ディオール(DIOR)は、5月20日(現地時間)メキシコシティにて2024年クルーズ コレクションを発表した。
コレクションのテーマは、メキシコの現代絵画を代表する女性画家の一人である、フリーダ カーロ(Frida Kahlo)だ。クリエイティブディレクターのマリア グラツィア キウリ(Maria Grazia Chiuri)は、メキシコを『感情を掻き立てる魂の場所』だと言う。そんなキウリがショー会場に選んだのは、かつてカーロが夫のディエゴ リベラと出会い、彼の大作壁画が収められているサン イルデフォンソ学院だった。
フリーダ カーロは、事故、流産、離婚、病気など波乱万丈の人生を送り、47歳という若さで短い生涯を終えている。しかし彼女は、その人生を通して度々訪れる苦難の中でも創作活動を続け、各作品に当時の自身の心境を反映させていった。また、『セルフポートレイトの先駆者』とも呼ばれ、彼女が自分自身の姿をユニークな方法で描写した自画像も数多く残している。
そんなカーロは自身の身体を超越し、服を通じて、表現、宣言、抗議、ポジティブなメッセージを伝えてきたアーティストだった。キウリは、カーロがジェンダーの境界線に挑んだ写真の数々からインスピレーションを得て、今回のコレクションにグレンチェックのスーツやタキシードを加えた。これは19歳から男性用のスリーピーススーツを着用し、知的な自立を主張してきたカーロに捧げるオマージュである。また、カーロのお気に入りとしていた繊細なレースのドレスや、彼女の自画像を想起させるピンクのドレスも登場した。
各ルックの至る所に、メキシコの一つのシンボルである蝶がフィーチャーされていたのも印象的だ。複数のルックに蝶のネックレスが付けられていたり、コルセットのようなディテールにも蝶モチーフが加えられ、コーディネートに女性らしさと華やかさが添えられていた。
一方で、私生活でもメキシコの民俗衣装を好んで着用していたカーロを連想させる、色彩豊かなメキシコの民族衣装であるテワナやウィピルを取り入れたチュニックとロングスカートのコーディネートも登場した。今回ショーの開催をメキシコで行うにあたって、キウリは現地の卓越した職人たちとの絆を改めて深めていったという。各ピースに散りばめられたアトリエと共創のオリジナルの刺繍には、精巧な職人技が光り、ドレスやシャツを魅惑的に彩った。
ショーのエンディングは、会場が一気に詩的なムードに包まれた。白いコットンドレスのトワレを着た20名のモデルがサン イルデフォンソ学院のランウェイの前に並ぶ。その真っ白なドレスには、フリーダ カーロの有名作品である心臓や「Viva La Vida(美しき人生)」、「HOPE(希望)」などのメッセージが、メキシコのアーティスト、エリナ ショーヴェ(Elina Chauvet)によって赤い刺繍で施されていた。
メキシコでは現代もなお、女性の社会的地位は低く、女性を狙った暴力事件や殺人の増加が深刻化している。ドレスに刺繍されたメッセージには、カーロがファッションを通して伝えていきたかった女性の自立心や聡明さが読み取れ、女性たち本来の強さを取り戻すことに訴えかけているようだった。
The Dior Cruise 2024 Show
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