9月12日(現地時間)、アレクシス ビター(Alexis Bittar)は、2026年春夏コレクションをニューヨーク ファッションウィークで発表した。デザイナーのビターは、アクセサリーのコレクションを、映画の一場面のように練り上げられたストーリーで提示し、そこに社会への問いを重ねた。
インスピレーションの源となったのは、彼が愛してやまない古典映画とシュルレアリスムだ。デヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』に漂う不穏な夢、ブライアン・デ・パルマ『キャリー』の恐怖、ソフィア・コッポラ『ヴァージン・スーサイズ』の繊細な哀愁、スタンリー・キューブリック『アイズ ワイド シャット』の享楽的な仮面舞踏。その断片が交差し、「Miss USA 1991」という幻想的な舞台を作り出した。
物語の中心には、無制限な父権主義を象徴する「ホスト」が登場する。その対極に立つのは「無垢」を体現するコンテスタントたちである。彼女たちは完璧を強いられる過酷な環境のなかで王冠を目指し、その姿を仮面をつけた観客が見守る。観客は消費し、裁き、共犯となる大衆の姿を映し出す存在でもあった。



さらに特筆すべきは、この舞台に参加した各コンテスタントが、現在トランスジェンダーの権利が脅かされている米国の州を象徴する存在としてキャスティングされていたことである。
コレクションは、90年代初頭の抑制的なミニマリズムと80年代後半の華美なマキシマリズムを融合させた構成で展開された。流れるようなシルエットと緻密な構造、素材感と仕立て、大胆さと儚さといった対比を交錯させ、当時の美意識を現代的に再解釈する。
アイコニックなルーサイト素材は職人の手で彫刻的に成形され、モーヴやティールといった90年代初期を象徴するシャーベットトーンで彩られる。そこに施されたゴールドのグラフィックが柔らかな色彩を切り裂き、アクセサリーに鮮烈な存在感を与えた。

このプレゼンテーションを通じてビターは、時代の空気を批評的に映し出し、社会的メッセージを宿した新たな解釈を示していた。その世界観は観客に心地よい違和感を与え、アクセサリーという領域を超えて「表現の場」としての可能性を感じさせるものだった。力強さと美しさ、そして問いかけが交差するその瞬間は、今シーズンのニューヨーク・ファッションウィークにおけるハイライトのひとつとして記憶されるだろう。
アレクシス ビター 2026年春夏コレクションのプレゼンテーションの様子は、以下のギャラリーから。
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