「我々人間はAIを恐れるべきなのか?」
日々凄まじいスピードで進化を遂げる「ジェネレーティブAI」について、しばしば人々はこの疑問について議論する。 「ジェネレーティブAI」とは、AI(人工知能)がコンテンツや物事について過去のデータから学習し、それに基づいて創造的かつ現実的な、まったく新しい成果物を生み出す機械学習手法のことだ。
これまでにも新しいテクノロジーの進歩により、私たちの働き方や生活環境はより便利なものにアップデートされてきた。しかし、現在開発されているAI が産業や社会に与えるだろうとされる、潜在的な影響に対する懸念が、新たな高まりを見せていることは確かである。
5月1日(現地時間)、ニューヨークタイムズは、最近グーグル(Google)を辞めた「AIのゴッドファーザー」と呼ばれるジェフリー ヒントン博士(Geoffrey Hinton)へのインタビューを掲載した。ヒントン博士は、AI研究者のパイオニアとして、「ディープラーニング(深層学習)」など多数の関連用語を創ったことでも知られる人物だ。
記事の中でヒントン博士は、「AIが責任を持って開発されなければ、人類に破滅的な結果をもたらし、超知的なコンピュータに乗っ取られる可能性まである」という懸念について語った。彼はAIの危険性について自由に発言できるように、グーグルのエンジニアリングフェローで10年以上キャリアを築き、この分野で最も尊敬される声となった後にグーグルを退社したという。ヒントン博士が「ジェネレーティブAI」の歯止めの効かない急速な進歩に警鐘を鳴らしたことで、それを読んだ読者には激震が走った。ヒントン博士は、「私がやらなかったら、他の誰かがやっただろう、という普通の言い訳で自分を慰めている」と、これまで自身が生み出してきたライフワークを後悔していると述べた。
ここ最近では、Chat GPTなどのAIツールの利便性への注目とともに、それによって生み出される事実とは異なる誤情報の拡散や、AI を悪用した犯罪の増加も大きな懸念事項として挙げられ始めている。米国のバイデン政権では、Chat GPTのような人工知能ツールが差別や有害情報の拡散に使用されることを取り締まるべく、潜在的にリスクのある新しいAIモデルがリリースされる前に認証プロセスを経るべきかどうかなど、説明責任対策と呼ばれるものについての正式な公開意見募集を開始した。
リーバイスは、AI で生成した仮想モデルを採用することで、オンラインショッピングの利用者にリーバイスの衣服を着た様々なタイプの人々を見せ、多様性を高めることを目的としている、と伝えた。
しかしこうした過去の出来事からも分かるように、人々からの反発が起きたとしても、新しい技術の進化を食い止めることは不可能だ。同時に、テクノロジーの進化によって、当然なくなっていく仕事が生まれるだろう。そしてその一方で、これまでにはなかった新しい職業が生まれていくのだ。
過去にOSFで取り上げたように、バーチャル世界でのファッションが注目されると、メタバース上のアバターのファッションをディレクションする為の職業が生まれたり、今シーズンにはニューヨークで初のAIファッションウィーク(AI Fashion Week)が開催され、AIファッションデザイナーによって作り出されたコレクションが発表されたりと、すでにAIに関連する新しい職業で活躍する人々が増えてきた。
ジェネレーティブAI が長期的にファッションの労働力にどのような影響を与えるか、正確に予測することは現段階では不可能だが、間違えなく今後、企業やブランドはAIを導入し、従来の仕事を破壊することで、全く新しい仕事を生み出していく可能性が高い。そうした中で、いかに労働者を置き去りにすることなく、AIを活用した新しい方法で最善の働き方を実現していくかついて、各企業の雇用主は考え始める時だろう。
また、デザイナーがAIを使用した場合、模倣への主張はこれまでと異なる扱いを受けるのだろうか。ジェネレーティブAIが過去の事例を取り込んで新しい事例を生み出す際に、ファッションが知的財産をどのように扱うべきかについても、業界全体で向きあっていく必要が出てくるに違いない。