イタリアおよび欧州連合(以下、EU)が、ウルトラ・ファストファッションのビジネスモデルと密接に結びついてきた「小口輸入の免税構造」を見直し始めた。低価格商品を大量に直接消費者へ届ける越境ECモデルに対し、欧州は制度面からブレーキをかける局面に入っている。
イタリアでは2026年度予算法案において、EU域外から流入する150ユーロ未満の小口荷物に対し、1件あたり2ユーロの課徴金を課す措置が盛り込まれた。これにより、これまで関税の免除枠(デ・ミニミス)とされてきた低額輸入品は、初めて一律の負担を求められることになる。
「超高速・超低価格」越境ECの急拡大
この措置の背景には、中国からの低価格輸入品が急増している現状がある。特に、シーイン(Shein)やテム(Temu)に代表されるプラットフォームが展開する「超高速・超低価格」のビジネスモデルについては、イタリア国内のファッション産業に深刻な影響を及ぼしかねないとして、懸念が次第に強まってきた。
欧州委員会のデータによれば、2024年にEUへ輸入された150ユーロ未満の低価格商品は約46億点に達し、1日平均では約1,200万個の荷物が域内に流入していた。これは2023年の約23億点、2022年の約14億点から大幅に増加しており、越境ECが短期間で爆発的に拡大している実態を示している。こうした状況を受け、イタリアのファッション関連業界団体は、長年にわたり制度面での規制強化を求めてきた。
議会資料によれば、この小口課徴金による税収は、2026年に約1億2,250万ユーロ、2027年および2028年にはそれぞれ約2億4,500万ユーロに達する見込みである。財源確保という側面に加え、国内産業を守る狙いが込められていることは明らかだ。
EU全体で進む小口輸入制度の見直し
こうした動きは、イタリア単独のものではない。EU全体でも、小口輸入を巡る制度改革が進んでいる。加盟国は、2026年7月1日から、150ユーロ未満のすべての小包に対し一律3ユーロを課すことで合意した。課税は商品単位ではなく、荷物単位で適用される。
これまで、150ユーロ未満の小口荷物は免税措置によって優遇されてきたが、EUは、この仕組みこそが市場の歪みを生み、域内事業者に不利な競争環境をもたらしているとの認識を強めている。今回の3ユーロ課税は、そうした免税構造を見直すための措置であり、恒久的な制度が整うまでの暫定的な対応と位置付けられている。
EUの通商担当委員であるマロシュ・シェフチョヴィチ(Maroš Šefčovič)は、この決定の意義について次のように述べている。
「Eコマースは急速に拡大しており、世界は大きなスピードで変化しています。だからこそ、私たちはその変化に対応できる適切な手段を持たなければなりません。」
「EUに流入する小口荷物に対する関税措置の決定は、今日のEコマース時代において、国境での公正な競争を確保するために極めて重要なものです。」
財政引き締めと政策判断
同時に、イタリア政府は、財政面での引き締めも進めている。ジョルジャ・メローニ(Giorgia Meloni)首相率いる政権は、金融取引税の引き上げを含む増税策を打ち出しており、税・社会保障負担率はGDP比42%台後半へと上昇する見通しだ。先進国の中でも高い水準に位置している。
こうしたイタリアとEUの一連の動きは、ウルトラ・ファストファッションの強みであった「安価・迅速・免税」という前提条件を揺るがし始めている。今後は、価格設定や物流戦略だけでなく、消費者の購買行動にも変化が及ぶ可能性が高い。
EUは常に「先行指標」
なお、日本市場は、この動きを対岸の出来事として捉えないことだ。というのも、EUにおける制度変更は、これまでも繰り返しグローバル規制の先行指標となってきた。
実際、米国でもデ・ミニミス(少額免税)制度の見直しが進んでおり、欧州と米国は小口輸入を巡る制度設計で足並みをそろえ始めている。こうした流れを踏まえれば、日本もいずれ同様の議論に直面する可能性は高い。
現在の日本市場では、越境ECによる低価格商品の流入が、国内アパレル産業の収益性や中小ブランドの存続、さらには価格競争の過熱と直結している。欧州の動きは、日本のファッション産業に対しても、「市場の歪みを制度によって是正する」という選択肢が、すでに現実的な段階に入っていることを示唆している。
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