リック オウエンス(Rick Owens)2026年秋冬 “TOWER”:愛と希望を祈る、現代の鎧

Rick Owens FW26
View Gallery 47 Photos

3月5日(現地時間)、リック オウエンス(Rick Owens)はパリ ファッションウィークにて、2026年秋冬コレクションを発表した。

パリのパレ・ド・トーキョーの煙が満ちた空間に、モデルたちがゆっくりと現れる。その歩みは行進というより、巡礼に近い。今季リック オウエンスが見せたのは、第二章となる「TOWER」。そして「愛と希望への祈り。そして強さと守護」だ

鎧としての衣服

冒頭に現れたのは、光沢を帯びたブルレザー、ボイルドウール、そしてケブラーで構成されたドレス。ケブラーとは鋼鉄の約5倍の引張強度を持つ繊維であり、本来は防護服に用いられる素材だ。リック オウエンスはそれをドレスへと変換することで、一つの問いを突きつける——衣服とは、装飾であるのか、それとも防御線であるのか、と。

クロップドジャケットとロングベストを幾重にも重ねたアウターウェアが塔のフォルムを描き、ワックスドカウハイド、アルパカ、RWS認証ボイルドウールが身体を包む。巨大なフード、彫刻的なケープ、ボリュームを極めたフェルトコート。ルックが連なるほどに、ランウェイは戦士たちの行列のような様相を呈していく。しかしそこには、戦士であることの悲しみも同時に宿っていた。

RICK OWENS WFW26 LOOK 1

RICK OWENS WFW26 LOOK 3

RICK OWENS WFW26 LOOK 10

RICK OWENS WFW26 LOOK 15

手仕事の地層

洗練とは表面だけに宿るものではない。このコレクションが持つ重みの一端は、素材の来歴に刻まれている。

メランジウールは日本・尾州の織物工場で丁寧に織られ、インディゴキャンバスは日本で調達されたのちイタリア・ヴェネト州のウォッシュハウスで表情を与えられた。厚さ8ミリのフェルトジャケットはインド北部ラジャスタン州ビカネールのアトリエで仕立てられ、ヒマラヤウールが混ぜ込まれることで、その表面に偶然が生んだ模様が浮かび上がる。

世界各地の職人の手が、一着の服の中で静かに交差している。リック オウエンスのコレクションは未来的な造形として語られることが多いが、その地層には常にこうした手仕事の時間が積み重なっている。

RICK OWENS WFW26 LOOK 32

RICK OWENS WFW26 LOOK 39

RICK OWENS WFW26 LOOK 41

マレーネ・ディートリヒという魂

今季、リック オウエンスが密かな参照点として据えたのは女優マレーネ・ディートリヒ(Marlene Dietrich)である。

彼は彼女の生涯を三つの段階として捉える。まず、鋼のような光を放つ挑発的なセクシュアル・アイコンとしての時代。次に、戦時下において義務と奉仕の象徴へと変容した時代。そして最後に、シアドレスと巨大な白いコート、ピンクのスポットライトのみで舞台を成立させた、晩年の極めてミニマルなキャバレー公演の時代。

その伝説的なスワンズダウンコートは今回、長い毛足のゴートレザーコートとして現代に蘇った。装飾ではなく、記憶の再解釈として。

ディートリヒとは、リック オウエンスにとって「道徳性と演出性が魅力的に混ざり合い、強い責任感と粘り強さを備えた人物」である。その像は、今季のコレクション全体に流れる精神と、驚くほど自然に重なり合う。

RICK OWENS WFW26 LOOK 4

RICK OWENS WFW26 LOOK 18

RICK OWENS WFW26 LOOK 46

闇の時代のための塔

混乱した世界において、服は何を語ることができるのか。

リック オウエンスの答えは明快で、かつ複雑だ。守ること。しかし同時に、その守りの中に官能と美を宿すこと。ランウェイに立つ女性像は、単なる強さではなく、自らの力の意味を深く理解した存在として描かれる。

「TOWER」——それは愛と希望を守るために人体の上に聳え立つ、現代のための祭壇であり、鎧であった。煙の向こうに立ち上がるその塔は、この時代に最も必要なものを静かに体現していた。

リック オウエンス 2026年秋冬コレクションの全てのルックは以下のギャラリーから。

Copyright © 2026 Oui Speak Fashion. All rights reserved.