキルの強化を同時に進める方針だ。
LIDCOMのマネージング・ディレクターであるプラーナ・デシュブラタール(Prerna Deshbhratar)は、プラダの関与が需要喚起と職人の誇り回復につながるとの見解を示している。
インド政府も評価、「10億ドル産業」への期待
またこの動きについて、インドのピユシュ・ゴヤル商工大臣(Piyush Goyal)は、インドの通信社PTIに対し、「私は以前から、コルハプリ・チャパルがインドから10億ドル規模の輸出を達成できると考えてきました。そのポテンシャルに向けて、両者が協力し合うことを期待しています」とコメントした。
ゴヤル大臣は、コルハプリ・チャパルが単なる伝統工芸品にとどまらず、グローバルブランドとして成長する可能性を秘めていることを強調した。
「敬意あるコラボレーション」という一つのモデルへ
今回のプラダの選択が示しているのは、文化を単なるインスピレーションの源として消費する姿勢からの明確な転換である。そこにあるのは、声に耳を傾け、技術を守り、尊厳を共有するという姿勢だ。
グローバル化が加速するファッション産業において、同プロジェクトは、ヘリテージ、クラフツマンシップ、そして現代ラグジュアリーが、より公平な関係性のもとで共存し得ることを示す、「敬意あるコラボレーション」の一つとなる。
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