12月2日(現地時間)、プラダ・グループ(Prada Group)は、米カプリ・ホールディングス(Capri Holdings)からヴェルサーチェ(Versace)を買収する取引を正式に完了したと発表した。買収額は企業価値ベースで12億5,000万ユーロ(約13億7,500万ドル)であり、4月の最終合意発表から約半年を経て、必要な規制承認を受け無事クローズに至った。
プラダ・グループCEOアンドレア・グエッラ(Andrea Guerra)は当初より「この旅の準備は整っている」と述べ、長期視点でヴェルサーチェの再建に臨む姿勢を強調していた。また、同グループの後継者でありCSR責任者を務めるロレンツォ・ベルテッリ(Lorenzo Bertelli)が、ヴェルサーチェのエグゼクティブ・チェアに就任することも明らかになっている。
ヴェルサーチェに求められる構造改革
ヴェルサーチェは1978年にミラノで創設されたイタリアンラグジュアリーの象徴であり、強烈なブランドコードと文化的影響力で世界的に知られてきた。しかし近年は業績面で厳しい局面が続いていた。
カプリ・ホールディングスによれば、2025年度の売上高は前年から15%減少し1億9,300万ドルにとどまった。2024年第3四半期以降は四半期ベースでも売上・利益の減少が続き、ブランドの抜本的な立て直しが急務となっていた。
さらに、カプリとタペストリー(Tapestry)の合併計画が米連邦取引委員会の反対により頓挫したことで、カプリは2025年2月にヴェルサーチェ売却を決断。複数の候補が浮上するなか、最終的にプラダ・グループがブランドの舵を握ることになった。
プラダ・グループは今回の買収によって、ヴェルサーチェが掲げてきた以下の戦略を実行に移す役割を担う。
- ブランドコードの再強化
- アクセサリー事業の拡大
- メンズ領域の成長
- 高価格帯でのプレゼンス向上
ダリオ・ヴィターレによる“新生ヴェルサーチェ”
また、2025年3月には、ダリオ・ヴィターレ(Dario Vitale)がドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)の後任としてチーフクリエイティブオフィサーに就任した。ブランドとしては初となる“非ファミリーメンバーの指揮官”である。
同年9月のミラノ・ファッションウィークで披露したデビューコレクションは、1980年代の美学を現代的に再解釈した鮮やかなデニム、装飾ブラ、タイトなシルエットが並び、シーズンの話題をさらった。主要リテーラーからの評価も高く、再建に向けた明確な追い風となっているようだ。
イタリア製造ネットワークへの統合
プラダ・グループは現在、ヴェルサーチェを自社のイタリア製造ネットワークへ統合する準備を進めている。同グループが運営する職人育成アカデミー「Scandicci」では、レザーグッズ製作の高度な技術が日々継承されており、このノウハウがヴェルサーチェにも適用されることで、製造品質、供給体制、原価率など多面的な改善が期待されている。
プラダ・グループにとっての戦略的意義
今回の買収により、プラダ、ミュウミュウ(Miu Miu)、チャーチ(Church’s)にヴェルサーチェが加わり、グループのブランドポートフォリオは一段と厚みを増す。文化的背景も美意識も大きく異なるブランドが揃うことで、競合他社にはない“非重複型ポートフォリオ”を構築できる点は、プラダにとって大きな強みである。
もちろん短期的には、ヴェルサーチェの業績不振による利益率圧迫は避けられない。しかし、中長期的にヴェルサーチェが「文化的影響力」と「商業的成功」を両立できれば、今回の買収はプラダ・グループ、さらにはイタリアラグジュアリー全体にとって、歴史的な決断だったと評価されるだろう。
Copyright © 2025 Oui Speak Fashion. All rights reserved.