ロエベ(LOEWE)主催の国際的クラフト賞「LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2025」にて、青木邦眞が大賞を受賞

2025 LOEWE FOUNDATION Craft Prize

5月30日(現地時間)、スペイン発のラグジュアリーブランド、ロエベ(LOEWE)が主催する国際的なクラフト賞「LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2025」の受賞者が発表された。今年で第8回目を迎える同アワードは、現代のクラフトマンシップにおける芸術性と革新性を称えるものだ。

2025年の大賞に輝いたのは、日本人アーティストの青木邦眞(KUNIMASA AOKI)による作品《Realm of Living Things 19》(2024年)。伝統的なテラコッタを用いた彫刻でありながら、素材の変形や割れといった歪みをあえて活かした、重力と圧力、時間を操る革新的な造形アプローチが高く評価された。

重力と圧力、そして粘り強さで生まれた“生きもの”のような造形

青木の作品は、粘土を幾層にも積み重ねて圧縮し、焼成後に鉛筆と土を用いて表面を装飾するという工程を経て完成される。表面に現れるひび割れや収縮の痕跡は、制作者が素材と対話し、素材自体の「生の表情」を引き出していることを示している。伝統的な紐作り技法の現代的再解釈としても評価され、審査員たちは「まるで小宇宙のような緻密なディテールが宿る」と評した。

審査には、デザイナーのフカサワ・ナオト(Naoto Fukasawa)、建築家のワン・シュウ(Wang Shu)、キュレーターや批評家など、世界の第一線で活躍する12名が参加。芸術的ビジョン、革新性、技術力と技巧の精度のすべてにおいて、最高評価を得た青木が選ばれた。

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青木 邦眞(日本)《Realm of Living Things 19》 、テラコッタ、400 x 400 x 870 mm 2024年
青木 邦眞(日本)《Realm of Living Things 19》 、テラコッタ、400 x 400 x 870 mm 2024年

2組の特別賞受賞者:素材の再解釈から語られる社会的メッセージ

また、今回の審査では、特別賞として2組のアーティストも選出された。

ひとりは、ナイジェリアのニフェミ・マーカス=ベロ(Nifemi Marcus-Bello)。作品《TM Bench with Bowl》では、自動車産業から回収されたアルミニウムを用い、グローバリゼーションや消費社会、権力構造へのメッセージを問いかけている。幾何学的でミニマルなフォルムと再生素材の融合は、素材の語りうる可能性の新たな扉を開いた。

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ニフェミ・マーカス=ベロ(ナイジェリア)《TM Bench with Bowl》、リサイクルアルミニウム、510 x 1120 x 400 mm 2023年
ニフェミ・マーカス=ベロ(ナイジェリア)《TM Bench with Bowl》、リサイクルアルミニウム、510 x 1120 x 400 mm 2023年

もう一組は、インドを拠点とするスタジオ・スマクシ・シン(Studio Smackshi Singh)。彼女らの作品《Monument》(2024年)は、12世紀のデリーの列柱を銅糸で等身大に再構築したもので、水溶性布を溶かすことで糸のみを残すという手法を用いて制作された。詩的な繊細さと圧倒的な存在感のコントラストは、「時が物質を風化させても、文化的な記憶は残る」というメッセージを力強く伝えている。

スタジオ スマクシ・シン(インド)《Monument》、銅、ナイロン、10 x 500 x 2640 mm 2024年

スタジオ スマクシ・シン(インド)《Monument》、銅、ナイロン、10 x 500 x 2640 mm 2024年
スタジオ スマクシ・シン(インド)《Monument》、銅、ナイロン、10 x 500 x 2640 mm 2024年

クラフトの伝統と革新、その交差点に立つファイナリストたち

今年度の「LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2025」への応募数は、133の国と地域から4,600点以上にのぼったという。そこから選ばれた30名のファイナリストたちは、陶芸、金工、テキスタイル、木工、紙、漆、ジュエリーなど多様なジャンルでクラフトの可能性を追求した。

なかでも特徴的だったのは、伝統的な技法を異素材に応用する革新的なアプローチだ。バスケット技法を粘土に応用した作品や、機織りを金属に置き換えた表現など、クラフトの語彙を拡張する動きが際立った。また、作家自身が独自のスタイルを確立し、幻想的で遊び心に富んだ彫刻的フォルムに挑戦する作品も多く見られた。

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LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2025 Exhibition
LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2025 Exhibition

ロエベが示すクラフトの未来

なお、同賞は2016年に設立されて以来、クラフトの未来に光を当てることを目的としてきた。主催するロエベ ファンデーションは、創造性と文化の継承を支援する民間文化財団であり、ファッションブランドであるロエベが1846年に革職人の工房として創業した起源にも通じる。

ロエベ ファンデーションのプレジデントであるシーラ・ロエベ(Sheila Loewe)は、「毎年、クラフトが持つ驚きや革新、進化し続ける力を目の当たりにするたびに、魔法のようなものを感じます。クラフトを活性化しつづけるというこの賞の役割を、私は非常に誇りに思っています」とコメント。

また、審査員のひとり、ロンドン・デザインミュージアム名誉理事のディヤン・スジック(Deyan Sudjic)は、「この賞は、世界の多様なクラフト文化を交差させ、未来に向けた新たな美意識の潮流を築く試みです」と語った。

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