楽天ファッションウィーク東京 2025年秋冬 ハイライト① ピリングス、ヴィヴィアーノ、タエアシダ、ティート トウキョウ

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3月17日(月)から22日(土)までの6日間にわたり開催された「楽天ファッションウィーク東京 2025年秋冬」。今シーズンは国内外から37のブランドが参加し、多様化する東京ファッションシーンの現在地を示す意欲的なコレクションが並んだ。また、2025年度の年間コンセプトとして掲げられた「ファッション ファンファーレ(FASHION FANFARE)」のもと、東京ならではのファッション文化と、グローバルな視野との融合を目指した取り組みも継続された。

本記事では、ファッションウィークに参加したブランドの中から、OSFが抜粋したデザイナーたちの最新コレクションを、ハイライトで紹介する。

① ピリングス(pillings

楽天ファッションウィーク東京の初日に、品川インターシティホールにて最新コレクションを発表したのは、デザイナーの村上亮太(Ryota Murakami)が手がける「ピリングス(pillings)」だ。1988年生まれ、大阪出身の村上は、ここのがっこう(coconogacco)を卒業後、リョウタムラカミ(RYOTAMURAKAMI)を始動させ、2016春夏コレクションから継続的に東京コレクションでコレクションを発表している。2021年には「東京ファッションアワード(TOKYO FASHION AWARD)」を受賞し、2025年度には「LVMH プライズ(LVMH Prize)」のセミファミナリストにも選出された実力派だ。

ブランドが11回目の節目を迎えた今回は、『housing complex(集合住宅)』をテーマに、これまでの歩みの中で紡いできた記憶や感情、想像の断片を、ひとつの“集合体”として再構築。ピリングスとしての“普遍性”を、静かに、そして誠実に問いかけた。

歪み、しわ、裏返し──ノイズが宿す温度

ショーが幕を開けると、モデルたちは、木目のフロアに温かな照明が落ちるランウェイの上を、自分の歩幅を確かめるようにゆっくりと進む。コレクションノートに綴られた「ぼんやりとした古郷のようなものを作りたい」という言葉がその空間自体に滲み出るように、観る者を静かな記憶の旅へと誘っていた。

今季のピリングスは、“歪み”や“裏返し”といった、内側から滲み出る“不完全さ”を意識的に取り込んだ。冒頭のルックには、縮絨ニット素材のジャケットと、ボリュームのあるアシンメトリーなスカートが登場。裾から覗くシワ加工のサテンが、過去の記憶を一枚ずつめくるような柔らかなレイヤー感を生み出し、“古郷”への回帰が体現された。

ノルディック柄のニットやパンツには、意図的に重ねられたシワや、裏地を外に見せるディテールが施され、着るという行為そのものに新たな視点を加える。黒のニットに白い布をコラージュのように配したルックでは、人の手が交差する温もりと、生活の気配すら感じさせた。

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普遍性を探るという行為

ピリングスが考える“クラシック”とは、決して静止した様式ではなく、常に揺らぎ、更新され続けるものだ。クラシカルなセーターやスカートにも、どこかに意図された“違和感”が潜み、それがブランド独自のリズムを刻んでいる。

また、今季はコンテンポラリーダンサーの山田うんを迎えたことで、モデルたちの立ち姿や歩みには「呼吸を含んだ表現」が加わった。静かさの中に芯の強さが漂うその佇まいは、まさにピリングスの服づくりの姿勢そのものであろう。

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ピリングスという『集合住宅』のこれから

“ものづくりの愛おしさ、背景を創造創生を持って表現していくこと”を信条に、日本の手編み職人とともにハンドニットを中心としたコレクションを展開してきたピリングス。デザイナー、職人、観客、そして過去に生まれた服たち—それぞれの存在がひとつの“集合住宅”のように共鳴し合い、そこに込められた想いや記憶が折り重なることで、ブランドとしての“普遍性”がより深く、静かに浮かび上がる。

記憶と感情を丁寧に縫い合わせるようにして、柔らかさのなかに確かな芯を宿し、静かに存在を主張する。次なる12回目のコレクションでは、どのような“風景”が描かれるのだろうか─今からその扉が開かれるのが楽しみでならない。

② ヴィヴィアーノ(VIVIANO

まとうことで、ときめきが稲妻のように走る—そんな刹那的で情熱的な感情を、服として昇華させたのが「ヴィヴィアーノ(VIVIANO)」の2025年秋冬コレクションだ。
「秩序の花々の間からほのかにゆらめくカオス」をコンセプトに掲げ、2016年以降、ブランドの象徴ともいえるボリュームチュールを用いたロマンティックなスタイルを発信し続けてきたヴィヴィアーノ。だがその甘さは決して浮ついたものではなく、芯に強さと洗練を宿すものだ。

ブランドを率いるデザイナー、ヴィヴィアーノ・スー(Viviano Sue)は、中国とアメリカで育ち、2014年に文化ファッション大学院大学を修了。自身の名を冠した「ヴィヴィアーノ・スー(Viviano Sue)」を設立後、2020年秋冬からブランド名をヴィヴィアーノに改め、2022年には東京ファッションアワード(TOKYO FASHION AWARD)を受賞するなど、その創作の自由と情熱が国内外で高く評価されてきた。

イタリア語で“一目惚れ”を意味する「Colpo di Fulmine(コルポ・ディ・フルミーネ)」をタイトルにした今回のショーは、スーにとって、直感と衝動を最もピュアに表現したランウェイであり、同時に”ファッションの夢”という原点への回帰でもあった。

遊び心が満載のテキスタイルとシルエット

ショーは、クラシカルなツイードのミニジャケットから静かに幕を開けた。しかし、その後のルックからは、ヴィンテージライクなレースやメタリックなシルバー、淡い花柄、ドット、チュール、キルティング、さらには大胆なバルーンシルエットなど、ヴィヴィアーノらしいデコラティブでプレイフルな世界観を展開。

ドット柄のサテンブラウスに黒い立体テクスチャのスカートを合わせたルックには、クラシカルかつアヴァンギャルドなムードが漂う。また、黒のチュールで構築的に装飾されたブレザーと、ターコイズブルーのふわりとしたパンツのルックは、ジェンダーの境界を曖昧にしながら、ロマンティックなフォルムを提示した。また、モデルたちの顔やヘッドにはドットモチーフのアートが施され、頭には花の蕾を思わせるヘッドピースが、ルック全体の世界観を一層引き立てた。

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ラッフルとチュールの進化、スポーティなアクセント

今シーズン、ブランドのシグネチャーであるチュールやラッフルは、より大胆に、時にメンズラインとリンクするようなスタイルで登場した。例えば、ブラウンのスパンコールドレスはシックな印象ながら、肩から裾まで流れるようなフォルムで、動くたびに情熱を帯びた光を放つ。さらに、スポーティなソックスやサングラス、足元のピンヒールは、すべてウエスタンブーツのモチーフを取り入れたものであり、甘さの中に潜む力強さを加えた。

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その他にも、ラフなスウェットに繊細なチュールスカートを合わせたルックや、重厚な花柄のロングコートとワイドパンツが、ドレスアップとカジュアルの境界線を見事に曖昧にし、装いの自由を称える。

今季初めて用いられたというブラウンの配色は、これまでのパステルやモノトーン中心の色使いとは異なる落ち着きと深みを加え、ブランドの新たな一面を感じさせた。

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クライマックスは“ヴィヴィアーノの夢”

ショーのラストを飾ったのは、ヴィヴィアーノの象徴でもあるクチュールルック3体。銀色に光る巨大なドレス、ピンクの小花柄で包まれたドーム型のドレス、そして白地に黒のドットを配したドレスは、いずれも夢の具現化にほかならない。これらのルックは、観客の心を震わせ、“ファッションに恋をする”という感覚を思い出させてくれた。

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精密な構成力よりも、突き動かされるような感情のままに創り出されたルックの数々。それは、日々の装いの中に潜む“ときめき”を呼び起こし、服をまとう楽しさを改めて教えてくれる。ファッションが、こんなにも自由でいい。そう心から思わせてくれるコレクションであった。

③タエアシダ(TAE ASHIDA

3月18日(現地時間)、東京・大手町三井ホールで発表された「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」の2025-26年秋冬コレクション。今季は、『Eternal Threads – Weaving the Past and Future』 をキーワードに、タエ アシダらしい知的な洗練にテクノロジーとクラフトマンシップの要素を巧みに融合させた、現代的な世界観が展開された。

デザイナーの芦田多恵(Tae Ashida)は、1991年に自身の名を冠したブランドでコレクションデビューを果たして以来、30年以上にわたり「エレガント&プラクティカル」を軸とする美学を貫いてきた。高品質な素材選びと、都会的な洗練を備えたシルエット。日常からフォーマルシーンまでをカバーする幅広い提案力は、時代の変化と共鳴しながらもブレることなく、リアルで美しい装いを生み出し続けている。

今シーズンの会場には、各国の在日大使約30名をはじめ、著名人、俳優、インフルエンサーらがフロントロウを彩り、華やかな空気に包まれた。ランウェイには、新井貴子(Kiko Arai)、江原美希(Miki)、そして冨永愛の長男・冨永章胤(Akitsugu Tominaga)ら、現代のファッションシーンを象徴するモデルたちが登場し、レディース・メンズあわせて約50ルックが披露された。

秋冬の重厚さと軽やかさの交錯

ショーは、ランウェイ背後にそびえる巨大なLEDスクリーンが幾何学模様や英数字を映し出す近未来的な演出から幕を開けた。最初に登場したのは、深みのあるバーガンディのタートルニットに、ブロンズのラメレーススカート、そしてアートのように表情豊かな柄コートを重ねたルック。重厚な配色と異素材レイヤーが、秋冬らしい温もりと“静かな強さ”を象徴していた。

その後も、グラフィカルなプリントドレスにブラウンのレザージャケットを合わせた装い、抽象的なカラーパターンのワンピースに太ベルトを効かせたスタイルなどが続き、タエ アシダが得意とするフェミニンとシャープネスの融合が鮮やかに表現された。柔らかな素材の動きと構築的なラインが交錯することで、現代女性のしなやかさと芯の強さを描き出していた。

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今季のキーカラーは、ディープグリーンやバーガンディ、カナリアイエローといった秋冬の定番色。そこに、ライムグリーンやフューシャピンクといった鮮やかなアクセントカラーが差し込まれ、クラシックとモダンが共存するタエ アシダらしい知的な遊び心が感じられる。また、レザー、ウール、シースルー、サテンなど異素材を重ねながらも、全体のトーンは見事に統一され、バランス感覚の高さが際立った。

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機能と構築──フォルムに宿る意志

印象的だったのは、テーラードジャケットやウエストベルト付きのミリタリー風セットアップに見られる構築性と機能性の共存。チェック柄の大判ストール風コートは、フリンジの躍動と流れるようなドレープで歩くたびに美しく揺れ、空気をまとうようである。さらに、ワンショルダーでドレスとジャケットをドッキングさせたアシンメトリーなルックは、女性の内にある矛盾や意志を造形として体現していた。

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コレクション中盤では、ブラウンからターコイズ、ピンクからオレンジへと美しく移ろうグラデーションパンツや、アートピースのような幾何学的プリントのブラウスが登場。

プリントの存在感は強いものの、スタイリングはあくまでもミニマルに徹し、“引き算の美学”によって洗練を保っていた点も印象的だ。

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クチュール感のあるフィナーレ

フィナーレでは、シークイン刺繍やメタリック素材をあしらったドレスが次々と登場。光を反射するシルエットはまるで水面の揺らめきのようで、ランウェイのLEDと見事に呼応していた。特に、チュールを用いたボディコンシャスなイブニングドレスや、レースとスパンコールを重ねたグリーンドレスには、リアルクローズとドレスアップの境界を曖昧にする現代的エレガンスが息づいていた。

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今季のタエ アシダもまた、「女性が主役であること」を前提に、時代の空気を鋭敏に読み取りながらも、自らの軸をぶらさない凛とした美学を提示してみせた。それは、過去から現在、そして未来へとつながる洗練された知性の表現であり、まさに「凛として、しなやかに」生きる現代女性へのエールそのものだろう。

④ ティート トウキョウ(tiit tokyo

2025年3月19日(現地時間)、ティート トウキョウ(tiit tokyo)は、「スパークル(Sparkle)」をテーマにした2025年秋冬コレクションを発表した。同コレクションは、北欧の漁村を舞台に、獣に変貌する少女の切ない純愛を描いた映画『獣は月夜に夢を見る』(デンマーク・フランス合作)からインスパイアされたという。コレクションには、光と影のコントラストが丁寧に落とし込まれ、獣性と純愛、そして静けさと狂気が織りなす独特の美が繊細に表現されていた。

闇と光、そのあわいに生まれるスパークル

ショー全体に流れるのは、月夜に射す一筋の光のような希望のきらめきだ。グレートーンのジャケットやワイドパンツで描かれるややフォーマル寄りの世界観に、アイスグレーやペールベージュ、きらめくラメ刺繍やシアーな素材が差し込まれ、抑制された美しさと幻想性が交差する。

また、フェイクファーのコートは“獣”の気配を漂わせ、チュールやレースのドレスは、少女の無垢と儚さを静かに物語る。肩から滑り落ちるグローブや、余白を感じさせるドレープの流れは、物語の中で揺れ動く心情を繊細に表現していた。

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月明かりを映すカラーパレットと装飾

また、ティート トウキョウの代名詞でもある「スキンコンシャス」は、今季さらに深化。露出ではなく、肌が語る感情にフォーカスしているのが印象的だ。ヌーディーなトーンの透ける素材、ニットやサテンのレイヤード、長めの袖やネックカバーなど、ここでも、「肌の見せ方=心の揺らぎ」が描かれていた。

コレクションのカラーパレットには、ディープブルー、ブラック、グレーといった深みのあるトーンが基調に。これは、映画に描かれた“夜の闇”のイメージを反映したもので、時間の経過とともに静かに深まっていく夜の情景を想起させていた。

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さらに、フェミニンなレースは大胆に用いながら、それを詩的かつ力強い表現へと昇華。フローラルモチーフをあしらった繊細なドレスやブラウスは、ヴィクトリアンなムードとモダンな輪郭が交差する中で、少女の内面をそっと包み込む“感情の薄膜”のような存在となっていた。

その他のディテールも印象深い。たとえば、ツイードジャケットの胸元に飾られた真紅のビーズブローチは、物語の中で流れた血の記憶を象徴するかのように、静かに、しかし確かに観る者の心に爪痕を残した。

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詩情をまとう服づくり

ティート トウキョウの真価は、衣服を超えて一枚の詩情を描くようなストーリーテリングにある。ショーを観終えた後に残るのは、ただのファッションではなく、まるで映画のワンシーンを静かに見届けたような余韻である。

“Sparkle”──それは華やかな煌めきではなく、闇のなかでほんの一瞬、確かに光った感情のかけら。その光が、観る者の心にやさしく火を灯す。そんな静かな輝きを、ティート トウキョウはこのコレクションに託したのかもしれない。

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