マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)、記憶と向き合う2026年秋冬コレクション

Marc Jacobs
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2月9日(現地時間)、マークジェイコブス(Marc Jacobs)は、11日から開幕するニューヨーク ファッションウィークに先駆けて、2026年秋冬コレクションを発表した。

会場となったのは、ブランドと深く結びつくパーク・アベニュー・アーモリー。広大な空間は極限まで削ぎ落とされ、観客席とスポットライト以外の装飾はほとんど見られない。中央には折り畳み式のテーブルと椅子、そしてテーブル上に、一輪の花を描いた小さなアートピースだけが置かれ、ショー全体を貫く「記憶」と「喪失」というテーマを静謐に示していた。

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「Memory. Loss.」が示すもの

今季のコレクションタイトルは「Memory. Loss.」。ショーノートでは、記憶とはノスタルジーに回収されるものではなく、現在と未来の行動を形づくる“機能”であると語られている。

『過去を回復することは、喪失が避けられないものであること、そして希望とは努力であるという事実を、私たちに思い出させる』というその思想が、コレクション全体の構造を貫いていた。

ボディラインを主語にしないシルエット

ランウェイに登場した全ルックに共通していたのは、身体の起伏を意図的に排除したシルエットだ。ドレスやコートは直線的に落ち、ウエストのくびれやヒップラインを強調する造形はほとんど見られない。ミニスカートは肋骨付近に配置され、四角形に近いフォルムを形成。トップスとボトムの関係性も、身体を“美しく見せる”ためではなく、構造としての衣服を前面に押し出す設計となっていた。

それは装飾のための違和感ではなく、「身体に寄り添う服」という常識そのものへの問いかけであり、ファッションが長年前提としてきた価値基準への静かな抵抗でもある。

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記憶としての90年代、形式としての現在

色彩やディテールには、90年代から2000年代初頭を想起させる要素が随所に散りばめられている。ビーズ装飾の襟、ボンボンを配したヒール、セミシアーな素材使い、控えめなネオンカラー。しかし、それらは懐古的な引用として提示されることはない。あくまで現在の構造の中に再配置され、記号としてではなく“記憶の断片”として機能している。

こうした表現の背景には、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)自身が今季の全39ルックを構想するにあたり、過去のコレクションやファッション史上の重要な瞬間へと立ち返っていた事実がある。参照されたのは、1965年のイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)によるクチュール作品から、自身が手がけたペリー・エリス(Perry Ellis)時代の1993年春夏グランジ・コレクション、さらにはマーク バイ マーク ジェイコブス(Marc by Marc Jacobs)の2013年春夏コレクションに至るまで、時代を横断する複数のフェーズだった。

ニット、スーツ、チェック、ツイードといった定番的なアイテムも、そうした記憶の積層を踏まえながら、過度な誇張やデフォルメは避けられている。むしろ冷静な再構築によって、過去の文脈を内包したまま、現代性を獲得していた点が印象的だ。

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実験性よりも、誠実さ

近年のマークジェイコブスが見せてきた彫刻的で非現実的なシルエットと比べると、今季は明らかに抑制が効いていたことに気づくだろう。だがそれは、表現の後退というよりはむしろ、より内省的で誠実なフェーズへの移行と捉えるべきだ。

「夢」や「逃避」ではなく、過去と向き合い、それを抱えたまま前に進むこと。そのアティチュードを、全39ルックを通して一貫して提示したのだ。

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フィナーレが語る余韻

フィナーレに至っても、劇的な高揚や装飾的なクライマックスは用意されていなかった。淡々と、確かな強度をもって、コレクションは終わりを迎える。

その静けさこそが、「Memory. Loss.」というテーマに対する最も正確な回答だった。

過去を振り返ることは、感傷に浸ることではない。
何を失い、何を受け取り、何を未来へ持ち運ぶのかを選び取る方が良い。

今季のマークジェイコブスは、そのプロセスをファッションという手段で、極めて率直に表現していた。

マークジェイコブス 2026年秋冬 コレクションの全てのルックは以下のギャラリーから。

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