6月30日(現地時間)、マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)は、ニューヨーク公共図書館で、全19ルックの濃密な「Runway 2026 コレクション」を披露した。
ショーノートは極めて簡潔ながら、本質を突いていた。
「美。それは心や感覚に喜びを与える特性、あるいはその組み合わせであり、形や色の調和、比率、真正性といった性質と結びついていることが多い。」
この抽象的な一文を軸に、ジェイコブスは、歴史的記憶と現代性のあわいを縫い合わせながら、美のかたちを解体し、再定義したようなコレクションを展開。
今季のルックは、前シーズンに続くドール的な女性像の進化形といえる。膨らみすぎたスリーブ、腰に張りを持たせた構築的なスカート、大胆にバッスルを膨らませたシルエットは、19世紀のヴィクトリア朝を連想させつつも、決して仮装的ではない。あくまでマーク ジェイコブス流の解釈とウィットに満ちたものだった。
たとえば、最初に登場したレースで構築されたラベンダー色のトップと、ミリタリー調のカーゴパンツを合わせたルックは、歴史と現代の異種交配のようであり、フェミニンとユーティリティの対話を象徴。
続くルックにおいても、コレクション全体を貫いていたのは「プロポーション」への飽くなき探究心であった。ラベンダー、アイボリー、コーラルピンク、コーヒーブラウン、そして漆黒。淡く繊細な色彩のグラデーションのなかで、あらゆるフォルムが誇張され、時に歪められる。膨張する袖、バルーンのようなヒップ、風をはらむボディス。身体そのものの輪郭が曖昧になり、シルエットは彫刻的に立ち上がる。
それにもかかわらず、不思議と重さは感じない。素材の軽やかさ、足元のドール・シューズとも呼べる厚底ヒール、そして何よりもコレクション全体を包み込む、自由で軽やかなムードがそれを中和していた。





繊細なフローラルプリントがレースの上に重なり、あたかも春を閉じ込めたかのようなドレスも複数あった。今季トレンドのポルカドットも、斜めのストライプや透ける素材とのレイヤリングで登場することで、視覚的な変化をもたらした。
さらに、リボンが象徴的な存在としてあらゆるルックにスタイリングされており、ヘッドピースとして、あるいは背中や腰の装飾として登場し、コレクションに通奏低音のようなリズムを与えていた。




約5分間の短いショーは、黒のヴィクトリア風ドレスにチェックのビッグボウを添えた、ドラマチックなルックで幕を閉じた。光を吸い込むような質感のシルクタフタを用いたフルスカートには、内側からレースの花模様がほのかにのぞき、トレーンのうねりとともに荘厳さと儚さを同時に漂わせる。クラシックでありながら未来的、重厚でありながら繊細。過去と現在、演劇性と現実が交錯するその造形は、マーク ジェイコブスの真骨頂であった。

商業性と実用性が重視される現代のファッションシーンにおいて、ジェイコブスは決してその潮流に迎合しない。彼はあくまで表現者として立ち、美という概念に向き合いながら、ときに挑発的に、ときに繊細に、その探求を衣服というメディウムに託している。
マーク ジェイコブス Runway 2026コレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。
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