楽天ファッションウィーク東京 2025年秋冬 ハイライト②サトルササキ、ユ ジヨン、ヘヴン タヌディレージャ、ベイシックス

Tokyo Fashion Week Fall Winter 2025

3月17日(月)から22日(土)までの6日間にわたり開催された「楽天ファッションウィーク東京 2025年秋冬」。今シーズンは国内外から37のブランドが参加し、多様化する東京ファッションシーンの現在地を示す意欲的なコレクションが並んだ。また、2025年度の年間テーマとして掲げられた「ファッション ファンファーレ(FASHION FANFARE)」のもと、東京独自のカルチャーを基盤にしながらも、国際的な視点を取り入れた取り組みが引き続き展開され、グローバルとの接続点を強く意識したシーズンとなった。

本記事では、楽天ファッションウィーク東京 2025年秋冬 ハイライト① に続き、OSFが注目したデザイナーたちの最新コレクションを厳選して紹介する。

⑤  サトルササキ(SATORU SASAKI

「サトル ササキ(SATORU SASAKI)」は、東京の京橋の戸田ビルディングで2025-26年秋冬コレクションを発表し、五感に訴えかける詩的な世界を展開した。今季のテーマは、「Primitive Future」。デザイナーの佐々木悟(Satoru Sasaki)は、「言葉や数字の安心感よりも、感情から生まれる美が未来を導く」と語り、20世紀を代表する抽象画家マーク・ロスコ(Mark Rothko)に着想を得た理屈や言語を超越した感情に焦点を当てたクリエイションを披露した。

2019年にブランド「SATORU SASAKI」を設立した佐々木は、国内外でアシスタント経験を積んだ後、フェミニンとマスキュリンを同時に内包する独自のスタイルを確立してきた。「男性も憧れる女性を作る服」というコンセプトを掲げ、2024年秋冬からは待望のメンズラインもローンチ。2024年にはTOKYO FASHION AWARD 2025を受賞し、国内外から注目を集めている新鋭ブランドである。

絵画を纏うという体験

ショーは、ループ編みで構築された真紅のミニドレスから幕を開けた。立体的なニットのテクスチャーが陰影を生み、静かな空間に鮮烈な色彩が浮かび上がる。その後も、オレンジ、ブルーといった強い原色が次々と登場し、まるで色が生きているかのような感覚を呼び起こした。衣服の表面を覆うループ編みは、まるで筆致そのものであり、ロスコの「色彩の深層」への探求を、テキスタイルで鮮やかに再解釈してみせた。

イエローのトップスにグラフィカルなチェックパンツを合わせ、ニットのバッグを小脇に抱えるスタイリングなど、静と動を交差させる即興的なアレンジも印象深い。色、質感、動き──すべてが詩的なバランスで成り立っていた。

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身体を再解釈するカットアウトとレイヤード

また、大胆に背中を開けたジャケット、腹部を覗かせるクロップトップ、脚を縦断するスリットドレスなどに見られたカットアウトは、単なるセクシュアリティの誇示ではなく、形の崩壊と再構築を試みる表現だ。

特に、異素材を重ねたロングシャツとパンツのルックでは、ベルトを複数垂らすことで縦のリズムを強調。動きの中に流れる非対称性が、心地の良いテンポと共に、見る者の感情を揺さぶった。また、葉の形をくり抜き、貼り付けたようなレザーのトップや、大きな黒のポンポン装飾を施したアウターなど、クラシックなアイテムに遊び心を加えるスタイルも登場。堅苦しい伝統に縛られず、個の感情と自由を祝福する姿勢が貫かれていた。

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感情で未来を創るという挑戦

デジタル化と数値主義が支配する現代において、サトル ササキは「心で感じること」の価値を力強く肯定する。それは、ファッションを通じて、数値や論理では決して捉えきれない”感覚”という未知の領域に光を当てようとする試みだ。

着るアートには留まらないササキのクリエイションは、感情というプリミティブな力を信じ、未来を切り拓こうとする意志を示している。

ユ ジヨン(YOUJIYOUNG

韓国発のブランド、ユ ジヨン(YOUJIYOUNG)は、3月20日に、東京のTODAホール&カンファレンスにて2025-26年秋冬コレクションを発表した。今季のテーマは、「温故知新」。古き美意識への敬意と、それをいかに現代的に昇華するかという問いを、情熱的に掘り下げたランウェイが繰り広げられた。

2002年に韓国でスタートしたユ ジヨンは、これまでにソウルや上海などアジア主要都市のファッションウィークにも参加した実績を持つ。近年ではドバイファッションウィークや上海ファッションウィークでも注目を集め、チャリティファッションショーや文化芸術イベントへの積極的な参加を通じ、タイムレスなエレガンスと社会的メッセージを融合させたクリエイションを発信し続けている。衣装デザインやパフォーミングアートとの連携など、ジャンルの枠を越えた活動で、今回の東京での発表でも、ブランドの美学は一層深みを増していた。

クラシックの解体と再生──流動する造形美

そんなユ ジヨンが今回描き出したのは、「時間」と「身体」の対話という壮大なテーマだ。

コレクションは、オペラに合わせた妖艶なダンスとともにスタート。ランウェイを進むモデル達が纏うのは、クラシックなスーツでも、エレガントなドレスでもなく、一度「完成」されたはずのテーラリングを、あえて解きほぐし、別の構築へと導いたフォルムである。

ウール地のジャケットは、均整を崩すように裾を波打たせ、ストールと融合するように肩から流れ落ちる。また、グレーのワンピースは、布と布のあいだに「間」を抱き、身体と空間を交錯させる。このように、整えられた輪郭を一度壊すことで生まれる“未完成”のラインが、むしろ「完成以上の豊かさ」を讃えているようだった。

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「時間」と「身体」をつなぐドレープの詩

今季のコレクションのカラーパレットは、グレーとブラックを軸とした抑制の効いた色調で統一されている。そこに重厚なファーや滑らかに流れるドレープ、羽のように軽やかなフェザーが重なり、静かな中にも立体的なアクセントが生み出される。

また、布が波打ち、ギャザーやドレープが陰影を生み出す様は、時間の経過そのものを身体に纏わせるような錯覚を覚えさせた。折り重なるトップスや、床を這うマーメイドラインのドレスは、「静」と「動」、「古典」と「未来」の境界を柔らかく揺さぶり、観る者に深い余韻を残した。

さらに、無彩色の世界に微細なリズムを与えたのは、韓国の伝統工芸である螺鈿を想起させる繊細な煌めきであった。シアーな袖、レース、ラメ糸、そしてファー。こうした異素材の緻密なレイヤーが、文化の深層と現代的な美意識とをつなぎ、「時間の層」を立ち上げていた。

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2025-26年秋冬コレクションでユ ジヨンが提示したのは、クラシックを大胆に脱構築しながらも、時代を超えて響くエレガンスの在り方だろう。美とは、どこに、誰に、どんな時間に宿るのか。その問いの余韻が、長く深く、会場を包み込んでいた。

ヘヴン タヌディレージャ(HEAVEN TANUDIREDJA

バリ島を拠点に活動するデザイナーのヘヴン・タヌディレージャ(Heaven Tanudiredja)のブランド、ヘヴン タヌディレージャ(HEAVEN TANUDIREDJA)は、3月20日に東京の青山にて2025-26年秋冬コレクションを披露した。

タヌディレージャは、元ジュエリーデザイナーとしてのバックグラウンドを活かし、洋服にオブジェ的な存在感を宿すことで知られている。今回のコレクションでは、繊細な手仕事と構築的なシルエット、そしてフェミニニティとパワーの絶妙なバランスが、ブランドの真髄を余すことなく体現。彫刻的で詩的な造形と、装飾性と静けさが共鳴し合う美の探求心がそれぞれのピースから強く感じられた。

彫刻と布の融合する”存在を纏う”ドレス

ショーの幕開けを飾ったのは、クラシックなブラックを基調としたペプラムシルエットのジャケットスタイル。ウエストから広がる立体的なフレアが構築的な陰影を生み、アーティスティックなボタン使いとともに、シンプルなブラックに深みと動きを与えていた。続くルックでは、ボディラインに沿う滑らかなロングドレスが登場。両サイドに施された立体的なファブリックの装飾が、静謐な佇まいに彫刻的な存在感を添える。

その一方で、アイボリーホワイトのドレープドレスは、女性らしい深いVネックラインと流れるようなフォルムが目を引いた。ウエスト部分は、メタルパーツがあしらわれたレザーベルトでエッジを効かせ、繊細さと強さのコントラストが巧みに表現されたものだった。

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再構築されたロマンティシズム

そして、今季の象徴とも言えるのが、幾何学的に構築された花びらモチーフだ。ホワイトからカーキ、ベージュへとグラデーションを描くように展開されたペプラムやコートの襟元には、まるで布に一輪の花が咲いたかのような立体的なディテールがあしらわれている。ロマンティックな要素が、構築的でモダンなフォルムと交差することで、新たなエレガンスを作り出す。

また、ビーズ刺繍やスパンコールをパッチワークのように散りばめたベアトップドレスは、まるで記憶の断片を縫い合わせたかのようなノスタルジーが漂った。過剰さ寸前で抑えられた煌めきが、洗練された存在感を際立たせ、装飾性と品格が絶妙なバランスで共存。カラフルな花びらがあしらわれたテディベア型のバッグも印象的で、ドラマティックなルックに遊び心を添えていた。

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ユニセックスな提案とテクスチャーの探求

ウィメンズだけでなく、メンズラインでもブランドの美学は一貫していた。ウィメンズ同様、コートの首元には、大きな花のような立体的なディテールが取り付けられ、フォーマルウェアをエレガントに昇華する。また、ウォッシュ加工が施されたグレーのデニムセットアップは、ゆったりとしたシルエットが特徴で、90年代のワークウェアを想起させる一方、襟元にあしらわれたシルバーの立体刺繍が、アートピースのような存在感を放った。

さらに、肩からショールを巻き付けたような重厚な装いからは、性別を超えた装いの自由さと、素材との真摯な対話が感じられた。

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“着る”という行為の再定義

ヘヴン タヌディレージャの洋服は、「装う」という行為の芸術性を問いかける存在だ。ジュエリー、刺繍、構築美、そして素材そのものへの深いリスペクト。ロマンティックでありながら現代的な感性に貫かれ、何よりも着る人の内面と対話するような静かな強さがある、そんな素敵なコレクションであった。

ベイシックス(BASICKS

デザイナーの森川マサノリ(Masamori Morikawa)率いるベイシックス(BASICKS)は、3月20日に東京の秩父宮ラグビー場にて2025-26年秋冬コレクションを発表した。壮大な球場の観客席通路がランウェイに変容し、会場にはライブ演奏とコーラスが優しく響き渡った。

反骨と洗練の間で揺れるベイシックスの美学

ベイシックスのショーは、ブラックのミニマルなモノトーンルックから静かに幕を開けた。コレクション前半は、オールブラックを基調としたスタイルが連なり、クラシカルなシルエットの中に、透け感のあるインナーやロンググローブがアクセントとして潜み、抑制されたフェティシズムを感じさせる。

やがてストリートとフェティッシュが交差するスタイルへと展開。レザーベルトを幾重にも巻いたようなミニスカートに、グレーのフーディを合わせたルックは、無防備さと強さが同居する象徴的なバランスを体現した。

さらに、ストライプシャツにショーツとタイツをレイヤードしたルックでは、クラシカルな端正さと挑発的なアティチュードがせめぎ合う。首から吊り下げられたシャツに、前後のパターンが反転したデニムを重ねたスタイルでは、機能性と違和感が巧みに融合し、ベイシックスが提示する“パラドキシカルなリアリティ”が強烈な印象を残した。

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今季もまた、ジャンルと年代のクロスオーバーがコレクション全体に息づいていた。たとえば、モダンなトラックジャケットにチュールのラッフルスカートを合わせたルックでは、スポーツとロマンスという相反する要素が、見事に違和感なく融合。そこには、ひとつのスタイルに収まりきらない、今の時代らしい感性が宿る。

ノルディック柄のカーディガンとニットショーツの組み合わせも同様で、どこか懐かしさを感じさせながらも、未見のバランス感覚で構成されており、可愛さと抜け感を巧みに共存させた。

ショーの終盤にかけては、スポーツとエレガンスが融合したルックが連続して登場。サッカーチームのスカーフをリメイクしたようなデニムルックには、ストリートとファンカルチャーの要素が交差し、ユース世代のマインドとDIY精神を感じさせる強い個性がにじみ出ていた。そのほか、LAドジャースのキャップやアメリカンフットボールを想起させるプリントニットなど、観客の記憶に残る象徴的なモチーフが巧みに組み込まれた。

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「日常」と「非日常」を往還するファイナルルック

ショーのフィナーレを飾ったのは、スポーティなアスレチックウェアのトップスに、ウェディングドレスのように優雅に広がるボリュームチュールスカートを組み合わせたルック。機能性と夢想がひとつになり、観る者の視点を揺さぶった。

最後に登場したのは、全身を幾重にも重ねたホワイトチュールで覆い、その上に赤と黒の直線が交差する、まるで現代アートのインスタレーションのようなドレスであった。日常的なアイテムと幻想的なフォルムを融合させたこの2着ドレスは、「リアル」と「ファンタジー」の境界を曖昧にし、ブランドの姿勢を象徴するようなエンディングを作り上げた。

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森川は、今季からヒュンメルオー(HUMMEL 00)のクリエイティブディレクターも兼任しているが、そのスポーツエッセンスがより自由に、より先鋭的にベイシックスのコレクションに反映されていた。それはただ奇抜であることではなく、着ることで自分の輪郭を更新する行為であり、ベイシックスの提案する「ベーシック」の再定義に他ならない。

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