タペストリー社がアメリカを代表するファッション・コングロマリットになるまで

今月10日、コーチやケイト・スペード、スチュアート・ワイツマンなどのブランドを擁するタペストリー社(Tapestry, Inc.)は、マイケル・コース、ヴェルサーチェ、ジミー・チュウなどのファッション・ブランドを所有するカプリ・ホールディングス(Capri Holdings)を約85億ドルで買収することを発表し、話題を呼んだ。

ニューヨークに本社を置くタペストリー社は声明の中で、この買収は「非常に補完的な6つのブランドを統合するもの」だと説明。カプリの会長兼CEOのジョン・アイドル(John Idol)は、「タペストリーと一緒になることで、我々のブランドのユニークなDNAを守りながら、グローバルな展開を加速させるための、より大きなリソースと能力を手に入れることができる」と語った。

この統合によってタペストリー社の世界年間売上高は120億ドルを超え、20億ドル近い調整後営業利益を計上し、75カ国以上で事業を展開するブランドを擁するグループとなることを発表した。また、3年以内に約2億ドルのコスト削減を見込んでおり、この買収の資金調達の大部分を負債で賄う予定だ。

同社は有名ブランドをいくつも傘下に持つことで、欧州のLVMHやケリング(Kering)、リシュモン(Richemont)のような巨大ラグジュアリー・コングロマリットに対抗しようとしている。

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そもそもタペストリー社の始まりは、1941年に創業されたコーチにまで遡る。創業時のコーチは、ニューヨークの西34丁目に位置する小さな家族経営の財布工房だった。

1961年に、マイルズ&リリアン・カーン夫妻に買収され、同社は「コーチ・レザーウェア・カンパニー」としてリブランディングされ、生まれ変わった。同時に、カーン夫人の提案によって、財布工房からハンドバッグ製造業へと進化し、コーチの初めてのハンドバッグラインが登場した。こうした背景が、北米のファッション・コングロマリット、タペストリー社の原点である。

この記事では、タペストリー社とカプリ・ホールディングス社が現在のような多面的なプレーヤーになるまでに辿ってきた出来事を、さらに年代別で追っていく。

1981年:マイケル・コース (Michael Kors)

ファッションデザイナーのマイケル・コースが自身の名を冠したアメリカの「ラグジュアリー・スポーツウェア」ブランドをニューヨークで立ち上げる。

1985年コーチ(Coach)

サラ・リー・コーポレーション(Sara Lee Corporation)が3,000万ドルでコーチを買収。サラ・リーのアパレル、小売部門の傘下で、コーチは世界規模で店舗を展開し、さらに香水、サングラス、ジュエリーなど、多岐にわたるアクセサリー分野に進出を遂げる。

2000年:コーチ(Coach)

サラ・リー・コーポレーションは、2000年10月4日にニューヨーク証券取引所で新規株式公開を行い、コーチの少数株式を売却。食品・飲料、肌着・下着、家庭用品に持ち株を集中させるという大計画を推進するため、サラ・リーは2001年3月に開始されたスプリット・オフによってコーチの残りの株式を売却し、「IPO後1年以内に皮革製品会社の株式83%を売却する」という約束を果たした。

2011年:マイケル・コース (Michael Kors)

2011年12月15日、マイケル・コースは、アメリカン・ファッション史上最大のIPOを果たし、アメリカの記録を塗り替えた。このIPOはニューヨーク証券取引所で行われ、マイケル・コースは4,720万株(「KORS」で取引)を公開し、9億4,400万ドルの資金を調達した。

2015年:スチュアート・ワイツマン(Stuart Weitzman)

コーチ社は2015年5月、プライベート・エクイティ会社シカモア・パートナーズ(Sycamore Partners)からスチュアート・ワイツマンを5億7,400万ドルで買収。クロージング時には、 「シカモア・パートナーズに約5億3,000万ドルの初期現金支払いを行った 」と述べ、さらに 「買収クロージング後3年間に特定の収益目標を達成した場合、シカモア・パートナーズに最大4,400万ドルの偶発的支払いを行う」と付け加えた。

2017年:ケイト・スペード(Kate Spade & Company)

2017年7月、コーチ社がケイト・スペード&カンパニーの買収を完了。かつてニューヨーク証券取引所で取引されていたレディースウェアブランドに1株当たり現金18.50ドルを支払い、取引総額は24億ドルとなった。コーチ社とケイト・スペード&カンパニーの合併により、ハンドバッグのデザイン、マーチャンダイジング、サプライチェーン、小売事業における重要な専門知識と堅実な財務的洞察力に支えられた、より多様なマルチブランド・ポートフォリオを持つ、ラグジュアリーライフスタイルのリーディングカンパニーが誕生した。

2017年10月:タペストリー社(Tapestry, Inc.) 

2017年10月、コーチ社は傘下のブランド数の増加を反映するため、タペストリー社に社名を変更。

2017年11月:ジミー・チュウ(Jimmy Choo)

2017年11月、マイケル・コースはジミー・チュウを買収。取引条件に基づき、ロンドンに本社を置くジミー・チュウの株主は1株当たり230ペンスを受け取り、取引総額は約13.5億ドルとなった。当時の声明において、マイケル・コース・ホールディングスは、この買収の「戦略的根拠」について、ジミー・チュウの売上高を10億ドルにまで引き上げる可能性や、製品ラインの多様化によって、ポートフォリオのバランスを保ちつつ、市場に対する強力なプレゼンスを確立することが狙いだと述べた。更にメンズの高級靴と高級アクセサリー部門での発展、グローバル市場、特に急成長するアジア市場へのさらなる進出を挙げていた。

2018年:ヴェルサーチェ(Versace)

2018年12月31日、マイケル・コースは企業価値総額18億3,000万ユーロ(発表日現在約21億2,000万ドル)でヴェルサーチェを買収。クロージングと同時に、ヴェルサーチ・ファミリーはヴェルサーチェの持分のために受け取った現金のうち、総額1億5,000万ユーロを約240万株の普通株式と引き換えに再投資した。

マイケル・コースは、ヴェルサーチェの買収について、「多くの利益をもたらすことが期待される」と述べた。これには、ヴェルサーチの収益を20億ドルに成長させることや、長期的にはグループ全体の収益を80億ドルに拡大することに貢献することが含まれた。また、アジア地域での成長を進めることで地理的な収益の幅を広げ、さらには経営上のシナジー効果を生み出す可能性もあると述べていた。

2019年:カプリ・ホールディングス(Capri Holdings)

マイケル・コース・ホールディングス・リミテッド(Michael Kors Holdings Limited)は、ヴェルサーチェとの取引終了と同時に、マルチブランドファッショングループとしての新たな地位を反映させるため、社名をカプリ・ホールディングスに変更する計画を発表。2019年1月2日にニューヨーク証券取引所のティッカー「CPRI」で取引を開始した。