ファッションECにおいて、長年にわたり解決されてこなかった構造的課題がある。それが「サイズとフィットの不確実性」である。画面越しでは、素材の落ち感やシルエット、そして自分の体型との相性を正確に把握することが難しく、その結果として高い返品率と購買機会の損失が常態化してきた。
こうした課題に対し、新たな解決策を提示したのが、AI企業の「キャッチズ(CATCHES)」である。同社は3月16日(現地時間)、物理ベースAI技術「RealFit」を発表した。同技術は、単なるビジュアル再現にとどまらず、実際の生地特性や構造を反映した“フィットの可視化”を可能にするものだ。「エヌビディア(NVIDIA)」のCUDAプラットフォーム上に構築されており、オンライン上で衣服のサイズ感やフィット、ドレープを高精度に再現する、新たな購買体験を実現する。
また、キャッチズは同時に、アントワーヌ・アルノー(Antoine Arnault)やナタリア・ヴォディアノヴァ・アルノー(Natalia Vodianova Arnault)らを含む投資家から、総額1,000万ドルの資金調達を実施したことも明らかにした。
ミリ単位で再現されるリアルな試着体験
「RealFit」は、ユーザーが自身の身体サイズと写真を入力することでデジタルツインを生成し、その上で衣服の着用イメージを再現する。特徴は、単なるビジュアル表現ではなく、生地の重さや構造、ドレープや動きといった物理的特性まで反映される点だ。
これにより、消費者はサイズごとの違いを比較しながら、自身に最適なフィットを事前に把握することが可能となる。従来のオンラインショッピングにおいて課題とされてきた「サイズ不確実性」に対する有効なアプローチといえる。
なお、同技術は、「アミリ(AMIRI)」の公式サイトにて初めて公開されており、今後2026年中に複数ブランドでの導入が予定されている。
ファッションECの課題解決に向けたアプローチ
キャッチズの創業者兼CEOであるエド・ヴォイス(Ed Voyce)は、今回の取り組みについて次のように述べている。
「ファッションECにおける最大の課題の一つは、顧客がその衣服が自分に合うかどうか分からないことです。このフィットに対する不確実性は、オンラインでのコンバージョンを低下させ、一部のカテゴリーでは50%以上という高い返品率の原因となっています。」
「CATCHESのRealFit技術は、実際の素材やカット、正確なサイズとフィットを理解した、パーソナライズされたフォトリアルな体験を提供することで、この問題を解決します。NVIDIAの支援のもと、私たちはブランドに対して完全にカスタマイズされた提供価値と、AI時代にふさわしい顧客体験を実現していきます。」
AIと物理法則の融合による革新
同社は約2年にわたり、GPUを活用した独自のシミュレーションフレームワークを開発してきた。実際の生地をもとに構築された物理モデルとAIを組み合わせることで、衣服の重量や構造、ドレープ、動きといった要素を1:1で再現することを可能にしている。
このシステムは、エヌビディアのOmniverseやCUDA、Newton Physics Engineを基盤とし、独自にトレーニングされた拡散モデルやVLM、LLMと統合されている。
エヌビディアのリテールおよびCPG向けAI部門のVP兼GMであるアジタ・マーティン(Azita Martin)は、次のように述べている。
「アクセラレーテッド・コンピューティングは、デジタルファッション体験に新たな可能性をもたらしている。CATCHESは、NVIDIA Omniverseとアクセラレーテッド・コンピューティング基盤上に構築された、物理ベースのシミュレーションによる生地の動きとサイズを再現するAIベースのバーチャル試着を導入した。AMIRIはこの革新を先導しており、私たちはCATCHESとインディペンデント・ソフトウェア・ベンダーとして協業し、これらの機能をより多くのファッションブランドへ展開していく。」
ラグジュアリーにおける新たな顧客体験
アミリの創業者兼クリエイティブディレクターであるマイク・アミリ(Mike Amiri)は、今回のパートナーシップについて次のように語る。
「AMIRIはコミュニティ、クラフト、そしてイノベーションによって成り立っている。私にとってCATCHESのRealFitは、これらすべての価値を体現し、それを現代のデジタルな文脈へと持ち込むもです。デジタルクラフトという概念——すなわち、顧客一人ひとりに合わせたパーソナルでユニークな体験を提供すること、そして店舗であれデジタルフラッグシップであれ顧客とつながること——は、AMIRIの世界観をより強固なものにします。このパートナーシップは、私たちが世界中の顧客とどのように関係を築くかにおける次のステップを示しているのです。」
また、「LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH Moët Hennessy Louis Vuitton)」のイメージ&環境ディレクターであるアントワーヌ・アルノーは、「ファッションにおいて、衣服とそれを着る人との関係は本質的な要素です。この理解をオンライン環境へと持ち込むことを可能にする技術は、重要な前進でしょう」とコメント。
また、ナタリア・ヴォディアノヴァは、AIの進化について次のように述べている。
「AIはこれまで主にデジタルの世界に存在し、現実を模倣しようとしてきたが、真に理解していたわけではありませんでした。CATCHESはAIを物理法則に結びつけることでそれを変えました。つまり、衣服がどのようにドレープし、フィットするかを“推測する”のではなく、“理解する”ようにしたのです。この物理世界とデジタル世界をつなぐ架け橋は大きな転換であり、ファッションはその始まりに過ぎません。」
ファッションECの未来を形づくる基盤へ
「RealFit」は、消費者に対しては場所を問わず試着体験に近い安心感を提供し、ブランドにとってはコンバージョン率の向上と返品削減という明確な価値をもたらす。ファッションEコマースにおける体験そのものを再構築するこの取り組みは、デジタルとフィジカルの関係性における新たな基盤となり得るだろう。
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