キム シュイ(Kim Shui)2026年秋冬:水上を駆ける、10周年が示す“流動するアイデンティティ”

Kim Shui
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2月15日(現地時間)、キム シュイ(Kim Shui)はニューヨーク ファッションウィークにて、2026年秋冬コレクションを発表した。

ブランド設立10周年という節目にあたり、シュイが選んだ舞台はランウェイでもギャラリーでもない。ニューヨーク市の水路を進むエタニティ・ヨット——“移動”そのものがショーのコンセプトとなった。

ゲストは船に乗り込み、刻々と変わるスカイラインを背景に、全41ルックを体験する。固定された会場ではなく、流動する空間。旧暦で火馬年を迎える2日前という開催日もまた、前進と変化の象徴として重ねられていた。

船内に響いたのはニコ・フゼラによる古筝の生演奏。そこからマッシヴ・アタックの「エンジェル」へと音楽が移ろうとき、観客は単なる傍観者ではなく、“共に移動する存在”へと変化する。船は、遊牧民にとっての馬の現代的メタファーであり、「進歩は固定された地面を必要としない」という明確なメッセージを体現していた。

モンゴル遊牧民の系譜から紡ぐ、変容の美学

今季の着想源は、モンゴル遊牧民の移動の歴史である。過酷な地形を横断しながら、知識や工芸、アイデンティティを世代を超えて継承してきた文化。その物語を、シュイは東洋思想における「気」という概念を通して再解釈する。

「気」とは、物質の内部を流れ、形の中に意図や記憶、変容を宿す生命力。今季のコレクションは、その不可視のエネルギーを衣服として可視化する試みであった。

ショー前半を支配したのは、保護と生存を象徴するマテリアルの重厚感だ。深いオリーブグリーン、バーントオレンジ、豊かなフェイクファー、ベルベットの厚み。アースカラーを基調としたパレットは、自然と共存してきた遊牧の知恵を想起させる。

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特筆すべきは、中国の伝統的な結び技法であるパンコウクロージャーとコード編みの構造的使用である。前面に配されたコードワークは装飾ではなく、衣服の骨格そのものとして機能する。古代中国の結び目を建築的構造へと昇華させることで、工芸の記憶と身体、文化と現代を一本の線で結び直している。

シアーなレッドブラウスにフェイクファースカートを合わせたルック、レッドオレンジの花柄ジャカードにレオパードを重ねたスタイリングには、遊牧民が移動先で出会った異文化との融合が投影される。保護と誘惑、実用性と官能性——相反する要素が同居する様は、遊牧生活の多層性を現代的に翻訳したものだ。

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豪華絢爛へと進化する色彩と素材

ショーが進むにつれ、コレクションはより劇的な次元へと変容する。オレンジレッドの花柄ジャカードスーツ、深いスリットを入れた鮮烈なクラッシュベルベットのレッドドレス。色彩は次第に強度を増し、存在感を主張していく。

特に印象的だったのは、誇張されたタッセル付きパンコウクロージャーを配したドレス。伝統的中国フォーマルウェアのコードを大胆に再構築し、センシュアルで力強い女性像へと転換している。

ベージュのフェイクファーコートにボリュームのあるカールヘアを合わせたルックは、遊牧民が蓄積してきた“富”と“権威”の象徴を現代化したものだ。移動の果てに得る繁栄、成熟した文化の姿がそこにある。

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さらに、白と銀のメタリックパレットのルック群が、コレクションに新たな空気をもたらす。クリームスーツにホワイトフェイクファーを重ねたルックは静謐な純粋性を示し、黒のボディスーツにスパンコールのアシンメトリーペプラムを合わせたスタイルでは、伝統的な中国結びが前衛的シルエットへと昇華される。

ここで明確になるのは、伝統とは固定された遺産ではなく、進化し続ける“生きた実践”であるというシュイの信念だ。

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構造としての手仕事

後半で提示されたのは、よりミニマルでラディカルなアプローチである。張力をかけたコードとハンドワークのみで構成された衣服は、装飾と構造の境界を曖昧にする。

ワインレッドのベルベットスーツでは、ウエストから流れる赤いフリンジが構造と装飾の両義性を担う。シルバーとゴールドのメタリックアップリケを施したブラックミニドレスでは、異素材の衝突が緊張感を生み出していた。

最後にフィナーレを飾った黒のコード編みドレスは、今季の哲学の集大成となった。中国結びのノットが身体を包み込み、装飾と構造、伝統と革新が完全に融合する。

長い黒髪、ソジン・オーによる中国王室の「指甲套」に着想を得た深紅のネイル、煙草を持つポーズ——過去から受け継いだ技術を身に纏いながら、自らの道を切り開いていく女性の姿がそこにはあった。

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10周年が示したもの

多様な身体、アイデンティティ、生きた経験を持つモデルたちのキャスティングは、シュイが一貫して提示してきた包括的な女性像を、より確かなものとして提示した。10周年にふさわしいのは、回顧ではなく前進だ。

キム シュイ 2026年秋冬コレクションが描いたのは、過去と未来、東洋と西洋、伝統と革新といった二項対立を軽やかに横断しながら、常に変容し続ける現代のアイデンティティである。

ショー後、ゲストは雪降るニューヨークの夜へと戻り、W ニューヨーク – ユニオンスクエアでのアフターパーティーへと移動した。移動し、変化し、祝祭へと連なっていく体験そのものが、この夜のメッセージだった。

キム シュイ 2026年秋冬コレクションの全てのルックは以下のギャラリーから。

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