3月24日〜4月9日に台湾の台南市と台北市で開催された台北ファッションウィーク2023年秋冬コレクション。
今季は、台南での盛大な「開幕ショー」から始まり、繊維メーカーとコラボレーションしたアジア初の「サステイナブルショー」や、3つの学生ショー、12のブランドの単独ランウェイショーと見応えあるスケジュールで実施された。
開幕ショーでは、台南市北門区に位置し、台湾で最大規模を誇る「王爺廟」として300年以上の歴史を持つ「南鯤鯓代天府(なんこんしんだいてんふ)」寺院を背景に、7つのブランドが7人の伝統芸術の職人や団体とコラボレーションしたコレクションを披露。また、アジア初のサステナブルショーでは、6つのブランドが台湾の繊維メーカーとコラボレーションし、製作したコレクションを発表した。
台湾発のファッションブランドと聞くと、どのようなイメージが湧いてくるだろうか。
様々な歴史と文化が交差し、融合している台湾では、「服作り」に必要なインスピレーションが暮らしの至る所に散りばめられいるのかもしれない。それが故に、台湾人デザイナーらが表現するデザインの幅は多種多様だ。また近年では、台湾国内だけではなく、インターナショナルの市場も視野に入れ、ニューヨークやロンドン、パリファッションウィークでコレクションの発表を行うブランドも増えている。
2023年3月に開催された台北ファッションウィークでは、台湾に継承される比類なき伝統工芸のサヴォアフェールから、最先端のデジタルを導入したリアルとバーチャル融合型コレクション、また自然環境へ配慮したサステナビリティへの貢献など、ブランドごとに異なる作品とテーマのアプローチが見られた。
本記事では、OSF編集部が台北ファッションウィーク中に出会った、注目すべき台湾の新進気鋭ブランドを、最新コレクションの特徴と合わせて紹介する。
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【JUST IN XX(ジャスティン XX)】
「クロスオーバーの神童」による伝統工芸とハイファッションの融合
台湾のファッション業界の人々に「台湾を代表するデザイナーズブランドは?」と聞くと、多くの人から最初に名前が挙げられるのが、「JUST IN XX(ジャスティン XX)」だ。
JUST IN XX は、台湾のデザイナーズブランドとして初めてニューヨークファッションウィークへの参加を果たしたブランドであり、すでに過去6回もの参加実績を持つ。
ブランドのクリエイティブディレクターである周 裕穎(ヂョウ ユーイン)氏は、2020年にVOGUE ITALIAによって「ニューヨークファッションウィークの中で最も才能あるデザイナー」の一人として選出され、ELLE France 誌が主催の「FASHION NOW Global Emerging Designer Competition」でも3位を受賞した。その他にも2021年に開催された東京オリンピックで、台湾の代表チームが開幕式で着用した公式ユニフォームのデザインを手がけたり、Nike(ナイキ)、UNIQLO(ユニクロ)、Levi’s(リーバイス)といったグローバルブランドとのコラボレーションを実現するなど多数の実績を持つ。
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そんな JUST IN XX が台北ファッションウィークの開幕ショーで披露したのは、伝統建築の外壁アート職人で人間国宝の莊武男氏と共同制作したストリートパンクなコレクションだ。
周氏は、「スカイランタンを崇拝するために寺院に行き、偶然に神に取り憑かれた中学生グループの幻想体験」からこのコレクションの着想を得たと語り、自身が思い描いた独創的なストーリーラインをファッションで表現。
ユニフォームシャツ、ランタンスカート、スポーツシャツ、ベースボールジャケットなどの学生ルックに、神様やドラゴン、タイガー、ひょうたんといった寺院の絵をモチーフに加え、さらに漫画のスクリーントーン、放射線模様、波、チェッカーボードパターンなどティーンエイジャーが好む要素を組み合わせており、スカイランタンと寺院の建築を融合させた、独特で優美なデザインが揃った。「学生ルック」、「寺院の絵や建築」、「ティーンエイジャーが好む要素」の3つを掛け合わさることで前例のない世界観が一つの形となっていた。
今回のコラボレーションコレクションに限らず、JUST IN XX が打ち出すRTWコレクションには毎シーズン「あっ!」とさせられるアーティスティックなピースが登場する。ひねりのあるシルエットにユニークな模様やグラフィック、遊び心のあるディテールなど自由自在にその哲学を作り上げていく。そんな周氏の打ち出すハイファッションと職人技、カルチャー、サステナビリティなどを組み合わせたコレクションを見ると、「クロスオーバーの神童」という異名が実にしっくりくるだろう。
2023年10月には、再度UNIQLO(ユニクロ)とのコラボレーションラインの発売も予定しているとのことで、今後のJUST IN XXからもますます目が離せない。
【C JEAN(シー ジーン)】
古き良き伝統美をモダンにアレンジ ファッションでその人生観を表現
「C JEAN(シー ジーン)」もまた、台湾に古くから継承されるクラフツマンシップを、モダンにアレンジし表現してみせたブランドだ。
同ブランドが開幕ショーで見せたのは、漆塗り職人の王清霜氏とコラボレーション製作をしたコレクション。王氏は現在101歳を迎えた台湾人漆芸家。台湾の文化功労賞である国文賞を受賞し「台湾の人間国宝第一号」を称される人物であり、彼が複雑な「高蒔絵」の技法を用いて描く豊かで重層的な漆絵は、唯一無二のものとして知られている。
ブランドのクリエイティブディレクター Chun Yuan Jean(チュン ユアン ジーン)氏は、服のシルエットをスケッチし、パターンのデザインを掘り下げ、王氏の作品と南鯤鯓の寺院の対称的な構造や表裏の重ね合わせたり、指紋プリントなどのコンセプトを取り入れたりし、王氏の高浮き彫りの技術や揺るがない精神を表現してみせた。また、刺繍やビーズ、花合わせ、型抜きなどのテクニックを用ながら、漆塗りの工程を重ねていき、王氏の工芸への学びと修練をコレクションに反映させていった。
開幕ショーでブランドとしてフィナーレを飾ったC JEAN が披露したのは、黄金の輝きを放つ眩く優雅な作品の数々だ。光沢感のある素材やゴールドカラーを用いたジャケットには、王氏によって描かれた孔雀や鯉、大仏や、大波などの威厳を感じる作品が施され、唯一無二の世界観が創造された。ショーの後半に登場した2着の黄金カラーのドレスは、大振りのフリルが何層ものレイヤーになって重なり、歩くたびに揺れるドレスの立体感が引き立ち、圧倒的な存在感を見せつけた。
また驚くべきが、このコレクションの中の蒔絵の制作工程はまだ続いているということだ。Jean氏はショーの中に登場した蒔絵が描かれたバッグを指差し、「ここに描かれている蒔絵は、一見完成しているように見えますが、実はまだ完成していません。王氏は、今後もこの作品にデザインを足していき、作品は変化していくでしょう。今の時点で、これが完成系だという明確なものはないのです。」と述べた。
台湾に継承される精緻な匠のサヴォアフェールを現代のクチュールに落とし込み、仕上げた作品の一つ一つには、職人技、時間、感情を大切にするブランド C JEAN ならではの精神が込められている。
また同ブランドは、自然から得るインスピレーションにも敏感で、通常のRTWではそれを表現することが多い。同時に服を通じてフェミニズムやサステイナビリティなど社会性のあるメッセージを投げかけている事でも知られている。
【Claudia Wang(クラウディア ワン) 】
フィジタルなアプローチとY2KファッションでZ世代の心を掴む
Claudia Wang(クラウディア ワン)は、リアルとデジタルを融合させ、新たなバーチャルアプローチを行った新鋭ブランドだ。
同ブランドのクリエイティブディレクターであるClaudia Wang(クラウディア ワン)氏は、自身が美容系クリエイターとしても活動しており、インスタグラムで発信する彼女のアーティスティックなメイクアップはZ世代からの支持を集めている。
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フランスで生まれ、芸術一家に育ったワン氏は、ファッションデザインにおける美的アートとバーチャルテクノロジーの活用を専門とするアーティストだ。彼女は、文化、テクノロジー、プロセスを融合させることと、サステナビリティへの異なるアプローチを常に探求している。その探究心によって、ワン氏はバーチャル技術を駆使し、衣服の印象を左右する特殊なタイポグラフィーを作成したり、3Dバーチャル技術で初のオンラインバーチャルショーを実現したりと、先駆的な取り組みを行う。
3月25日(現地時間)、台北ファッションウィークで開催された同ブランドの単独ショーでは、急速に移り変わる世の中の流れを凝縮された近未来的な2023年秋冬コレクションを披露した。
1990年代を彷彿させる懐かしいコンピュータースクリーンの中で、ブランドのコレクションを見せるプレゼンテーションから始まり、かと思えばブランドのルックを身につけた動物のアバターたちがバーチャル世界の中を練り歩く。そこから人間のモデルがランウェイに現れ、フィジカルなショーが始まるというものだった。
各ルックには、ピンクに手書きのハート模様や花、ドットなど、ポップで遊び心溢れるデザインが満載だ。コンセプトは、性別や体型にとらわれない多様性と寛容さ。フリースプリントや、ブランド定番のチェック柄を組み合わせたロングコート、ジャケット、ドレスなどには、ワン氏が普段からソーシャルメディアを通じて発信する鮮やかな色彩とセンスがよく反映されており、時代にマッチする数々のY2Kルックが展開されていた。
また、「愛の文明」と題されたこのコレクションは、2019年にClaudia Wang が誕生してから、2020年以降のコロナ禍、2021年〜2023年の間に起きたデジタルとの融合、Web 2.0からWeb3.0への移行などを経験して辿り着いた、多様な愛の形について表現しているようだった。
【OqLiq(オクリック)】
ウェアラブル且つ機能性を追求したミニマリズム
高機能性を追求するOqLiq(オクリック)が提案するのは、スタイリッシュでスポーティーななデイリーウェアだ。OqLiqは、台湾人デザイナーChi Hong(チ ホン)とOrbit Lin(オービット リン)によって立ち上げられ、ハイエンドでありながら高い機能性を備えるブランドとして知られる。
3月26日(現地時間)、同ブランドは台北ファッションウィークで単独ランウェイショーを開催。ショーでは、バンドグループ Molly in Mountain(荒山茉莉)によるライブ演奏が行われ、終末の世界観が体現された。
ブランドの今季のコレクションテーマは「Aura Protection(オーラ プロテクション)」。衣服が目に見えないエネルギーフィールドの役割を果たし、身体を守るというコンセプトを表現したという。ショーの前半では、グリーン、グレー、ブルー、オレンジなどのアースカラールックが登場し、後半では、全てのルックがブラックに統一されていた。
それぞれのピースは一見シンプルで飾り気のないものに見えたが、台湾独自の文化をディテールに散りばめ、折り紙、脱構築、陰陽二元などのコンセプトが各所に反映されていた。東洋のシンプルさとストリートファッションを融合させた独自のスタイルは、アウトドアファッションを「単なる機能性だけで終わらせない」というOqLiqの美学が感じられた。
OqLiqは、台湾発のファッションブランドを世界に広めることにも積極的だ。これまで台北ファッションウィークだけでなく、ニューヨーク、ロンドン、上海ファッションウィークなどインターナショナルな市場に向けたコレクションの発表を行ってきた。
デザイナーのHong とLinは、「消費者がMITの台湾製ファッションを着ることを誇りに思えるようなブランドを作り、世界に進出していきたい。」と語る。
また同ブランドは、3月24日(現地時間)に行われたサステイナブルショーにも参加。そこでは、最先端技術を持つEVEREST TEXTILE CO.(宏遠興業股份有限公司)が開発した海のゴミから作られたリサイクル生地を使用したコレクションを披露した。
【INF(アイ エヌ エフ)】
自然への敬意を込めたエシカルコンシャスなコレクション
文化の存続と環境への配慮を求めるエシカルコンシャスなコレクションを披露したのは、服の構造、カッティング、パターンに特化したファッションブランドとして知られる INF(アイ エヌ エフ)だ。
3月25日(現地時間)に行われた同ブランドの23年秋冬コレクションは、素潜りで海に入り、魚介類を採る漁法を行う女性達「海女(あま)」へ焦点を当てたもの。会場では、観客らが深海にいるような没入型のセットが作られており、ランウェイの真ん中には白く柔らかい布が吊るされ、そこに波模様が映し出された。
同ブランドは、「私たちは自然が与えてくれた資源を浪費し続けていますが、第二の地球はありません。生態系と海洋生物の生存を守るため、海女は本当に必要なものだけを収穫し、海を尊重することが、互いに有益で持続可能な生き方であると信じている人たちです。」
「現在では、巨大な経済的利益のせいで、存続している数少ない海女の存在が時代錯誤だと言われるようになってきましたが、台湾では海女文化へ文化財としての地位を与えられておらず、潜水器具や新しい技術の導入、海洋資源の縮小などにより、この小さな島、台湾から海女文化が歴史に追いやられる日が近いと思われます。」と、海女をコレクションのテーマにした意図を述べた。
各ルックは、ブラック、グレー、ライトブルーという海を想起させる色調で展開された。今回のコレクションで力を入れたというプリントでは、煌めく波模様が映し出され、ややオーバーサイズのゆったりとした服のカッティングや、ディテールのギャザーをさらに引き立たせていた。アクセサリー小物は、ハットやカフスなど、実用的な利点を残しつつ、ファッション性を取り入れたスタイリッシュで機能的なアイテムがいくつも登場。
海から上がってきた海女から着想を得たであろうブラックのハットは、顎紐部分がリボンになっており、モデルのミステリアスな雰囲気も相まってゴシック調のスタイルを醸し出した。
また、コレクションの生地にはペットボトルをリサイクルした糸を使用したり、一般的な海洋ゴミ、漁網、ペットボトルやボトルのキャップなどをヘアアクセサリーやファッションの一部に採用したりして、美と悪を融合させた見せ方で、環境保護への訴求を行った。
INFは、リサイクルマテリアルの活用や、ライフウェアとして衣服の寿命を延ばすことに注力を注ぎ、サステナブルな取り組みについて長期的なビジョンを掲げている。