ニューヨークファッションウィーク(New York Fashion Week)が、2023年9月8日(金)〜13日(水)の6日間に渡り開催された。今シーズンは合計71デザイナーが公式参加し、2024年春夏コレクションを披露。
会期中は、予想外の猛暑日やその反動での強い雨風など、天候に恵まれない日が続いたが、それにも拘わらず、どのショーも会場は満席で、ゲストたちの活気に満ち溢れるものとなった。
この記事では、2024年春夏 ニューヨーク・ファッションウィークの中で、特に目玉とされている8つの有名ブランド(コーチ、ラルフローレン、ケイト スペード ニューヨーク、プロエンザ スクーラー、ヘルムート ラング、3.1フィリップ リム、トリー バーチ、マイケル コース)について、最新コレクションの見どころと共にお届けする。
コーチ(COACH)
9月7日(現地時間)、コーチ(COACH)は、ニューヨークファッションウィーク公式スケジュールよりも一足早く、2024年春夏コレクションを発表した。会場は、ニューヨーク市立図書館内のセレステ・バルトス・フォーラム。このランウェイショーは、スチュアート・ヴィヴァース(Stuart Vevers)がコーチのクリエイティブ・ディレクターに就任して10周年にあたる節目を祝福するものだ。そんな記念すべきコレクションには、ヴィヴァースがかつて90年代のニューヨークで駆け出しのデザイナーだった頃にインスピレーションを与えていたルックや、彼自身の旅を通じて得てきた着想が最大限に反映されていた。
ランウェイに登場したルックはどれも、これまでのブランドが提案してきたスタイルよりも強烈なエッジが効いたグランジスタイルだ。コーチのシグネチャーであるレザージャケットが豊富に登場し、よりオーバーサイズで抜け感のあるシルエットに生まれ変わっていた。また、コットンやウールのスーツも新たにラインナップに加わった。足もとにはモトブーツが合わせられ、90年代に若者を熱狂させたロックテイストに「今っぽさ」を吹き込んだスタイルが上手く融合されていた。
同時に、コレクションに真新しさを加えたのは、くたっとした光沢感のあるスリップドレスや下着が丸見えのシースルールックだ。ヴィヴァースは声明の中で、「ピラミッド・クラブでスリップドレスを着て踊っていた女の子たちを覚えています。だから、これは私が覚えているスリップドレスなのです」と語っている。実際にランウェイに登場したシアードレスは、Z世代の若者達がウィリアムズバーグのヴィンテージショップで見つけたがるような、繊細なレースにアシンメトリーなシルエットが特徴的な、これもまたレトロでありながら「今っぽい」ものだった。
新しいシルエットをランウェイに披露するために、ヴィヴァースは以前のコレクションからレザーウェアとデニムを「再利用」したことを明かした。例えば、コレクションの中に登場した、シュレッダーで加工されたようなニットドレスは、まさにコーチの2023年秋コレクションに共鳴していると言えるだろう。また、スリップもコーチの以前のコレクションに使用された未使用のレースや生地から作られ、植物由来の染料で色付けされたものだ。ブランドは、今年春にサーキュラークラフトとコラボレーティブなクリエイティビティに焦点を当てた新しいサブブランド として「コーチトピア(Coachtopia)」を立ち上げており、また、前回のコレクションを見てもエコフレンドリーでアップサイクルなもの作りを実践的に行なっているのが伺える。
ハンドバッグに関しては、前シーズンに引き続き、バッグの2個持ちが定番スタイルだ。特大サイズのトートバッグに、ポップな色合いのアイコニックなタビーバッグの最新版に、遊び心がくすぐられるアヒル型や犬の骨型をした財布なども登場した。その中のいくつかのモデルは、コーチの「シー・ナウ・バイ・ナウ(See-now-Buy-now )」で既に購入可能となっている。
ラルフローレン(Ralph Lauren)
9月8日(現地時間)、ラルフローレン(Ralph Lauren)は、2024年春夏コレクションのランウェイショーをブルックリンで開催。会場は、ブルックリン・ネイビーヤードの倉庫内を改装して行われ、輝くシャンデリアやドレープがかかったキャンバスで飾り付けられていた。
同ブランドは、4年ぶりにニューヨークファッションウィークへの公式参加となる為、会期中最も注目されていたランウェイの一つだった。前回、ラルフ・ローレンがニューヨークファッションウィーク中にショー行ったのは、2019年9月7日。ローレンはこの日のために 「ラルフズ・クラブ 」として生まれ変わったウォール街の壮大なボールルームでショーを開催したのだ。それ以降のシーズンでは、ロサンゼルスとニューヨークでカレンダー外にショーを発表を行ってきた。
2024年春のコレクションは、まさにラルフローレンがこれまで築いてきたアメリカンレガシーの偉大さを感じさせるゴージャスで洗練された装いと、デザイナーの原点回帰を漂わせるアメリカンカジュアルの新生。
「私の2024年春のウィメンズ・コレクションは、クールで洗練された新しいロマンスです」とローレンはコメントしている。
ショーの前半に登場したのは、絵画のようなアーティスティックな花柄プリントが施されたデニムスカートやウォッシュアウトジーンズ。その美しい花柄はシャツ、ブレザー、ビスチェにも同様に描かれており、牧歌的な落ち着きとクールなモダンさが混ざり合ったアメリカンスタイルが創り上げられた。
ショーの中盤から、洗練されたデイウェアから煌びやかなイブニングウェアへと移行し、黒とゴールドのグラマラスなルックが並んだ。完璧に仕立て上げられたブラックのテーラードジャケットやミリタリージャケットは、ゴールドのシルキーパンツを合わせることで、よりスタイリッシュに。また、ブラックやゴールドのソリッドなイブニングドレスでは一枚で大胆な華やかさを演出していた。
後半からは雰囲気が一転し、カラフルで遊び心のあるヒッピースタイルへシフト。異なる大きさや種類のストーンやビーズが連なるレイヤードネックレスや、ペイズリー柄のスカーフが首元にアクセントとして添えられた。またコレクション全体に、RLのロゴが刻まれた大振りのゴールド金具のレザーベルトが登場し、アコースティックでボヘミアン的な印象を与えた。
フィナーレを飾ったのは、ゴールドラメのワンショルダーガウン。モデルのクリスティ・ターリントン(Christy Turlington)が堂々と美しくそれを着こなす姿で、優美な雰囲気に包まれながらショーは幕を閉じた。
ケイト スペード ニューヨーク(Kate Spade New York)
ニューヨークファッションウィークの公式カレンダー初日である9月8日の午前中に、ケイト スペード ニューヨーク(Kate Spade New York)は、2024年春夏コレクションをプレゼンテーション形式で発表。
ハイラインで行われた会場では、エントランスにホワイトローズの大きなオブジェが飾られていたり、中にブランドのロゴがあしらわれたテーブルと椅子が設置されていたりと、明るくポップな春色に包まれていた。
2024年春夏コレクションは、ケイト スペード ニューヨークの象徴的な令嬢スタイルに、スポーティーなカジュアルさが加ったのが印象的だ。人工芝生の上でポージングするモデル達は、ネイビーと白のラグビーストライプをあしらったシャツドレスや、ウエストがドローストリングになったパンツなどを着用。ドレスにはバーシティジャケットを羽織ったり、ベースボールキャップを被るなど、本来のお嬢様ルックにボーイッシュな要素でトムボーイっぽさが表現されていた。
一方で、ブランドの可愛らしいフェミニンさも忘れてはいない。例えば、ハンドバッグには彫刻のような花のハンドルがあしらわれ、白いミュールにはホワイトローズが美しく咲いていた。また、ジャケットやドレスのディテールには、パールやスパンコールなどがアクセントに。カラーパレットは、グリーン、ライム、ホワイト、パウダーブルーなど、春の訪れを感じさせるフレッシュな色調で揃えられていた。
特筆すべきは、1999年にケイト&アンディ・スペード夫妻が発表したブランドのアイコニックな「KS」モノグラム、「ノエル」プリントが復刻したことだ。今季のパンツからカーディガンまであらゆるものにこのプリントが使われており、ケイト スペードらしい春の装いをよりプレイフルなものに仕上げていた。
プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)
9月9日(現地時間)、プロエンザ・スクーラー(Proenza Schouler)はオークション会社、フィリップス(Phillips)のパーク・アベニュー本社にて、2024年春コレクションを発表した。
才能溢れるデザイナー2人組のジャック・マッコロー(Jack McCollough)とラザロ・ヘルナンデス(Lazaro Hernandez)は、今シーズンのコレクションの中で、新たなブランドのコードとなるプロエンザ・スクーラーのモノグラムを披露した。この新しいモノグラムは、2つのPが上下対象に並べられ、それ全体がSの文字にも見えるような、抽象化されたPSのインフィニティ・シンボルが特徴だ。実際に、このモノグラムが完成するまでに、マッコローとヘルナンデスは約9,000回のデザインを試行錯誤し、3年間もの歳月を費やしたという。こうして出来たPSモノグラムのデビューは、フィリップスがオンラインオークションで行った特別なプレゼンテーションによって、より一層注目を集めた。
プロエンザ・スクーラーといえば、これまでも繊細で洗練された女性へのワードローブを提案してきた。特に、昨シーズンの2023年秋コレクションでは、都会で暮らす女性たちが好む、「クワイエットラグジュアリー」に傾倒した、より洗練され、より控えめになったスタイルが生み出された。
2024年春コレクションでは、昨シーズンのこうしたコンセプトを継続しながらも、春にふさわしい軽快さがよりミニマルに表現されていた。それは、透明感のある美しいレイヤリング、背中の露出を考慮したニット、そして意図的なドレーピングなどであり、私たちの何気ない日常をより華やかに(だけど頑張り過ぎていない)してくれる様なディテールだ。
多くのファッションブランドがコレクションの度に、何か斬新なアプローチは出来ないかと揺れる中、マッコローとヘルナンデスは決してブランドのシグネチャースタイルを崩さない。大きくブランドを変化させることよりも、プロエンザ・スクーラーの安定したミニマルな美学をベースに、シーズンごとに、より繊細さと洗練さに磨きをかけていく。こうしたスタイルの継続性こそが、多くの女性達に長く支持され、愛されている秘訣だろう。
しかし、シンプルだけで終わることもない。そこにはいつも印象的なディテールも組み込まれている。例えば、ブリーチ加工が施されたストレートジーンズや、乗馬服の様な裾にストラップが垂れ下がる黒のレザーコートは、シンプルさの中に力強い個性を放つ。さらにウエストポーチがついたユーティリティ・ベルトは、これらのアイテムに実用性を加えた。また、手作業で編み込まれたメッシュのドレスや、無数の「砕けたガラス」の刺繍が施された薄紗のセパレートは、デザイナーの高いクラフツマンシップと繊細な芸術性を醸し出していた。
ヘルムート ラング(HELMUT LANG)
9月8日(現地時間)、ヘルムート・ラング(Helmut Lang)は、新クリエイティブ・ディレクターにピーター・ドゥ(Peter Do)を迎えてから、初となるコレクションを披露。
2018年に自身の名を冠したライン、ピーター・ドゥを発表して以来、ドゥが創り出すモダンなミニマリズムは、ファッション業界で多くの人々に支持されており、彼が手がける新生ヘルムート・ラングへの期待はとても高まっていた。
就任が発表された時、ドゥは「ヘルムート・ラングほど先鋭的な思考を明確に体現した人物はいません。」「ヘルムート・ラングの遺産を守りつつ、私自身の視点と創造性を吹き込むことに深くコミットします。」と語っていた。
そんな期待と共にベールを脱いだ2024年春夏コレクションは、ニューヨーク・スタイルを象徴する、黒を基調としたウェアラブルなフォーマルウェアが多く見られた。ブレザーとパンツはシャープに仕立てられ、ニューヨークの街を走るイエローキャブのシートベルトを連想させるフーシャやイエローのストラップがアクセントに添えられた。さらに、幾何学的なカラーパターン、グラフィックTシャツ、プリント入りデニム、そして多彩なレザーシューズなど、様々なアイテムが登場し、ヘルムート・ラングのコレクションに新たな鮮やかさとモダンな要素を持ち込んだ。主なカラーパレットは、ニュートラルなもので統一されていたが、所々に華やぎを感じるネオンカラーも織り交ぜられていた。
3.1フィリップ・リム(3.1 Phillip Lim)
9月10日(現地時間)、3.1フィリップ・リム(3.1 Phillip Lim)は、2024年春夏コレクションを発表。近年同ブランドは、店舗でのコレクション展示のみを行っていたが、今シーズンは4年ぶりにニューヨーク ファッションウィークへランウェイショーという形で復帰した。
会場は、マンハッタンのチャイナタウン。デザイナーのリムが中国系移民であるという背景を反映させこの地が選ばれた。ショーノートの中でリムは、2024年春夏コレクションの着想が、「進化し続けるニューヨークのタペストリーとブランドのラブストーリー」だと述べ、「ランウェイへの復帰を記念したこのコレクションの物語は、希望に満ちた心でこの地にたどり着いた無数の人々の物語を映し出しています」と、その想いを伝えた。
ショーの前半は、ヌーディなシースルーのルックに、ビジューが散りばめられた軽快で柔らかなスタイルから始まった。ホワイトやラベンダーカラーが並ぶと、まるで春のそよ風に揺れるチューリップのように爽やかだ。
ブランドのコアとも言える、高機能でウェアラブルなアメリカンスポーツウェアは、ブルゾンやコートなどに見られ、柔らかく動きのあるスカートやパンツと合わせられることで、程よい良い抜け感を確立していた。また、型破りなカッティングのデニムジャケット、スカーフを縫い合わせて作ったような動きのある軽快なドレス、クリスタルを遊び心たっぷりに散りばめたパジャマセットといった、ニューヨークの街にぴったりのリアルクローズが展開された。
同時に、これまでになかったフルレングスの華やかなドレスやスカートが多くコレクションに登場したことも新しい。フィリップ リムならではの、都会的でシックなイブニングウェアの数々は、肩を張りすぎずに着こなせるシンプルかつ、美しいシルエットが人々の目を引いた。
世界中の異文化と多様性が入り混じるニューヨークの人々に贈る、多種多様なスタイルは、フィリップ リムの世界観とバランスよく調和され、春の軽快さと共に表現された。
トリー バーチ(Tory Burch)
9月11日(現地時間)、トリー バーチ(Tory Burch)は、アメリカ自然史博物館に新設されたギルダー・センターのアトリウムにて、2024春夏コレクションを発表。好奇心と探検心を掻き立てる自然の造形からインスピレーションを得て造られたギルダーセンターからインスパイアを得たとされたコレクションは、シンプリシティに富み、より洗練されたものだった。
ショーの序盤に登場したのは、深いネイビーやグリーンに粒子のラメが輝くフォーマルなブレザーだ。また、次に現れた柔らかく美しい曲線のドレープがうねるマイクロミニドレスは、ギリシャ神話に出てくる女神の様な神秘的な印象を与えた。
デザイナーのバーチは、「このコレクションは、生活するようにデザインされ、あなたとともに動き、軽快さと楽観的な感覚を植え付けるものです」と、ショーノートに記していた。「混沌とした世界で、私たちは今、”エフォートレス”とは何かを考えました。それは、心のスペースを解放してくれる服なのです。」
こうした”エフォートレス”がキーワードとなった2024年春夏コレクションでは、限りなくミニマルなデザインが際立った。例えば、今回はどのピースにもプリントファブリックは使われておらず、素材本来の美しさが最大限に引き立つようなテーラリングやカッティング、レイヤーなどで立体感が出されていた。また、カラーパレットは、ホワイト、ブラック、ベージュ、シルバーなどのニュートラルカラーが主体となり、銀糸やラインストーン、メタリックのアクセサリーや素材で品のある煌びやかさを体現した。
胸元が深いUネックにカットされたバイカラーのチュニックは、スカートの裾から波打つような純白のミニスカートが覗き、大人っぽさと女性らしさを引き立てていたり、逆にオールホワイトの洗練されたパンツスーツスタイルではハンサムな女性を想像させた。
ショーのフィナーレには、ビスコースニットドレスの裾にワイヤーを入れ立体的なアクセントが加えられたルックが登場。モデルが歩く度に、そのドレスの裾がフラフープの輪のように揺れていて、軽やかで楽観的な、可愛らしい印象だった。
また、ルックに合わせられたジュエリーの中には、牛の形をしたイヤリングやネックレスが登場し、ミュージアムの雰囲気に馴染む様な奇妙なディテールが目を惹いた。
マイケル コース(MICHAEL KORS)
9月11日(現地時間)、マイケル・コース(Michael Kors )はブルックリンのドミノ・パークで2024年春夏コレクションを発表。
数日間、記録的な暑さと突然襲う雨風が続いていたニューヨークだったが、この日は朝から晴れ空が広がり、イーストリーバーの風光明媚な景色を背景に、爽やかな空気の中でショーが行われた。
最初にランウェイに登場したのは、白い総レースのカフタンマキシドレスに、新作のジュリー・バッグを合わせたオールホワイトスタイルだ。それに続いて、ショーツやクロップドトップス、パンツなどに形を変えた白い総レースのルックや、黒のシースルーレースのミディドレスなどが並ぶ。
2024年春夏コレクションでは、軽やかな「レース x シースルー」の組み合わせがキーワード。マイケル・コースのシグネチャーであるかっちりとしたテーラリングとリゾートウェアのリラックスしたスピリットが程よく混ざり合い、絶妙なバランスを生み出していた。中でもピンクの総レースのショートパンツとヌードカラーのニットセーターの組み合わせは、個人的に最高だった。
また、コースからの提案には、常にゴージャス感が伴っている。例えば、黒い水着のようなボディスーツは、透けるようなラップスカートと一緒に着こなされ、ゴールドの装飾で飾り付けられた。同様に、カフタンにもゴールドの紐が取り入れられ、エレガントな雰囲気を醸し出す。一方、流れるようなシルエットのロングスカートには大振りのフリンジが揺れ、ミニスカートではヘルシーに日焼けした脚をアピール出来る。
どのルックを見ても、ニューヨーカーたちが夏の休暇で避暑地を訪れる時に、ビーチからカクテルタイムまでマイケル・コースのワードローブをシームレスに着こなしている様子が目に浮かんできた。
コースはコレクションについて、「今シーズンは、みんなをホリデーに連れて行く」と述べ、「それは、逃避することの超越的な喜びであり、華やかな逃避行の大いなるロマンスであり、洗練されたシックな楽観主義の衝撃なのです」と語った。